39 / 76
本編
39 オーランド・シュガー
しおりを挟むロローツィアはオレの婚約者であり、幼馴染でもあり、そして、素晴らしいことに、聖者でもある。
オレはロローツィアと婚約を結べてラッキーだった。ロローツィアはぽやっとしてるように見えて、さっぱりとした気持ちの良いオメガだ。下手に色気付くこともない彼が好ましくて、オレなりに大事にしようと決めていた。
そんなロローツィアは12歳になってから、『ちょっと強くなってくる!ついでに浄化もしてくるね』と頻繁に浄化の旅へ出るようになった。
オレがロローツィアを守ってやるし、せっかく可愛いのだから、そんなに強くならなくていいのに。けれど呑気に応援をしていた。オレもオレで、忙しくなってしまったから。
オレは貴族の子供らしく、社交をしなければならない。数々の茶会で顔を広げていき、母親に連れられて行ったとある茶会で、エカテリーナ様と出会った。
将来の王妃となる、美しく可憐な人。幼なくともすでに完成された美を持っているその人に、『婚約者といられなくて寂しいわよね……』と上目遣いで言われて、舞い上がった。
キスをしたのは多分、オレの方から。だってあんな美しい顔に目を閉じて待たれたら、誰だって行くだろう?
それから秘密の恋人となるのに、時間はかからなかった。結ばれることはないけれど、別に両立してたって何も問題はない。
初めて恋人らしいことが出来て、夢中になっていた。あわよくば側にいたい。オレは彼女の近衛騎士になるため、鍛錬に励んでいた。
ロローツィアのことをほとんど忘れかけていた頃、学園へ入学して気付いた。ロローツィアは、とても可愛くなっていた。オレの自慢の婚約者であり、アルファとして、早くモノにしたいと本能が刺激される。
エカテリーナ様や殿下に『婚約は解消するな』と指示されて、それは言われるまでも無かった。エカテリーナ様とも婚約したいような気もするけど、出来る訳もなく、であれば、ロローツィアがいい。
なのにエカテリーナ様が目の前にいると、もう、そのぷるぷるで艶やかな唇にしか目がいかなくなる。不思議だ。
つまり、ロローツィアが目の前にいれば、ロローツィアが可愛い。エカテリーナ様が目の前にいれば、エカテリーナ様が。
オレは、目の前にいる人を大事にするタイプらしい。
***
いつものように秘密で落ち合い、ひとしきりその唇を堪能した後、エカテリーナ様に愚痴った。
ロローツィアにオレとのキスを拒否されて、落ち込み……というか、苛立っていた。無理やり口付けて、その柔らかさに驚いたのはこちらの方。幼馴染とキスなんてと思いきや、そうではなかった。これなら抱けるかもしれないと思うくらいだったのに、ロローツィアはそうでないことが悔しくてたまらない。
アルファとしての、プライドが揺らぐ。
「ロローツィアのやつ、オレのことなんかどうでもいいらしい……っ、婚約者なのに、他の男とばかり仲良くして……っ」
「まぁ、オーランド様、可哀想……っ!でもそれなら、オーランド様はアルファだもの。オメガに強制ヒートをさせられるのではなくって?それなら絶対、聖者様だって振り向くわ。……ちょっと、ヤキモチ妬いちゃうけど」
可愛らしく唇を尖らせるエカテリーナ様へ、チュッ、と軽くキスをする。
「ロローツィアはまだ、オメガとして未発達なんだ。だから、強制ヒートさせようにも、無理だし、そもそも可哀想だ。はあ、でも、少しくらい意識して欲しいよな……」
「それなら、わたくし、いいの知っているわ!ママとパパが秘密で使っているお薬なんだけど……少しだけ盛り上がるみたいなの。今度、持って来させるわ!」
「えっ……、そ、そうなんだ。夫婦仲、良いんだな……」
「そうかしら?多分、オーランド様のご両親も使っているんじゃない?あっ、聞いてみたらどうかしら。気まずくなければ……」
「きっ、気まずいに決まっているだろっ!分かった、それならお願いする。副作用は……」
「無いに決まってるわよ!じゃなきゃママもパパも使わないでしょっ!」
そんな会話をして、後日エカテリーナ様の遣いという男が薬を置いていった。
だからわくわくしていた。薬は、ほんの少しだけ入れた。それで少しだけロローツィアが興奮したなら、『オーランド、大好き!』となるに違いないと。美人さはエカテリーナ様の方が勝っているが、素朴な可愛さはロローツィアも負けてない。
もし求められたんなら、答えるのは吝かじゃない。婚約者なのだから問題ないし、可愛いロローツィアの身体を好きなように出来ると考えると、興奮した。もちろん逆も然りで、ロローツィアの前にいるオレは、ロローツィアのもの。遠慮なく来てくれ!
ところが、ロローツィアは逃げた。ロローツィアの足が速いことは、よく知っている。追いつけはしないし、何より、平手打ちされたことがショックだった。このオレを、拒絶。そこは、この魅力的なオレに縋り付くところだろう!?
がっかりしたオレは、街に降りてナンパし、軽くお茶をした。少し垢抜けないその子はオレを恥ずかしげに見つめてくるし、可愛く見えてきた。男として求められずに傷ついた心が、癒えていく。
ひとしきりチヤホヤされて満足したオレが寮へ戻ると、衛兵に拘束され、謹慎処分を受けたのだった。
なんでだよっ!?
オレがロローツィアに使った薬は、とても強い違法な媚薬だったらしい。知らなかったとは言え、悪いことをしてしまった。しかし、それなら、ロローツィアは今?
それは教えてくれなかった。
オレにはどうしても、エカテリーナ様がそんな嘘を付くとは思えなかった。だから、きっとあの渡してきた男が裏切ったのだと思った。もしくは、薬を作った奴が。エカテリーナ様では、絶対に、ない。
謹慎期間が明けて学園へ戻ると、オレは『婚約者に薬を盛った野郎』という不名誉な誹りを受けることになった。仕方ない。それは事実だとして受け止めた。けれど、ロローツィアだって悪い。オレを蔑ろにするから!
ロローツィアは最近、妙にグレイリヒト・シュトーレンと仲が良い。ロローツィアは気づいていないが、グレイリヒトの方は確実に、ロローツィアを狙っている。自由時間は囲い込むようにロローツィアに付きっきりで、オレを見つける度に睨んでくるのだ。
もしかすると、ロローツィアが強制ヒートになった時、コイツが相手をしたのかもしれない。そう思うだけでぐらぐらと腹が煮えるようだ。
エカテリーナ様は、オレにヤキモチを妬いてくれるのに。浮気なんかしないのに。あ、殿下?殿下は権力者だから仕方ない。
やっぱり、恋人としてはエカテリーナ様が一番なんだ。
学園では身の置き所が無く、オレは騎士養成学園へ転入することになった。元々騎士を目指していたから、あっさりと転入試験をパスする。
エカテリーナ様とは残念ながら、毎日会うことは出来なくなる。しかし、『最近殿下に怪しまれているみたいだから、今だけ』と言われてしまえば頷くしかない。
転入する前に、ロローツィアを試すことにした。本当にオレのことが好きなら、学園を辞めてついてきてくれるはずだ。エカテリーナ様も、そう賛成してくれた。
しかしロローツィアは、首を横へ振った。やっぱり、ロローツィアはオレを大事にしてくれないのか。腹立たしさと悔しさに、ロローツィアを睨む。けれど、エカテリーナ様が慌てて部屋を出て行ってから、事態が急速に変わっていった。
エカテリーナ様のお父上が、国家転覆罪で捕まったのだ。
***
エカテリーナ様は侯爵令嬢ではなくなり、殿下との婚約も破棄された。それから浄化してもらって、気付く。
オレは、騙されていたんだ!
今思えば、エカテリーナ様を目の前にした時の動悸は、偽物だったんだ。ロローツィアを好きだと思う気持ちだけが、本物だったのに。それにようやく気づいたのだから、今度こそロローツィアを大事にする!
でも、もう、遅かった。
オレもすぐに、ロローツィアとの婚約を破棄された。親父は婚約が解消にならないようにしてくれていたのに、どうやら王妃様による干渉があったらしい。本当に余計なことをと思う。
騎士養成学園に転入をしても、ロローツィアを忘れられない。贈り物をたくさんしているのに、つれないところがむしろ、いい。金に目の眩む奴より余程、好ましいじゃないか。
そうだ、ロローツィアは勤勉だし聖者だし、嫁として最高のオメガ。今考えても、既成事実を作ってでも確実に嫁にするべきだった。
見ていてくれ、ロローツィア。オレ、今度こそお前を大事にする。立派な騎士になって、惚れ直させてやるからなっ!
2,221
あなたにおすすめの小説
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる