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番外編(と言いつつ番号順)
72 小さなロローツィアの冒険(2)
しおりを挟む二人に言われればなんでもやっていた僕だけど、これは違うと思った。頷きかけた自分を否定する。
『い、いやだよ。こんなの、仲間でも、なんか、違うよ』
『昼間たたかってさぁ、疲れたら慰め合うのも仲間じゃねぇ?ロロ、戦ってねぇし分かんないか』
かっちーん。そうイヴァンくんに言われて、ムッとする。だって、僕も戦っている。ミスリルの杖で。
“そっちの小さいのは任せた”って言ったのを、二人は覚えていないのか、それとも『戦う』にカウントしていないのか。小さくてもたくさんいて厄介だったのを、僕がポコポコ倒していたから、二人は大きいのに集中出来たんじゃないか!
それに、僕の魔術が便利だからって四六時中使っていれば、疲れもする。僕だって疲れているのに、まるで“ロロは疲れてないから分からない”みたいな言い方!
抗議している今も尚、僕の体を触る二人が気持ち悪くて身勝手に思えて、……僕はぷっつん、キレた。
『なんなの!これが仲間なら、僕は君たちと仲間を辞める!二人でなぐさめ合っていればいいよ!じゃあね!フンだ!バイバイ!もう知らないんだから!』
『なっ』
『待っ』
ドンッ!と【光の盾】で、天幕から二人を押し出した。ゾワゾワする肌を【清浄】し、きっちりと衣服を身につけて、家へワープした。
夜中だったけれど母さんに泣きついて、こんなことがあったんだよ何あれ、とぷんぷん文句を言って、母さんが青ざめていたのが印象的だ。
後になってようやく二人に『強姦』されかけたんだと気付き、衝撃と言ったら無かった。僕は普通に前世の感じ、つまり普通の男として生きていたつもりなんだけど、この世界ではもっと警戒して生きなくちゃいけないんだと知った。
それきり、あの二人には会っていない。ギルドにもパーティー脱退の連絡をしたし、その地の浄化は超特急で終わらせた。
三人でダラダラ進んで、遊んだりもして楽しかったのに。思い出を汚された気分で、最悪だった。
またあんなことになるかと思ったら誰かと冒険をするのも嫌になって、一人で浄化して回った。だって夜は家にワープすればいいだけ。野営をするのは、周りに人がいない時に限定した。
たまに一人で冒険者活動をしている人もいて、目的地までは一緒に歩いたりもしたけれど、やっぱり大半は僕を便利に使おうとしたり、なんだかイヤーな感じで触ってきたりするので、パーティーを組むことは諦めた。
グレイと出会うまでは。
***
僕が話し終わるまで、グレイはずっと僕の背中を摩ってくれた。はぁ、と息を吐くと、僕を膝に乗せてぎゅっと温めてくれる。
「それは、辛かったな……仲間だったのに」
「ありがとう……今思えば、僕、あれがきっかけでオメガらしくならないようにって、一生懸命鍛えすぎた気がする」
「それも一つの防衛手段だな。大抵のオメガは家に篭ったりアルファと結婚をする場合が多いと聞くが」
「ふふ。僕、強いからね」
グレイの手が僕の髪を撫でた。優しい手付きに下心は感じない。グレイなら、別にいいのに。
優しいなぁ、とほっこりして顔を上げると。
「君は、強い。だが、これからは俺がいるのだから、頼って欲しい……とりあえず元仲間の名前は、テトとイヴァンだったか?」
そう確認するグレイの背後に、仁王像が見えた気がした。
***
ロローツィアにトラウマを植え付けた不届者の現在ーーーーCランク冒険者で燻っていた。
何故なら、ロローツィアの援護に慣れていた彼らは後遺症の残る怪我をし、ろくに動かない足で細々と冒険者をやっているからだ。
それでも辞められないのは、その怪我の薬代がかかるから。
ロローツィアと旅をしていたのは、3年前の数ヶ月だけ。巷で有名な『聖者』の正体はロローツィアだったのだと、知っている。そして、後悔していた。
もし欲張らずに彼を仲間としたままだったなら、どれだけ活躍していたことだろうか、と。
身体まで欲したのは悪手だった。ちょうどその時期、精通したばかりのテトとイヴァンは、近くに柔らかそうなロローツィアがいたことに気付いてしまったのだ。
ロローツィアの日課としている柔軟体操。そして、たまに見つける泉で遊ぶ時。チラリと見てはそわそわしていた。
単なる好奇心。少しくらい良いと思った。オメガの方も気持ちよくなるのだから、ウィンウィンだとさえ考えていたのだ。
日々ギリギリの生活で、たまに安い酒を頼む。ちびりちびりと大切に飲みながら、二人はかつての栄光をよく話した。
「本当に、ロロは良かったのにね。回復役に薬代、荷物係、食事係、盾役、小物の討伐も。そんな有用なやつ、おれたちの仲間になってくれない」
「この足さえ治れば……ロロは、嫁にしておくべきだった」
「ああ……。あのまま仲良く続けていたら、そういう未来もあったのかもしれないね……、ほら、アネッサの所みたいに、一妻多夫でさ……」
「ロロ、優しいからさ……ばったり会ったら、また仲良くしてくんねーかな……」
「それは、ない」
そこに、一人の闖入者が来た。薄汚い酒屋に不釣り合いの、高位冒険者の風格。イヴァンとテトは瞬時に黙り、隣へ来た見知らぬ男をこっそり観察する。
装備はローブで隠されてはいるものの、光り輝き方、緻密な装飾、重厚な重みの音からして、間違いなく前線を担う冒険者だった。深くフードを被り、マスクさえしているのに、何故か色気のようなものが漂う。
「貴様らが、聖者の過去を教えると言って小話をネタに小遣い稼ぎをしているという奴らか。今後一切、その口を塞いでもらおう」
「「……っ!」」
二人が言葉を発せられなかったのは、その男の言葉が『死』を意味するものだと感じたからだ。一瞬で上顎から斬り飛ばされる幻視をし、抱き合って怯える。
しかし、男は落ち着き払って二枚の用紙を差し出しただけだった。
「誓約書だ。サインをしてもらおう」
「そ、それでおれたちは……」
「ああ、許してやろう」
二人はホッとして急いで万年筆を動かす。ロローツィアについて、聖者について、今後記憶を無くすということに、同意をする。
誓約書の文字も読まずに必死にサインをする二人に、男は低く笑った。
「ロローツィアは、俺の婚約者だ。想像上でも、言葉の上でも、穢されるなど許してはおけない」
「え……、こん、婚約?」
「ロローツィアを泣かせるのも、抱くのも、俺一人で十分だ」
え、と聞き返す二人だったが、もう既に誓約書にサインをし終えていた。
壮絶な色気を湛えた男は、パンッ!と音と共に二人の口へ何かを投げ入れる。勢いのまま何かを飲み込み、一瞬意識を失った二人が目を覚ました時、男はもう消えていた。
「……なんだったんだ?」
「金は……取られていない。酒もまだあるな。……ところでおれたち、なんでまだ冒険者をやっているんだったっけ?」
「……そういえば、そうだな。他の職業の方が稼げそうだよな……?」
「そうしようぜ。思い切ってカフェの店員とかよ!カワイーお嬢さんと知り合いになれるかもしれねぇ」
「いいな!」
失った記憶のことなど気付きもしない二人は、身の丈に合う未来に向けてようやく、動き出す。
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