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しおりを挟む「聞いてくれ!」
どうしてもこればっかりは消化できない。
胃から迫り上がって漏れる事態になる3秒前。
俺は親友に相談する程までに、追い込まれていた。
「マジで秘密にして欲しいんだけど、その上で聞いて欲しい」
「君がそういう時ってけっこーしょうもない気がするけど、分かったよ、レイジーン」
誰にも聞かれることのないように、学園の屋上へと連れてきた親友。バルカスは、へいへいと軽い相槌を打った。
俺の悩みは本当に逼迫していたから、バルカスのそんな態度なんか気にせず、声を顰めて話し始める。
「アイツが、俺のシャワータイムに侵入してくるんだ」
バルカスが変な顔をした。聞け、最後まで聞け。
「まず事の始まりは多分、三ヶ月前くらい。
俺の同室のアイツ、知ってるだろ?ロドリック・シルファ。俺がシャワー浴びてる時にさ、『ちょっと用を足したい』て言うから、『おう、漏らすなよ』って答えたんだ。
ほら、寮のシャワールームって便器と一緒になってて、間にはガラスの扉しかないだろ。つまり丸見えなんだよ、お互い。
俺、気ぃ遣ってシャワーの勢い強くしたり、アイツの方見ないようにしてやったんだ。裸見られるより、用を足す姿見られる方が嫌だろうと思って。
その時は全く気にしなかった。でも、それから半月、一週間、三日……って、段々とシャワー中に入ってくることが多くなった。一ヶ月前くらいには、もうほとんど毎日入ってくることに気が付いたんだ。
俺のシャワー時間さぁ、そりゃこの銀髪のキューティクルを死守しないといけないから、ちょっとは長いかもしれねえ。けどさ、たかだか10分くらいなんだよ。そんな毎回待てなくなるなんて、おかしいだろ?
だから俺、ちょっと妙だな、って思って『俺がシャワー入る前に行っとけよ』て言うようにしたんだ。そしたらあいつ、『ああ、今は大丈夫だ』っつう。ああわかってくれたか、って思うじゃん?
ところがどっこい。アイツやっぱり、入ってくるんだよ。俺呆れてさ、ついついロドリックの方見たら……あいつ、俺の方ガン見してんの。
いやいや、俺の配慮はなんだった?アイツもう、目が飛び出そうなくらい俺の方見てるからさ、流石に恥ずかしくなって『こっち見んな!』っつったの。そしたらなんて言ったと思う?『壁を見ている』って宣うんだ!
はぁ?って思ったよ。なんでわざわざ俺の向こう側の壁見てんだよ!って。
でもさ、そう言われたら俺、なんだか自意識過剰みてぇじゃん?『そうか……』ってまたシャワー浴びるんだけど、やっぱり一度気になるとすげー視線な気がしてくる訳。
だから今度は、シャワールームのガラス扉をどうにかしようと思ったんだ。水垢とか汚れ付けたら曇るだろ、って。で、わざと水を多めにかけたり、石鹸カス付けたりしたんだ。
でも数日経っても全然曇らない。それどころかピッカピカで汚れ一つついてない。おかしいよな?よく観察したら、アイツ…………毎日!シャワーの後に掃除してやがった。
それがシャワールームのガラス扉だけだったなら俺も文句言えるんだけどさ、アイツ感心するくれー他も綺麗にしてくれてんの。洗面台とか便器とかだけじゃなくて、ソファまでなんか柔らけー布巾で拭ったりしてんの。アイツ本当に公爵令息か?
だから俺も文句言えないじゃん。ってか俺も掃除しなきゃいけないのに、アイツやらなくて良いって言うからなんか申し訳ねーしありがてーし。
でもそれとこれとは別じゃん?俺の裸なんか価値はねーけど、見られてっと落ち着かねぇし、心のシャワーができない。リラックス出来ないんだよ!
もういよいよガラス扉に細工しようとしたんだ。やすり買って来て、表面削ったらモザイクみたいになるかと思って。コッソリじわじわやってみたんだ、それが三日前。
やすりって結構力要るし、すぐ使えなくなるしであんまり進まねぇけど、やっと股間覆えるくらいはザラザラになってきたな、って思ってたら、昨日。
帰って来たら、ガラス扉が…………新品になってたんだ。
思わず二度見したよ。あんだけ苦労したのに、もう傷の一つもないクリアでまっさらな状態になってさ。『これどうした?』って聞いたら、『古くなっていたから、取り替えといた』って言うんだ。それもアイツの自費で。
ありえねーだろ?確かにアイツは公爵令息だし小遣いは多いだろうけど、俺が傷付けたガラスをアイツが支払って新品に変えちまった。そんなんされたらもうガラス扉に細工出来ないじゃん!
だから今朝は、もういよいよ、ガラス扉の前に濡れた紙をいくつも張り付けたんだ。わかるだろ?もうそこまでしたら、ああ見られるの嫌なんだなって空気読むよな?
そしたらアイツ、秒で取りやがった。『汚い』とか言って!」
「どうどうどう……レイジーン、相当溜まってるね……」
「たりめーだろ!癒しのシャワータイムを邪魔されてんだぞ!」
むしゃくしゃして、頭をガシガシと掻く。自慢の銀髪が乱れてしまうが、それどころじゃない。
「そんなに嫌なら、部屋替えて貰えばいいじゃないか。というか、本人に伝えたのかい?」
バルカスはよしよしと俺の髪を直してくれながら、至極もっともな事を言う。
それが言えたら苦労はしてない!
「いや。同室はアイツがいいんだよ。掃除もしてくれるし忘れ物チェックもしてくれるし、風邪引いた時の看病なんて最高に優しいし、やっぱり天才で秀才だから一緒に勉強しててタメになることが多いし。嫌って訳じゃないんだ。シャワー問題だけなんだよ」
「へぇ……でもやっぱり、言うべきじゃない?現にレイジーンは、嫌な思いをしているんだから。その分だけシルファ様も、飲み込んでもらうべきだよ」
手元が暇なのか、さらさらと銀髪を結えられる。バルカスは俺と同じ、子爵家非嫡男。身の回りのことは自分で出来るよう躾けられている。だからこそ、俺とは親友のように仲良くなれた。
「うーん……じゃあ、なんて言ったら良いと思う?あんまり角は立たせたくないんだ。アイツ、基本的には良いやつだし」
「でも、要は覗きってことでしょ?致命的じゃない?」
そうバルカスに言われ、俺はぐっと唸った。
「覗き……って言うか、ガン見だから違う」
「よりタチ悪いよ?」
悪く言わないでくれ。俺はロドリックを傷付けたい訳じゃないんだ。
でもやっぱり、本人に言うしかないかなぁ……。
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