2 / 17
2
しおりを挟むバルカスと話をして、俺はとうとうロドリックに直接文句を言うことを決心した。
こんなに気分が重いのは、向こうが公爵令息、俺が子爵の三男だからと言う訳じゃない。俺とアイツの付き合いはもうすぐ二年になろうとしていて、同室ということもあってかなり親しくしていると思っている。
この学園の寮は、成績順で組み分けられる。アイツは一位、俺は二位。だからこそアイツのことは良きライバルとして、切磋琢磨してきた。
約二年、こんな変なトラブルなく過ごして来たんだ。他のヤツの同居人の話を聞くと、モノを片付けなくてイライラするとか、生活音が大きくてイライラするとかは本当によく聞く話。その点、ロドリックは全然そんな事なく、『俺ってばラッキーだ』とさえ思っていた。
これまで色々やってきたが全然解決しない。
これはもう、本人に言うしかない。
「なぁ、ロドリック」
「なんだ、レイ」
ロドリックは俺のことをレイと呼ぶ。これも、そういえば少し前からかもしれない。特に気にならなかったから放置していた。
課題をすらすらと解いていたロドリックは顔を上げ、俺を見た。紫にも見える濃紺の髪が流れ、艶やかにヤツの耳にかかる。同じく紫紺の瞳は、俺をまっすぐに見た。
くそう、男なのになんてツラが美しいのか。この顔面を見るとついつい『まぁ……いっか』と思わせる何かがあるので、負けないように、俺は少し視線をずらして切り出した。
「俺さ……、お前に言いたいことがあるんだ」
「……なんだ」
「えと……茶化さないで、聞いて欲しい」
俺がそう言うと、ロドリックは僅かに頬を赤らめた。そしてコホンと咳払いをし、俺の前へ身体ごと向き直る。
「分かった。何でも言うといい。何があろうと受け入れる」
「……やっぱり恥ずかしくなってきた……」
「そんな!いや……いくらでも待つ。私は待てる男だ」
ロドリックには珍しく、そわそわしている。何だこいつ、俺からのクレームを待っていたのか?期待しているような目の輝きだ。
それでもコイツ、はっきり言わないと分からないんだ。そう、ここで挫けたらまた悩むことになる。よし、言え、俺!
「俺さ……その、言いにくいんだけど……」
「よし分かった」
「え?」
何故か何も言っていないのに了承された。はて?
怪訝な顔をしていると、ロドリックは俺の両の肩を掴み、熱っぽく潤んだ瞳で言ってくる。
「もういい。君の気持ちは知っている。ようやくこの日が来た……、気持ちが通じて嬉しい、レイ」
「???は???え、」
ぎゅうっ、とハグをされる。き、キツイ。試合で勝ったとかそういうハグ以外は要らないんだけど、何のハグなのこれ?――――あ!きっと、交渉成立のハグか!
「わ、分かってくれたのか?俺、てっきり言わないと分からないって思ってて」
「もちろんだ。私の察しの良さは分かっているだろう?」
その言葉を聞いて、はーっ、と息を吐いた。
そっか、良かった!やっぱり学年一位の賢さは伊達じゃない!
「良かった!じゃあ今日から、俺がシャワー使っている間は遠慮してくれよ!」
「…………ん?」
ピタリ、とロドリックの動きが止まる。
けれど俺はここ最近の悩みが消えたと思い、ついすらすらと喋り倒してしまう。
「はぁ、こんなことならもっと早く言っておけば良かったぜ!もう、こっちが裸なのに服を着ているやつに見られてるってすげー落ち着かねぇんだよ。逆なら……って俺はお前ほどお腹ゆるくねーからしないけどよ!」
「れ、レイ……」
「大浴場とかよ、みんな裸なら気になんねーけど……俺はお前のキバッてる姿なんか見たくねーし見せたくもないだろうから見ないようにしてたのに、全く、もう少し気を遣えよ!ははっ」
ポンポン、とロドリックの背中を叩く。ガバッと体を離されて、話は終わりか、と立ち上がりかけた時、ぐいと腕を引かれた。
……さすが騎士科学年一位。力も桁違いだ。
「…………レイ。じゃあ、私も裸なら気にならないんだな?」
で、何で俺、クソせまいシャワールームに男二人で入ってるんだ……?
「ロドリック……なんか違う気がするんだけど」
「そうか?これで何もかも解決するだろう」
「そういうものなのか……?」
ロドリックが言うには、同時にシャワーに入れば、ロドリックの排泄姿を見なくていいし、お互い裸で気にしなくていいし、ロドリックが俺の背面にいるからヤツの裸を見なくて済む、という一石三鳥らしい。
んで、俺の身長173。ロドリックは188。そこそこデカくて騎士科の俺たちが一緒に入れば、常に体のどこかがぶつかり合うことになる訳。
シャワーヘッドを操作したいから俺が前なのはいいけど、後ろにカッチコチで俺よりタッパのある男がズーンと控えてるんだ。
確かに扉越しにガン見されるよりはマシだが、これのどこがリラックス出来ると?
「お前、もっと後ろにいけよ!ほら、前に来るから俺とぶつかっちまうんだろ!」
「嫌だ、壁が冷たい」
「そんくらい我慢しろよ!ったく、これじゃ足洗いたくても、しゃがめねーしよ……」
「それじゃあ私が洗ってやる」
「はあっ!?」
ロドリックは柔らかな布巾――――絶対公爵家で使ってるやつだ――――で石鹸を泡立てると、俺の尻へとぴたり、当てた。
1,116
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる