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28 約束
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またいつもの病院だった。
暮れかけた赤い空を眺めながら、僕は目を覚ました。
「気が付いたみたいね」芹那の声がした。
「ぼ、僕はいったい……」
「土蜘蛛と戦ったのよ」
「土蜘蛛と……」僕は記憶を手探りしたが、ピリピリと頭痛がしただけで、何も思い出すことができなかった。
「土蜘蛛は……、どうなった?」
「死んだわ。和也がやっつけたんでしょ?」
「僕が……」やはり何も思い出せない。
「ねえ。香奈子と、なにがあったの?」
「香奈子? 香奈子に何かあったの?」
「覚えてないのね……。じゃあいいわ」なんだか芹那の態度が素っ気ない。気のせいだろうか。
「よくないよ、どうしたの? 香奈子に何かあったの?」
「和也の横に倒れていたのよ」
「僕の、横に?」
「ええ。息が無かったわ」
僕は胸を押し付けられたように息ができなくなった。
「心配しないで。ちゃんと私が治してあげた。でも……」
「でも?」
「酷い状態だったわ」
「酷いって……?」
「私が駆けつけた時には、すでに病院に担ぎ込まれていて、心肺停止状態でもう蘇生も諦められていた。それを私が無理やり香奈子のところに行って治したの。見た瞬間、駄目だと思った。もう、見ても香奈子とわからないような状態で……、先生は内臓が破裂しているって言って、体中の骨が折れていて、失血も致死量で、でも抱きしめたらまだ温かくて……」そこまで言うと、芹那は手で顔を覆って泣き出した。
「か、香奈子は今どこにいるの?」
「この病院よ。違う部屋に入院してる」
「今、どう言う状態?」
「落ち着いてるわ。私がずっと抱きしめていたもの」
「僕が……、僕が悪いんだ」
「どうして香奈子を連れて行ったりしたの?」
それに対して、僕は何も言い訳ができなかった。
「ごめんなさい。責めるような言い方して。和也だって、命がけで戦ったのよね」
「僕はあの時……、僕はあの時……」
「今日はもう、帰るわね」
「芹那?」
「なあに?」
「ありがとう。香奈子を救ってくれて」
「和也のためじゃないわ」
「そうかも知れないけど、結果として、もし香奈子が死んでいたら、僕は自分を許せなかった」
「そう。そう言う意味なら、さっきのありがとうは頂いておくわ」
「うん」
「和也も、早く元気になってね」
「わかった」
「それじゃあ」
僕はそれから昨日の戦いのことを一から思い出していった。
ハクビシンの雷の音、香奈子が家にやってきたこと、二人で電車に乗って戦いに行ったこと、二人の会話、そして土蜘蛛との戦い……。
僕は酷い頭痛がした。
まるで脊髄に長い釘を打ち込まれたような頭痛だった。
吐き気がした。
そして思い出した。
僕が最後に戦った相手……、それは香奈子だった。
夜中に目を覚ました。
空にはちゃんと星が見えた。
吸い込む空気が少し冷たかった。
窓がほんの少し開いていたのだ。
そこに香奈子がいた。
白い入院服を着て、椅子に座り、僕と同じように窓の外に星空を見ていた。
「香奈子……」
その声に香奈子はゆっくりと振り向いた。
にっこりと、優しい笑顔を向けてくれた。
けれど、僕はその笑顔をまともに見ることができなかった。
僕は、香奈子を殺したんだ……。
芹那のおかげで生き返ったとは言え、一番最悪の結果を招いてしまった。
「和也、やっぱり強かったよ」
「僕は……、その……」僕はもうすべてを思い出していた。香奈子に手をかけ、殺してしまった時のことも。目を閉じて、瞼に力を入れれば入れるほど、その時の記憶が鮮明に瞼の裏に蘇った。
「和也、ありがとう」
「な、なにを……」
「ちゃんと勝ってくれたね、約束通り」
「そんなことより、僕は香奈子を!」
「それは最初から私が覚悟してたこと。それより和也がちゃんと元通りになってくれたことの方が私は嬉しい」
「そんなこと言われても……」
「気にしなくていい。和也は誰よりも、どんな化け物よりも強くいて。そしてまた自分を見失いそうになったら、私が助けてあげる」
「もう、もうそんなことできるわけないよ!」
「できるわ。やらなくちゃいけないの」
「香奈子は、どうしてそんなに優しいんだ? 僕なんかに、僕なんかに……」
「私の聞きたいのはそんなことじゃないの。私、本気の和也に一本取ったんだよ? 褒めてくれてもいいんじゃない?」
「え、うん。やっぱり香奈子には勝てなかった。強かったよ、香奈子」
「それだけ?」
「ありがとう、香奈子。僕のこと、助けてくれて」
「うん。それが一番聞きたかった」そう言って香奈子は椅子から立ち上がると、僕のベッドに横たわり、胸に頭を預けてきた。
「じゃあ、ご褒美に、ちゃんと約束守ってね」
「約束?」
「私を彼女にしてください」
僕は胸を締め付けられ、どうにもやり場のない思いに戸惑いながら、香奈子の細い体を抱きしめ、言った。「わかった。香奈子、大事にするよ」
「うん」香奈子は顔を上げて僕を見た。鼻先が触れ合い、香奈子の吐いた息を吸い込みながら、僕は香奈子にキスをした。
「ねえ?」香奈子はそっと唇を離して言った。
「なに?」
「それだけじゃいや」
「え?」
「私を、抱いてください……」
暮れかけた赤い空を眺めながら、僕は目を覚ました。
「気が付いたみたいね」芹那の声がした。
「ぼ、僕はいったい……」
「土蜘蛛と戦ったのよ」
「土蜘蛛と……」僕は記憶を手探りしたが、ピリピリと頭痛がしただけで、何も思い出すことができなかった。
「土蜘蛛は……、どうなった?」
「死んだわ。和也がやっつけたんでしょ?」
「僕が……」やはり何も思い出せない。
「ねえ。香奈子と、なにがあったの?」
「香奈子? 香奈子に何かあったの?」
「覚えてないのね……。じゃあいいわ」なんだか芹那の態度が素っ気ない。気のせいだろうか。
「よくないよ、どうしたの? 香奈子に何かあったの?」
「和也の横に倒れていたのよ」
「僕の、横に?」
「ええ。息が無かったわ」
僕は胸を押し付けられたように息ができなくなった。
「心配しないで。ちゃんと私が治してあげた。でも……」
「でも?」
「酷い状態だったわ」
「酷いって……?」
「私が駆けつけた時には、すでに病院に担ぎ込まれていて、心肺停止状態でもう蘇生も諦められていた。それを私が無理やり香奈子のところに行って治したの。見た瞬間、駄目だと思った。もう、見ても香奈子とわからないような状態で……、先生は内臓が破裂しているって言って、体中の骨が折れていて、失血も致死量で、でも抱きしめたらまだ温かくて……」そこまで言うと、芹那は手で顔を覆って泣き出した。
「か、香奈子は今どこにいるの?」
「この病院よ。違う部屋に入院してる」
「今、どう言う状態?」
「落ち着いてるわ。私がずっと抱きしめていたもの」
「僕が……、僕が悪いんだ」
「どうして香奈子を連れて行ったりしたの?」
それに対して、僕は何も言い訳ができなかった。
「ごめんなさい。責めるような言い方して。和也だって、命がけで戦ったのよね」
「僕はあの時……、僕はあの時……」
「今日はもう、帰るわね」
「芹那?」
「なあに?」
「ありがとう。香奈子を救ってくれて」
「和也のためじゃないわ」
「そうかも知れないけど、結果として、もし香奈子が死んでいたら、僕は自分を許せなかった」
「そう。そう言う意味なら、さっきのありがとうは頂いておくわ」
「うん」
「和也も、早く元気になってね」
「わかった」
「それじゃあ」
僕はそれから昨日の戦いのことを一から思い出していった。
ハクビシンの雷の音、香奈子が家にやってきたこと、二人で電車に乗って戦いに行ったこと、二人の会話、そして土蜘蛛との戦い……。
僕は酷い頭痛がした。
まるで脊髄に長い釘を打ち込まれたような頭痛だった。
吐き気がした。
そして思い出した。
僕が最後に戦った相手……、それは香奈子だった。
夜中に目を覚ました。
空にはちゃんと星が見えた。
吸い込む空気が少し冷たかった。
窓がほんの少し開いていたのだ。
そこに香奈子がいた。
白い入院服を着て、椅子に座り、僕と同じように窓の外に星空を見ていた。
「香奈子……」
その声に香奈子はゆっくりと振り向いた。
にっこりと、優しい笑顔を向けてくれた。
けれど、僕はその笑顔をまともに見ることができなかった。
僕は、香奈子を殺したんだ……。
芹那のおかげで生き返ったとは言え、一番最悪の結果を招いてしまった。
「和也、やっぱり強かったよ」
「僕は……、その……」僕はもうすべてを思い出していた。香奈子に手をかけ、殺してしまった時のことも。目を閉じて、瞼に力を入れれば入れるほど、その時の記憶が鮮明に瞼の裏に蘇った。
「和也、ありがとう」
「な、なにを……」
「ちゃんと勝ってくれたね、約束通り」
「そんなことより、僕は香奈子を!」
「それは最初から私が覚悟してたこと。それより和也がちゃんと元通りになってくれたことの方が私は嬉しい」
「そんなこと言われても……」
「気にしなくていい。和也は誰よりも、どんな化け物よりも強くいて。そしてまた自分を見失いそうになったら、私が助けてあげる」
「もう、もうそんなことできるわけないよ!」
「できるわ。やらなくちゃいけないの」
「香奈子は、どうしてそんなに優しいんだ? 僕なんかに、僕なんかに……」
「私の聞きたいのはそんなことじゃないの。私、本気の和也に一本取ったんだよ? 褒めてくれてもいいんじゃない?」
「え、うん。やっぱり香奈子には勝てなかった。強かったよ、香奈子」
「それだけ?」
「ありがとう、香奈子。僕のこと、助けてくれて」
「うん。それが一番聞きたかった」そう言って香奈子は椅子から立ち上がると、僕のベッドに横たわり、胸に頭を預けてきた。
「じゃあ、ご褒美に、ちゃんと約束守ってね」
「約束?」
「私を彼女にしてください」
僕は胸を締め付けられ、どうにもやり場のない思いに戸惑いながら、香奈子の細い体を抱きしめ、言った。「わかった。香奈子、大事にするよ」
「うん」香奈子は顔を上げて僕を見た。鼻先が触れ合い、香奈子の吐いた息を吸い込みながら、僕は香奈子にキスをした。
「ねえ?」香奈子はそっと唇を離して言った。
「なに?」
「それだけじゃいや」
「え?」
「私を、抱いてください……」
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