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29 契り
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「ねえ、和也! 和也! ちょっと来て!」
夜中にたたき起こされるようにして僕は芹那の部屋に駆け込んだ。
「ねえ、これ見て……」
窓の外には見たことのないほど大きな月が浮かんでいた。そしてその月明かりを受けるように、豊玉姫の石像が置いてあった。
「こ、これって……」豊玉姫の石像が、なんだか透けて見えた。正確には、豊玉姫を包む石の殻が透けて、中にいる豊玉姫が見えているような状態だった。それはまるで蝶の蛹のようでもあった。それに、月明かりで分かりづらかったけど、うっすらと金色の靄が包んでいるのもわかる。
「ね、どうなんだろ。このまま元の姿に戻ってくれるのかな」
「わからない。わからないけど、これならきっと……」
「そうよねそうよね! きっとうまく行ってるのよね!」
僕と芹那はそのまま豊玉姫の石像を見守った。透けた石の中に見えるその姿は美しく、まるで本当に蝶に姿を変えても驚かないほどの容姿だった。
「なんだか子供の頃に、セミの脱皮を観察してた時のような気分だよ」
「ちょっと変なこと思い出さないでよ。何よセミって……」
「いや、その、感動したってことを伝えたかったんだよ」
「それにしたって脱皮じゃないわよ。聞こえてたら怒るわよ? きっと」
それはまずいと思い、僕は口をつぐんだ。
「私の予想だと、明日には元の姿に戻るんじゃないかと思うのよ」
「どうして明日なの?」
「いろいろ調べたのよ、月のこと。そしたらね、月齢で行くと、明日が満月なの」
「明日? 今日でも十分満月なのに」僕は窓の外の月を見てそう言った。
「そう見えるでしょ? でも違うのよ。本当の満月は明日なの」
「それにしても、どうやったの?」
「わからないのよ、私にも。ただ、新月の時から毎日月の光にあてて、抱きしめながら話しかけてた。ただそれだけよ?」
次の日に学校に行くと、「ほら、これ和也の分だ」と言われ、矢上にクラッカーを渡された。
「え?」と思い、それをどうしたものかと眺めていると、佐藤がやってきて、「今日は山之内君の誕生日なんだよ。教室に入ってきたらみんなでそれを鳴らすんだ」と説明してくれた。
「山之内! 誕生日、おめでとおおおおおお!!!」と山之内が入って来るなり、矢上が机に登ってかけ声をあげた。それに合わせてみんな「おめでとう!」と叫び、手に持ったクラッカーを鳴らした。その音を聞いてか、隣のクラスからも生徒たちが駆けつけ、拍手が沸き起こった。山之内君はみんなに囲まれ、照れくさそうだ。
「おいおい、ほどほどにな!」たまたま通りかかった先生も、この騒ぎを怒るわけでもなく、笑顔で見過ごしてくれた。
「和也はこんな光景、見るの初めてだろ? 誰かが誕生日になるたび、みんなでこうやって祝うんだ。クラスメイトがちゃんと一年を生き残れたことを祝うためにね」佐藤がそう言って教えてくれた。
放課後になると、山之内の誕生日を祝うため、みんなでファミレスに立ち寄った。佐藤は意図してか、僕の隣に座ってきた。
香奈子は隣のテーブルの斜め向かいに座っている。あの日以来、なんだか照れくさくてほとんど話せていない。
「香奈子ちゃんと、なにかあっただろ」料理を食べ始めると、佐藤が目ざとくそう聞いてきた。僕は思わず食べかけのグラタンを吹き出しそうになった。
「え、いや、別に何もないよ……」佐藤はどうしてそのことを聞いてきたんだろう。何を知ってるんだ? と言うか、僕と香奈子のつながりは、まだクラスの誰にも言ってないはずなんだけど。
「別に変なことを詮索するつもりはないんだ。ただ……」
「ただ?」
「香奈子ちゃんを見てて気づかないのか?」
「気付かないって、何を?」
佐藤は僕がとぼけていると思ったのか、じっと三秒ほど僕の目を見つめた。
「香奈子ちゃん、神の光を身に着け始めてる」
「神の、光?」
「そうさ。和也だってあるだろ、光の粒や、霧のようなものが体を覆うことが」
「え、あ、ああ……」それのことか。でもそれが香奈子にって……。
「普通の人には見えない。でも同じ神の力を持つ者同士なら見えるはずだ」そう言われ、僕は香奈子の方をじっと見つめた。
ふと香奈子は僕の視線に気づいたのか目を僕の方に向け、一瞬目が合うと、恥ずかしそうにうつむいて顔を赤らめた。そのせいでなんだか僕まで照れくさくなってしまった。それを悟られまいと僕は平静を装い、佐藤に言った。「べ、別に普通に見えるけど」
「いつも出てるわけじゃないよ。本人も気づいているかどうかわからない。ただ、ふとした拍子に漏れ出るんだ。体からね」
「でも、いったいどうして香奈子が? 香奈子が神の末裔だって言うのか?」
「いや、そうじゃない。香奈子ちゃんは、れっきとした人間だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「じゃあどうして……」
「それは和也が一番よく知ってるんじゃないのかい?」
「僕が? なにを?」
「ったく。神と人が契りを交わすと、人は神に近い存在になる」
そう言えば、スサノオが似たようなことを言っていたような気がする。
「これ以上は自分で考えてくれ。僕も言うのは恥ずかしい」
そう言われて僕も妙に恥ずかしくなった。
夜中にたたき起こされるようにして僕は芹那の部屋に駆け込んだ。
「ねえ、これ見て……」
窓の外には見たことのないほど大きな月が浮かんでいた。そしてその月明かりを受けるように、豊玉姫の石像が置いてあった。
「こ、これって……」豊玉姫の石像が、なんだか透けて見えた。正確には、豊玉姫を包む石の殻が透けて、中にいる豊玉姫が見えているような状態だった。それはまるで蝶の蛹のようでもあった。それに、月明かりで分かりづらかったけど、うっすらと金色の靄が包んでいるのもわかる。
「ね、どうなんだろ。このまま元の姿に戻ってくれるのかな」
「わからない。わからないけど、これならきっと……」
「そうよねそうよね! きっとうまく行ってるのよね!」
僕と芹那はそのまま豊玉姫の石像を見守った。透けた石の中に見えるその姿は美しく、まるで本当に蝶に姿を変えても驚かないほどの容姿だった。
「なんだか子供の頃に、セミの脱皮を観察してた時のような気分だよ」
「ちょっと変なこと思い出さないでよ。何よセミって……」
「いや、その、感動したってことを伝えたかったんだよ」
「それにしたって脱皮じゃないわよ。聞こえてたら怒るわよ? きっと」
それはまずいと思い、僕は口をつぐんだ。
「私の予想だと、明日には元の姿に戻るんじゃないかと思うのよ」
「どうして明日なの?」
「いろいろ調べたのよ、月のこと。そしたらね、月齢で行くと、明日が満月なの」
「明日? 今日でも十分満月なのに」僕は窓の外の月を見てそう言った。
「そう見えるでしょ? でも違うのよ。本当の満月は明日なの」
「それにしても、どうやったの?」
「わからないのよ、私にも。ただ、新月の時から毎日月の光にあてて、抱きしめながら話しかけてた。ただそれだけよ?」
次の日に学校に行くと、「ほら、これ和也の分だ」と言われ、矢上にクラッカーを渡された。
「え?」と思い、それをどうしたものかと眺めていると、佐藤がやってきて、「今日は山之内君の誕生日なんだよ。教室に入ってきたらみんなでそれを鳴らすんだ」と説明してくれた。
「山之内! 誕生日、おめでとおおおおおお!!!」と山之内が入って来るなり、矢上が机に登ってかけ声をあげた。それに合わせてみんな「おめでとう!」と叫び、手に持ったクラッカーを鳴らした。その音を聞いてか、隣のクラスからも生徒たちが駆けつけ、拍手が沸き起こった。山之内君はみんなに囲まれ、照れくさそうだ。
「おいおい、ほどほどにな!」たまたま通りかかった先生も、この騒ぎを怒るわけでもなく、笑顔で見過ごしてくれた。
「和也はこんな光景、見るの初めてだろ? 誰かが誕生日になるたび、みんなでこうやって祝うんだ。クラスメイトがちゃんと一年を生き残れたことを祝うためにね」佐藤がそう言って教えてくれた。
放課後になると、山之内の誕生日を祝うため、みんなでファミレスに立ち寄った。佐藤は意図してか、僕の隣に座ってきた。
香奈子は隣のテーブルの斜め向かいに座っている。あの日以来、なんだか照れくさくてほとんど話せていない。
「香奈子ちゃんと、なにかあっただろ」料理を食べ始めると、佐藤が目ざとくそう聞いてきた。僕は思わず食べかけのグラタンを吹き出しそうになった。
「え、いや、別に何もないよ……」佐藤はどうしてそのことを聞いてきたんだろう。何を知ってるんだ? と言うか、僕と香奈子のつながりは、まだクラスの誰にも言ってないはずなんだけど。
「別に変なことを詮索するつもりはないんだ。ただ……」
「ただ?」
「香奈子ちゃんを見てて気づかないのか?」
「気付かないって、何を?」
佐藤は僕がとぼけていると思ったのか、じっと三秒ほど僕の目を見つめた。
「香奈子ちゃん、神の光を身に着け始めてる」
「神の、光?」
「そうさ。和也だってあるだろ、光の粒や、霧のようなものが体を覆うことが」
「え、あ、ああ……」それのことか。でもそれが香奈子にって……。
「普通の人には見えない。でも同じ神の力を持つ者同士なら見えるはずだ」そう言われ、僕は香奈子の方をじっと見つめた。
ふと香奈子は僕の視線に気づいたのか目を僕の方に向け、一瞬目が合うと、恥ずかしそうにうつむいて顔を赤らめた。そのせいでなんだか僕まで照れくさくなってしまった。それを悟られまいと僕は平静を装い、佐藤に言った。「べ、別に普通に見えるけど」
「いつも出てるわけじゃないよ。本人も気づいているかどうかわからない。ただ、ふとした拍子に漏れ出るんだ。体からね」
「でも、いったいどうして香奈子が? 香奈子が神の末裔だって言うのか?」
「いや、そうじゃない。香奈子ちゃんは、れっきとした人間だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「じゃあどうして……」
「それは和也が一番よく知ってるんじゃないのかい?」
「僕が? なにを?」
「ったく。神と人が契りを交わすと、人は神に近い存在になる」
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「これ以上は自分で考えてくれ。僕も言うのは恥ずかしい」
そう言われて僕も妙に恥ずかしくなった。
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