悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第二部

Hiroko

文字の大きさ
51 / 52

正人の話 其の壱漆

しおりを挟む
「ひぃいいい……」と言って身震いとともに月読尊は体を丸めてその場にうずくまった。
「く、くそっ、これは……」
「な……、なに今の……、体が……、震えて止まらない……」
「香奈子が……」
「か、香奈子……? 香奈子が……、どうしたって言うの……?」
「香奈子が……、死んだ」
「え……」

 見上げると、空が無くなっていた。そこには宇宙があった。大気が渦を巻くようにして真空に吸い取られ、地球は直接宇宙と触れ合っていた。
「和也が……、目覚めるぞ……」
「な、なによそれ……。どう言うことなのよ……、香奈子が死んだ……? 嘘よ……。和也がどうしたって言うの……? ねえ、なんだか息苦しいわ」
「空を見て見ろよ」
「そ、空……?」そう言われて月読尊は空を見上げた。「な……、なんなのよこれ……」
 今まで空気と言うフィルターを通して見上げていた星々が、今は突き刺すほどの輝きを放っている。平面に散りばめられていた星々は、立体的に浮かび、遠くとも個々が球状であることがわかる。
 月読尊は思わず空に手を伸ばした。
「なんなのよこれ……、どうして宇宙がこんな近くにあるのよ……」
「それよりまずいっ!!! おい、八岐大蛇! 月読尊を守るぞ!!!」そう言うが早いか、隼人はのけぞるように空に咆哮を発すると、まるで天に上る龍のように、黒銀の大蛇へと姿を変えた。その姿は伊吹山で大地を叩き割った巨大な大蛇そのものだった。
 そして七匹の八岐大蛇に目を向けると、「我が力となれ!!!」と声を上げ、大きく開いた口で八岐大蛇を飲み込んだ。

   ねえ、何がどうなってるのよ。

   日本が、無くなるんだ。

   日本が? ねえ、暗くて見えないわ。ここはどこなの?

   わりいな。お前を守るため、今だけ俺の一部になってもらった。

   俺の一部? なによそれ。

   お前を飲み込んだ。

   私を、飲み込んだ? 食べたってこと?

   あっはっは! ちょっと違うな。

   わからないわ。

   俺の体の中で、繋がってるんだ。

   気味が悪いこと言うのね。

   今だけ我慢しろよ。お前を守るためだ。

   まあいいわ。でも説明してよ。どうしてそうなったの?
   
   言ったじゃねえか。香奈子が死んだんだよ。

   嘘よ。そんなの嘘よ。ねえ、和也は? 和也はどこにいるの?

   あいつは天逆毎と戦っている。

   天逆毎? 知ってるわ、その名前。

   和也は負ける。

   和也が負ける? どうして? どうしてそんなことがわかるのよ。

   和也は、どれだけ強くなっても天逆毎を倒すことはできねえ。

   どうして強くなっても倒せないのよ。

   同時に天逆毎も強くなるからだ。

   それって……。
   
   天逆毎に勝つことも負けることもできねえんだ。

   なんなのよそれ……。あなた、さっきからわからないわ。

   天逆毎と須佐之男命は、一人の神なんだ。

   一人の神?

   一人の神が二つに分かれた。それが須佐之男命と天逆毎だ。

   でも、それがどうしたって言うのよ。

   一人を半分だけ殺すなんてことできるわけねえんだ。

   じゃあ、和也はどうすればいいって言うのよ。

   どうもできねえ。

   天逆毎を倒すには、和也も倒さなければいけないってこと?

   そうなるな。

   そんな、駄目よ……。

   ああ。俺もそれは嫌だ。

   じゃあ……。

   一つ方法があるとすれば……。

「ぐはあああああっ!!!」と言って俺は吹き飛ばされた拍子に、月読尊を吐き出した。
「はあ、はあ、はあ……」と俺は息をするのがやっとだった。体もその衝撃に耐えられず、もとの人の姿に戻っている。「ぎりぎりか……、終わったのか……。月読尊は……」俺は立ち上がり、月読尊のところに行こうとした……、が、足に力が入らず、その場に倒れてしまった。
「おいっ! ……月読尊、……生きてるか?」俺は精一杯声をあげて呼び掛けた。
「ええ……、大丈夫みたい……。どうなったの……?」
「どうなったって?」
「和也……、和也のことよ」
「自分で目を開けて見てみろよ」
 月読尊は横になったまま動けないでいた。目も開けられない様子だ。何とか寝返りをうち、上を向いたが自由に体を動かせるようになるまで時間がかかった。そして……。
「嘘よ、そんな……」何とか目を開け、起き上がると、そう言った。「な、なんなのよこれ……、ねえ、誰か説明してよ……」
「誰もいねえよ。俺とお前以外な」
 空には大気が戻ろうとしていた。
 赤く、鱗雲のような雲が空一面に見えた。
 その雲を透かして、やはりその向こうに宇宙が見えた。
 そして大地は平らだった。
 人の手によって作られた物は何一つなかった。
 山は無く、ただどこまでも続く平らな土地と、はるか遠くで繋がる一直線の空が見えるだけだった。
 それはまるで原始の地球を見ているようだった。
 赤い空はうっすらと光を放っていたが、太陽はどこにも見えなかった。
「ここ、どこなの?」
「日本に決まってるじゃねえか」俺は動かない体を何とか起こし、胡坐をかいて座ったまま言った。
「嘘よ……、そんな、これじゃあ……、みんな死んじゃった……」
「ああ。化け物も、人間も、生きてる奴は誰も居ねえ。力のある神は残っているかも知れねえがな。俺とお前みたいに」
「和也……、和也は?」
「ああ。心配すんな。いまから探しに行くんだ」








しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...