15 / 18
最後の魔法
しおりを挟む
「あれが……。ベアードジャンボ……?」
想像していたよりも、かなり大きい。
五メートル以上、ありそうだ。
「では、本日の作戦だが……」
選抜隊の隊長が、説明を始めた。
でも……。そんなの、聞いてられない。
私の魔法があれば、作戦なんて、必要ないから。
「お、おい! 君! どこに行くんだ!」
「私一人で十分なので」
「何を……」
隊長と、他の選抜された人たちが、私に疑いの目を向けている。
きっと、この人たちは、みんな優秀だ。
でも、私ほどじゃない。
「ヒーナ。隊長の話を聞きなさい」
ミュシーが、私に耳打ちした。
……こんな時まで、姉面か。
さっきも、私ではなく、ミュシーに話しかける人が多かった。
なんで? 私の功績は、とっくに知れ渡っているはずなのに。
もしかして、怖気づいたのだろうか。
私の力が、圧倒的すぎるから。
だとすれば、納得できる。
「ミュシー。あなたは部外者よ。口を出さないで」
「……連れてきたのは、一体誰?」
「うるさい」
私は、ギルガム様に目を向けた。
兵に両肩を支えられ、なんとか立っているギルガム様は……。
優しく、微笑んでくれた。
……ギルガム様だけは、私を見てくれている。
「行ってまいります」
「ちょっとヒーナ!」
「うるさい!」
ミュシーを振り張らって、私は一人、崖の下へと降りた。
着地と同時に、ベアードジャンボが、私に気が付いた。
「グルルルルァアアア!!!!」
そして、雄たけびをあげながら、私に突撃してくる。
まずは手始めに、軽めの魔法を唱えて、その場に縛り付けた。
「グ、ガルゥ……!」
……何がベアードジャンボよ。
何が選抜隊よ。
こんなにも弱い敵に、ビビりすぎなのよ。
私は、上を見上げた。
みんなが、覗き込むようにして、こちらを確認している。
誰かが手助けに来てしまったら、面倒だ。
私が使うことのできる……。一番強い魔法を、使わせてもらう。
「はぁあああああ!!!」
思いっきり、力を込めて……。魔法を放った。
すると、ベアードジャンボが、一瞬にして、塵と化した。
……あっけない勝利ね。
私は魔法を使って、みんなのいる場所に戻ろうとした。
しかし、なぜか魔法が使えない。
さすがに疲れたのだろうか。
仕方なく、三十分程度かけて、歩いて戻った。
「どうかしら。私の魔法は――」
え……?
どうして、誰も私の方を見てないの?
「ギルガム様! しっかりしてください!」
ギルガム様……?
みんなが、輪になっている。
ギルガム様が、倒れたのだろうか。
ミュシーが、私の方を見た。
☆ ☆ ☆
「……ダメね。これ以上、尽くす手はないわ」
救護部隊の隊長が、静かにそう告げた。
私は、こちらに不安そうな目を向けるヒーナに……。それを伝えなければいけない。
「ヒーナ……」
「お、お姉様、一体何が……」
「……ギルガム様が、お亡くなりになったの」
「は……?」
ヒーナが、私を突き飛ばして、輪の中に入って行った。
「ギルガム様!? どうして!?」
「おやめなさい。遺体を揺らすのは……」
「遺体!? あなた、救護隊の隊長でしょう!? 早くギルガム様を助けなさいよ!」
「……あなたが殺したんでしょう?」
「え……?」
その場にいる全員が、ヒーナに軽蔑の目を向けていた。
ヒーナは、怖気づいたように、一歩、二歩、後退する。
だけど、そっちに逃げ場はない。ここは崖なのだから……。
「う、嘘よ。そんなの。ありえない……。私が? なんで?」
「あなたが魔法を唱えた途端、ギルガム様が苦しみだした……。相手の魂を削り、魔力を向上させるというのは、禁忌の魔法です」
「何を言ってるの……? 私は聖女よ!? 禁忌の魔法なんて、使うわけないじゃない!」
「だったら、今、魔法であの木を倒せるかい?」
部隊長が、近くにある、中くらいのサイズの木を指差した。
「当たり前よ……」
ヒーナが、木に向かって、手を伸ばす。
……少し、葉が揺れただけだった。
「なんで……?」
「聖女とは、偽りだったようですね」
「違う! 私は教会で、目覚めて……」
ヒーナが、その場に崩れ落ちてしまった。
私は、ヒーナを庇うようにして、間に割って入る。
「……後は、こちらにお任せください」
「……ミュシー様が、そうおっしゃるのであれば」
「ヒーナ。行こう」
「……」
泣いているヒーナを引き連れて、私は馬車に乗り込んだ。
ギルガム様の遺体は……。救護隊が、我が国まで運んでくれるらしい。
想像していたよりも、かなり大きい。
五メートル以上、ありそうだ。
「では、本日の作戦だが……」
選抜隊の隊長が、説明を始めた。
でも……。そんなの、聞いてられない。
私の魔法があれば、作戦なんて、必要ないから。
「お、おい! 君! どこに行くんだ!」
「私一人で十分なので」
「何を……」
隊長と、他の選抜された人たちが、私に疑いの目を向けている。
きっと、この人たちは、みんな優秀だ。
でも、私ほどじゃない。
「ヒーナ。隊長の話を聞きなさい」
ミュシーが、私に耳打ちした。
……こんな時まで、姉面か。
さっきも、私ではなく、ミュシーに話しかける人が多かった。
なんで? 私の功績は、とっくに知れ渡っているはずなのに。
もしかして、怖気づいたのだろうか。
私の力が、圧倒的すぎるから。
だとすれば、納得できる。
「ミュシー。あなたは部外者よ。口を出さないで」
「……連れてきたのは、一体誰?」
「うるさい」
私は、ギルガム様に目を向けた。
兵に両肩を支えられ、なんとか立っているギルガム様は……。
優しく、微笑んでくれた。
……ギルガム様だけは、私を見てくれている。
「行ってまいります」
「ちょっとヒーナ!」
「うるさい!」
ミュシーを振り張らって、私は一人、崖の下へと降りた。
着地と同時に、ベアードジャンボが、私に気が付いた。
「グルルルルァアアア!!!!」
そして、雄たけびをあげながら、私に突撃してくる。
まずは手始めに、軽めの魔法を唱えて、その場に縛り付けた。
「グ、ガルゥ……!」
……何がベアードジャンボよ。
何が選抜隊よ。
こんなにも弱い敵に、ビビりすぎなのよ。
私は、上を見上げた。
みんなが、覗き込むようにして、こちらを確認している。
誰かが手助けに来てしまったら、面倒だ。
私が使うことのできる……。一番強い魔法を、使わせてもらう。
「はぁあああああ!!!」
思いっきり、力を込めて……。魔法を放った。
すると、ベアードジャンボが、一瞬にして、塵と化した。
……あっけない勝利ね。
私は魔法を使って、みんなのいる場所に戻ろうとした。
しかし、なぜか魔法が使えない。
さすがに疲れたのだろうか。
仕方なく、三十分程度かけて、歩いて戻った。
「どうかしら。私の魔法は――」
え……?
どうして、誰も私の方を見てないの?
「ギルガム様! しっかりしてください!」
ギルガム様……?
みんなが、輪になっている。
ギルガム様が、倒れたのだろうか。
ミュシーが、私の方を見た。
☆ ☆ ☆
「……ダメね。これ以上、尽くす手はないわ」
救護部隊の隊長が、静かにそう告げた。
私は、こちらに不安そうな目を向けるヒーナに……。それを伝えなければいけない。
「ヒーナ……」
「お、お姉様、一体何が……」
「……ギルガム様が、お亡くなりになったの」
「は……?」
ヒーナが、私を突き飛ばして、輪の中に入って行った。
「ギルガム様!? どうして!?」
「おやめなさい。遺体を揺らすのは……」
「遺体!? あなた、救護隊の隊長でしょう!? 早くギルガム様を助けなさいよ!」
「……あなたが殺したんでしょう?」
「え……?」
その場にいる全員が、ヒーナに軽蔑の目を向けていた。
ヒーナは、怖気づいたように、一歩、二歩、後退する。
だけど、そっちに逃げ場はない。ここは崖なのだから……。
「う、嘘よ。そんなの。ありえない……。私が? なんで?」
「あなたが魔法を唱えた途端、ギルガム様が苦しみだした……。相手の魂を削り、魔力を向上させるというのは、禁忌の魔法です」
「何を言ってるの……? 私は聖女よ!? 禁忌の魔法なんて、使うわけないじゃない!」
「だったら、今、魔法であの木を倒せるかい?」
部隊長が、近くにある、中くらいのサイズの木を指差した。
「当たり前よ……」
ヒーナが、木に向かって、手を伸ばす。
……少し、葉が揺れただけだった。
「なんで……?」
「聖女とは、偽りだったようですね」
「違う! 私は教会で、目覚めて……」
ヒーナが、その場に崩れ落ちてしまった。
私は、ヒーナを庇うようにして、間に割って入る。
「……後は、こちらにお任せください」
「……ミュシー様が、そうおっしゃるのであれば」
「ヒーナ。行こう」
「……」
泣いているヒーナを引き連れて、私は馬車に乗り込んだ。
ギルガム様の遺体は……。救護隊が、我が国まで運んでくれるらしい。
11
あなたにおすすめの小説
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
不倫した妹の頭がおかしすぎて家族で呆れる「夫のせいで彼に捨てられた」妹は断絶して子供は家族で育てることに
佐藤 美奈
恋愛
ネコのように愛らしい顔立ちの妹のアメリア令嬢が突然実家に帰って来た。
赤ちゃんのようにギャーギャー泣き叫んで夫のオリバーがひどいと主張するのです。
家族でなだめて話を聞いてみると妹の頭が徐々におかしいことに気がついてくる。
アメリアとオリバーは幼馴染で1年前に結婚をして子供のミアという女の子がいます。
不倫していたアメリアとオリバーの離婚は決定したが、その子供がどちらで引き取るのか揉めたらしい。
不倫相手は夫の弟のフレディだと告白された時は家族で平常心を失って天国に行きそうになる。
夫のオリバーも不倫相手の弟フレディもミアは自分の子供だと全力で主張します。
そして検査した結果はオリバーの子供でもフレディのどちらの子供でもなかった。
聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。
佐藤 美奈
恋愛
聖女のクロエ公爵令嬢はガブリエル王太子殿下と婚約していた。しかしガブリエルはマリアという幼馴染に夢中になり、隠れて密会していた。
二人が人目を避けて会っている事をクロエに知られてしまい、ガブリエルは謝罪して「マリアとは距離を置く」と約束してくれる。
クロエはその言葉を信じていましたが、実は二人はこっそり関係を続けていました。
その事をガブリエルに厳しく抗議するとあり得ない反論をされる。
「クロエとは婚約破棄して聖女の地位を剥奪する!そして僕は愛するマリアと結婚して彼女を聖女にする!」
「ガブリエル考え直してください。私が聖女を辞めればこの国は大変なことになります!」
「僕を騙すつもりか?」
「どういう事でしょう?」
「クロエには聖女の魔力なんて最初から無い。マリアが言っていた。それにマリアのことを随分といじめて嫌がらせをしているようだな」
「心から誓ってそんなことはしておりません!」
「黙れ!偽聖女が!」
クロエは婚約破棄されて聖女の地位を剥奪されました。ところが二人に天罰が下る。デート中にガブリエルとマリアは事故死したと知らせを受けます。
信頼していた婚約者に裏切られ、涙を流し悲痛な思いで身体を震わせるクロエは、急に頭痛がして倒れてしまう。
――目覚めたら一年前に戻っていた――
完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは
今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。
長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。
次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。
リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。
そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。
父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。
「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる