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無力
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「ヒーナ。入るわよ」
返事は無かった。
中に入ると、ヒーナはベッドの上で、うつぶせになっていた。
「ヒーナ。食事を持ってきたわ」
「いらない」
「……少しは食べないと、体に悪いわよ」
「いらないって言ってるのよ」
私の方に顔を向けることもなく、いじけたように、強い拒絶の意を示す。
あの日から、ずっとこんな感じだ。
ヒーナが聖女として目覚めたことは、教会が示してくれたので、禁忌の魔法を使ったという疑いは晴れた。
しかし、ならばどうして、ギルガム様が、ヒーナが魔法を使うことにより、死んでしまったのか。
当然、そういう疑問が湧き上がってくる。
さらに、フレッダリオ家としては、そもそもヒーナとギルガム様が結ばれてから、ギルガム様の体調がどんどん悪化していったことが、無関係とは考えづらい。という意見も、あるわけで。
今は、ヒーナがショックで寝込んでいると伝え、少しの猶予を頂いている状態。
……とはいえ、長男であるギルガム様を失ったフレッダリオ家が、このまま黙っているはずもない。
一体、どうすればいいのか、私にも全くわからないのだ。
「皮肉よね」
「え?」
ヒーナが、ゆっくりと、こちらに顔を向けた。
どれだけ泣いたのだろうか、目が真っ赤に腫れている。
「あれだけお姉様に嫉妬して、ようやく勝ったと思ったら、今度はその力を失ったどころか、愛する人さえも、いなくなって……」
「ヒーナ。今は前を向くしかないわ」
「前なんて、私にはもう無いの」
「卑屈になってはダメよ」
「ならないわけがないでしょう? 今まで使えていた魔法すらも、使えなくなってしまったのだから。もう誰も、私のことを聖女だなんて呼ばないわ」
きっと、ベアードジャンボに使った魔法は、ギルガム様の魂だけでは足りず、ヒーナの体にも、傷を残したのだろう。
その影響で、魔法が使えなくなったのだ。
けれど……。それ自体は、鍛錬を積めば、きっと良くなる。
……ヒーナはまだ、やり直せる。
「大丈夫。魂の相性の件を、フレッダリオ家は知らないわ。それに、選抜隊には、偶然私の知り合いがたくさんいた。話を合わせてもらえば……。あなたが無関係であるという証拠を、作り出すことはできる。だから――」
「うるさい!!!!!」
枕が飛んできた。
「うるさいのよ! そうやっていつもいつも、私を下に見て……」
「し、下に? どうしてそうなるの?」
「わかるのよ。ずっとあなたと比べられてきた私だから……。手のかかる、面倒な妹だって、思ってるんでしょう? もう関わらないで。魔法が使えなくなったとはいえ、聖女としての証はまだ残ってる。どうせフレッダリオ家が手出しすることなんてできない。そうでしょう?」
そんなことはない……。
ヒーナはおかしくなってる。支離滅裂だ。
「諦めてはダメ。追い込まれた時こそ、考えるの」
「……いつもいつもいつも!!! 頑張った時は、全然褒めてくれないのに! どうしてダメになった時だけ、たくさん言葉を投げかけてくるの!? 本当に嫌い! あっちいけ! 馬鹿!」
次々に、物が飛んでくる。
さすがに耐えきれず、私は部屋を出てしまった。
「……」
やっぱり、私は無力だ。
妹一人、救うことができない。
……こんな時こそ、姉妹で協力すべきなのに。
涙が溢れてきた。
お母様……。ごめんなさい。
返事は無かった。
中に入ると、ヒーナはベッドの上で、うつぶせになっていた。
「ヒーナ。食事を持ってきたわ」
「いらない」
「……少しは食べないと、体に悪いわよ」
「いらないって言ってるのよ」
私の方に顔を向けることもなく、いじけたように、強い拒絶の意を示す。
あの日から、ずっとこんな感じだ。
ヒーナが聖女として目覚めたことは、教会が示してくれたので、禁忌の魔法を使ったという疑いは晴れた。
しかし、ならばどうして、ギルガム様が、ヒーナが魔法を使うことにより、死んでしまったのか。
当然、そういう疑問が湧き上がってくる。
さらに、フレッダリオ家としては、そもそもヒーナとギルガム様が結ばれてから、ギルガム様の体調がどんどん悪化していったことが、無関係とは考えづらい。という意見も、あるわけで。
今は、ヒーナがショックで寝込んでいると伝え、少しの猶予を頂いている状態。
……とはいえ、長男であるギルガム様を失ったフレッダリオ家が、このまま黙っているはずもない。
一体、どうすればいいのか、私にも全くわからないのだ。
「皮肉よね」
「え?」
ヒーナが、ゆっくりと、こちらに顔を向けた。
どれだけ泣いたのだろうか、目が真っ赤に腫れている。
「あれだけお姉様に嫉妬して、ようやく勝ったと思ったら、今度はその力を失ったどころか、愛する人さえも、いなくなって……」
「ヒーナ。今は前を向くしかないわ」
「前なんて、私にはもう無いの」
「卑屈になってはダメよ」
「ならないわけがないでしょう? 今まで使えていた魔法すらも、使えなくなってしまったのだから。もう誰も、私のことを聖女だなんて呼ばないわ」
きっと、ベアードジャンボに使った魔法は、ギルガム様の魂だけでは足りず、ヒーナの体にも、傷を残したのだろう。
その影響で、魔法が使えなくなったのだ。
けれど……。それ自体は、鍛錬を積めば、きっと良くなる。
……ヒーナはまだ、やり直せる。
「大丈夫。魂の相性の件を、フレッダリオ家は知らないわ。それに、選抜隊には、偶然私の知り合いがたくさんいた。話を合わせてもらえば……。あなたが無関係であるという証拠を、作り出すことはできる。だから――」
「うるさい!!!!!」
枕が飛んできた。
「うるさいのよ! そうやっていつもいつも、私を下に見て……」
「し、下に? どうしてそうなるの?」
「わかるのよ。ずっとあなたと比べられてきた私だから……。手のかかる、面倒な妹だって、思ってるんでしょう? もう関わらないで。魔法が使えなくなったとはいえ、聖女としての証はまだ残ってる。どうせフレッダリオ家が手出しすることなんてできない。そうでしょう?」
そんなことはない……。
ヒーナはおかしくなってる。支離滅裂だ。
「諦めてはダメ。追い込まれた時こそ、考えるの」
「……いつもいつもいつも!!! 頑張った時は、全然褒めてくれないのに! どうしてダメになった時だけ、たくさん言葉を投げかけてくるの!? 本当に嫌い! あっちいけ! 馬鹿!」
次々に、物が飛んでくる。
さすがに耐えきれず、私は部屋を出てしまった。
「……」
やっぱり、私は無力だ。
妹一人、救うことができない。
……こんな時こそ、姉妹で協力すべきなのに。
涙が溢れてきた。
お母様……。ごめんなさい。
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