弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら

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ムシャクシャしていたから……。

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※1話より前の時系列です。
※令嬢視点

☆ ☆ ☆

イライラしながら、ジファール家を出て、国に帰る途中……。

「これはこれは……。こんにちは、セレノー様」

見覚えのある青年が、声をかけてきた。

多分、同じ街の人だろうけど……。
なんだかムシャクシャしていた私は、言いがかりをつけたくなってしまった。

「あなた、礼儀がなってませんね」
「礼儀……。ですか?」
「そうです。私はブレッザ家の令嬢、セレノーですよ?」
「は、はぁ……」

何だその……。困惑したような表情は。

私は横にいたボディガードに、目で合図した。

そして……。

「ぐぁっ!」

ボディガードの強烈なパンチが、青年を襲った。

次に、もう一人のボディガードにも、合図をする。

二人がかりで、青年をボコボコにしてもらった。


私は強い。

ブレッザ家は元々、優秀な軍人を生み出した、名家なのだ。

その娘である私も……。

気が付くと私は、ナイフを構えていた。

「セ、セレノー様、何を……」

ボディガードが、狼狽えたように、私の前に、立ちふさがった。

「この者に、ブレッザ家の怖さを思い知らせてやるのです」
「さすがにそれは……」
「逆らうのですか?」
「……」

ボディガードが、渋々と言ったようすで、引き下がった。

地面に横たわっている青年は、服がボロボロになっている。

「聞こえますか」
「うっ……、は、はい」
「意味など考えなくていいのですよ。あなたは不運だった……。それだけです」
「……」

もはや、返事をする気力も無いらしい。

それではつまらないので……。
私は、一つ、遊びをすることにした。

ナイフで、青年の頬を軽く叩く。

「そ、それは……」
「戦争が終わり、世界は平和になりました。……剣を持つことは、禁じられ、私たちのような、元軍人の家系は、その代わりに、こういったナイフを持ち歩くようになったのです」

こんなもので、どう戦えというのか。

まるで、盗賊じゃないか。

プライドが、ズタズタになっていく。

……軍人ではない私ですら、そう思うのだから、先代は、より強くそう思ったはず。

王国に仕える騎士たちは、未だに剣の所有が認められているというのに。

なぜ、軍部は、あのまま解体されなければならなかったのか。

そんな風に、先代たちは、考えていたに違いない。

先代たちの想いを込めて……。

私は、ナイフの切っ先を、青年に向けた。

「怖いですか?」
「……おやめください。こんなにも平和な世の中で、人を殺めるなど」
「殺しはしません。寸前で止めるだけ……」

ナイフを一旦引き……。

青年の顔のスレスレまで、一気に降ろした。

「一歩間違えば、大けがです……」
「……なぜ、このようなことを」
「決まってるじゃないですか。ブレッザ家の強さを、見せつけるため……」
「十分理解しているつもりです。立派に、街を治められているじゃないですか……」
「かつて、ブレッザ家を目にしたものは、跪いて挨拶をしたと聞きます。あなたはどうでしたか? 立ったまま、私に挨拶をしました」
「申し訳ございません。次からは……」
「うるさいっ!」

今まで以上に、直前で止めてやろう。

そう思って、降ろしたナイフが……。

手元が狂ったのか、そのまま、青年の頬を切りつけてしまった。

「ぐあああ!!!!」

……嘘だ。

違う。こんなの。
こんなことが、したかったわけじゃない。

誇りを傷つけられて、ムシャクシャして……。
抵抗力の無い若者で、ストレスを発散しようと……。

「お、お嬢様! これは……」
「誓約書です!」
「誓約書!?」
「私が彼ともみ合いになって、私が怪我をしたことにすればいい!」
「何を――」
「いいから早く!」

大慌てで誓約書を作らせ、青年の血をサインの代わりにした。

そして、青年のポケットに、無理矢理それを忍び込ませる。

「帰りますよ」
「そんな。あいつ、あのままじゃ……」
「どうせ、本気で殴ってはいないのでしょう? 歩いて帰れますよ」
「だけど……」
「あなたも、切りつけてあげましょうか?」
「くっ……」

何とかボディガードに頷かせて、その場を後にした。

……私は悪くない。これは不慮の事故なんだから。
ブレッザ家を正当に評価しない奴らが悪いんだ。
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