婚約破棄？ 五年かかりますけど。

娼婦の計算ミス

ベッドで心地よさそうに眠るフォーランを見て、私はため息をついてしまった。

……こんな状況なのに、どうしてぐっすり眠ることができるの？

フォーランと出会ったのは、だいたい一か月くらい前。
伯爵令息だったフォーランは、金払いが良く、欲しい物はなんでも買い与えてくれた。

気が付けば私は、フォーラン一人の力で、店ナンバーワンの娼婦に。
ただし、それは、稼いだ額の話だ。

……実際は、フォーラン以外に、私を指名する人なんて、いない。

ナンバーワンになったタイミングで、フォーランから、結婚しようと言われた。
願っても無い求婚に、当時は心躍ったが……。

まさか、こんなに面倒な状況になるなんて。

家を追い出されてしまったら、かつてのような金の使い方はできない。
フォーランは、遠い国に親戚がいるから、大丈夫だって言ってるけど……。

私も私で、店を一度やめてしまうと、同じ国で働くことはできないという、娼婦のルールがある。

かと言って、私は……。
フォーランには、二十六歳だと偽っているが、本当は十歳も上。三十六歳だ。
今更雇ってくれる店が、あるはずもない。
教養も何もないから、他の場所で働くこともできない。

……この男に、付いて行くしかないのだ。

「ん……。あれ、ケスラ。起きていたのか」
「あ……。はい。少し、目が覚めてしまって」
「不安なのかい？」

不安に決まってる。
どうしてこの男は、平気な顔をしているのだろう。
まさか、夢でも見てるとか、思ってないわよね……。

「こっちへおいで。温めてあげる」
「はい……」

フォーランに抱きしめられ、そのままベッドに引きずりこまれた。
……あれだけシたのに、まだ求めてくるのか。

ここで拒んで、逃げ出したところで、行く場所もない。
私は体の力を抜いて……。フォーランに全てを任せた。