婚約破棄？ 五年かかりますけど。

令嬢の別荘

フォーラン様……。
いや、もうフォーランでいいか。

フォーランが婚約破棄を申し込んできてから、一年が経過していた。

彼が建設中だった、二人で済むはずの家は……。
建てたところで、誰も住まないし、もったいないと思ったので。
私とシンシアが、二人で暮らす別荘として、新たに計画を練り直してもらった。

「良いのですか……？　私の部屋なんて」

シンシアは少し、困ったような表情をしている。
本来であれば、メイドは一つの大きな部屋で、過ごすことが多い。
だけど……。
シンシアだって、年ごろの女の子だ。

個室があった方が、良いに決まってる。
別荘には、当然、彼女の部屋を作るつもりでいた。

「いいのよ。あなたがいないと私……。もう、不安だもの」
「お嬢様……」
「それに、私のお金で建てたわけじゃないから。お礼を言うなら……。あの、間抜けな令息に言ってちょうだい」
「随分な皮肉ですね……」

シンシアが、呆れたように笑った。
だって、本当にそうだから。仕方ない。

「まっ、お礼を言うにも、今どこに住んでいるか、わからないけどね」
「違約金の支払いが、三か月ほど滞っているようですが」
「もう……。いいわ。十分地獄を味わっているだろうから」

親戚の家を頼りに、遠くの国に行ったという話は聞いた。
それからしばらくは、使いの物が、違約金を払いに来ていたらしいけれど。

それが途切れたということは……。
相当、生活が困窮しているはずだ。

私だって、悪魔じゃない。
必要以上の罰を与える必要は、無いと思ってる。
それに……。こんな立派な別荘まで、建ててもらっちゃったし。

「シンシア。庭で紅茶でも飲みましょう？」
「そうですね……。今日は、とても天気が良いですから。爽やかなものを、用意します」
「ありがとう」

今頃、何をしているのかしらね……。二人は。
天気が良いからと言って、二人で外でいちゃついているのかしら。

もう……。どうでもいいけど。

「別荘には、もう少し広い庭があった方がいいかもしれないわね」
「そうですね……。綺麗な花など、植えたら素敵かなと思います」
「花……。いいじゃない。すごく楽しみになってきたわ」

完成するのは、多分半年後くらいだと思う。
それまでは……。この狭い庭で、我慢しよう。