わがまま姫に領地を奪われた伯爵家の令嬢です。姫様ごめんなさい。その領地は元々捨てる予定だったんです。責任持って処理してくださいね。

冬吹せいら

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第4話 進む二人

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 メーシャ達が旧エスメラルダ領にやってきたころ、ラリッサたちはすでに街の整備の大半を終えていた。
 たった三日程度のことだが、よほど領民同士の協力が上手くいったのだろう。

「いやぁ。景色が良いねぇ」

 大きな見張り台の上で、ラリッサとエルクは街を見降ろしていた。

「領地を出たのが、ついこないだのような気がするのに……」
「ははっ。時間は思ったよりも早く進むからね」

 エルクがラリッサに微笑みかける。
 ラリッサは、彼の顔が直視できなかった。

 領民への支持は的確で、リーダーシップを発揮し、凛々しく皆をまとめていたラリッサだが……。 
 エルクの前では、素の自分を出すことができていた。

 しかし、あまりに素を出し過ぎたせいか、気持ちが抑えきれなくなることもしばしばあった。
 それが今だ。
 ここであれば、誰も見ていない。

「……エルク」
「どうした? 顔が赤いけど」
「あ、赤くない」
「そうかな……。熱でもある?」

 エルクが顔を近づけてきたので、ラリッサは思わず身を引いた。

「そんなに避けなくても……」
 
 ラリッサは、エルクの手を握りたかった。
 結局初日に断って以来、エルクは誘ってこなかったからだ。
 ……とはいえ、いざ言おうとすると、喉に言葉が詰まってしまう。

「あのさ、ラリッサ」
「なに?」
「僕たち……。結婚するよね?」
「え?」

 さすがに心臓が飛び出そうになった。
 自分は手を繋ぐ繋がないでドギマギしていたのに……。

 急に、自分の幼さが恥ずかしくなった。
 しかし誤解されないように、首を縦に振ることだけは忘れなかった。

「良かった。……ずっと君が好きだったからさ。何度も伝えたと思うけどね」
「ありがとう……」
「……ラリッサ。君から好きという言葉を聞いた覚えがないなぁ」
「うっ」

 ラリッサは狼狽えた。
 毒に犯される領地を守り、浄化魔法部隊と共に抗い続けた日々。
 すっかり恋愛のことなど忘れ、母のように、強い自分であることを心掛けていた。

 ……それはとっくに終わり、もうエルクに甘えてもいいはずなのに。

「戻ろう。仕事はまだ残ってるから」
「あっ、ちょっと……」

 二人で階段を降りていく。
 ラリッサの頭の中は、久々に感じる甘い熱でいっぱいだった。
 
 そのせいで――。

「あっ――」

 足を踏み外したのだ。
 しかし、すぐにエルクがラリッサを支え、転ぶことはなかった。
 問題があるとすれば……。二人の体が、しっかりと密着してしまったことだろうか。

「危ないよラリッサ。ちゃんと足もとを見ないと」
「……」
「ラリッサ?」
「……その」
「ん?」

 エルクは、ラリッサの手が震えていることに気が付いた。
 その震えを抑えるように……、優しく握りしめる。

「大丈夫だよラリッサ。僕がいるから」

 ラリッサが何に怯えているのか、エルクはわからなかった。
 それでも、優しく微笑みかける。

「……知ってる」

 やはりぶっきらぼうに答えたラリッサだったが、その顔は真っ赤だった。
 
 もはや、好きというよりも恥ずかしい状況ですらあったが、ラリッサはそこまで気が回らなかったらしい。
 エルクの手を握り返し、階段をゆっくりと降り始めた。
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