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10 わたしのせいだった
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なぜ、どうしてお義兄様に婚約者がいないのか。
その理由がどうしても知りたくなった。
とはいえ、お義兄様に直接聞くことはできない。
「どうしてそんなことを? なぜ気になるんだ? もしかして俺のことが好きだから?」
「あわわわわ」
なんて、さすがにそんな流れになるとは思わないけれど、でも、突っ込まれて聞かれてしまっては焦って余計なことを口走りかねない。だからやっぱりお義兄様には聞けない。
だったらお父様に……と思ったけれど、お忙しいお父様の時間を割いてもらってまでして聞くことでもない。お仕事の邪魔はしたくない。
考えた末、当家の王都屋敷の家令であり、お父様の長年の右腕でもあるベンノに尋ねてみることにした。
「坊ちゃまの婚約者がいない理由ですか?」
「そう、知っているなら教えて? だって、当家の嫡子なのよ、どう考えもおかしいわ」
「しかしそれは、わたくしが勝手にお教えできることではございませんので」
言い渋るベンノにわたしはこう言った。
「教えてくれないのなら、今からわたし、この場でベンノに土下座してお願いするわ! いいの? 本当にするわよ? 床に頭を擦りつけるわよ! 本当にいいの?!」
わたしの渾身の脅しを聞いて、ベンノはやれやれと苦笑する。
ベンノは前ギレンセン侯爵、つまりおじい様の代から当家に仕えてくれているベテランだ。そろそろ初老の域に入る年齢だけれど、姿勢良くきびきびと動く様を見る限り、四十代前半くらいにしか見えないくらい若々しい。
当然、わたしは生まれた時からずっとベンノにお世話になりっぱなしだ。まるで本当の孫のように、時に優しく、時に厳しく指導しながら、ベンノはわたしの成長を見守り続けてくれている。わたしもベンノを実の祖父のように慕っている。
そんな仲だからこそ分かるし、知っている。お父様やお義兄様に負けないくらい、ベンノもわたしを大切に思ってくれているということを。
だからこその強硬手段(土下座しちゃうわよ脅し)である。
ベンノは呆れたような目でわたしを見ていたけれど、やがては折れてお義兄様に婚約者がいない理由を話してくれたのだった。
「お坊ちゃまが言うには、本来であればギレンセン侯爵家の次期当主はお嬢様です。そして、お嬢様が他家に嫁ぐ瞬間までは、ギレンセン家を継ぐ可能性がなくなったわけではない。けれど、自分が婚約者を迎えてしまえば、他家との兼ね合いが生じるため、自分が次期当主になることは確定してしまう。そうならないように、今はまだ誰とも婚約するわけにはいかないと、そうお坊ちゃまはおっしゃっていました」
「そんな、わたしのせいなの?!」
「もちろん旦那様は、そんなことは気にしなくていいとおっしゃいましたが、お坊ちゃまは聞き入れようとなさらず……」
「…………」
まさか、お義兄様がそんなことを考えていたなんて。
驚愕のあまり、わたしは顔色を悪くしたのだった。
その理由がどうしても知りたくなった。
とはいえ、お義兄様に直接聞くことはできない。
「どうしてそんなことを? なぜ気になるんだ? もしかして俺のことが好きだから?」
「あわわわわ」
なんて、さすがにそんな流れになるとは思わないけれど、でも、突っ込まれて聞かれてしまっては焦って余計なことを口走りかねない。だからやっぱりお義兄様には聞けない。
だったらお父様に……と思ったけれど、お忙しいお父様の時間を割いてもらってまでして聞くことでもない。お仕事の邪魔はしたくない。
考えた末、当家の王都屋敷の家令であり、お父様の長年の右腕でもあるベンノに尋ねてみることにした。
「坊ちゃまの婚約者がいない理由ですか?」
「そう、知っているなら教えて? だって、当家の嫡子なのよ、どう考えもおかしいわ」
「しかしそれは、わたくしが勝手にお教えできることではございませんので」
言い渋るベンノにわたしはこう言った。
「教えてくれないのなら、今からわたし、この場でベンノに土下座してお願いするわ! いいの? 本当にするわよ? 床に頭を擦りつけるわよ! 本当にいいの?!」
わたしの渾身の脅しを聞いて、ベンノはやれやれと苦笑する。
ベンノは前ギレンセン侯爵、つまりおじい様の代から当家に仕えてくれているベテランだ。そろそろ初老の域に入る年齢だけれど、姿勢良くきびきびと動く様を見る限り、四十代前半くらいにしか見えないくらい若々しい。
当然、わたしは生まれた時からずっとベンノにお世話になりっぱなしだ。まるで本当の孫のように、時に優しく、時に厳しく指導しながら、ベンノはわたしの成長を見守り続けてくれている。わたしもベンノを実の祖父のように慕っている。
そんな仲だからこそ分かるし、知っている。お父様やお義兄様に負けないくらい、ベンノもわたしを大切に思ってくれているということを。
だからこその強硬手段(土下座しちゃうわよ脅し)である。
ベンノは呆れたような目でわたしを見ていたけれど、やがては折れてお義兄様に婚約者がいない理由を話してくれたのだった。
「お坊ちゃまが言うには、本来であればギレンセン侯爵家の次期当主はお嬢様です。そして、お嬢様が他家に嫁ぐ瞬間までは、ギレンセン家を継ぐ可能性がなくなったわけではない。けれど、自分が婚約者を迎えてしまえば、他家との兼ね合いが生じるため、自分が次期当主になることは確定してしまう。そうならないように、今はまだ誰とも婚約するわけにはいかないと、そうお坊ちゃまはおっしゃっていました」
「そんな、わたしのせいなの?!」
「もちろん旦那様は、そんなことは気にしなくていいとおっしゃいましたが、お坊ちゃまは聞き入れようとなさらず……」
「…………」
まさか、お義兄様がそんなことを考えていたなんて。
驚愕のあまり、わたしは顔色を悪くしたのだった。
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