腹ぺこエルフの美食道~リルとルラの大冒険~

さいとう みさき

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第十七章:世界の為に

17-6炊き出し

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 私の案が失敗に終わり、そしてこのジルの村に迷惑をかけてしまった。


 悪魔将軍は殲滅したけど、村の被害も結構ある。
 家を壊された人はとりあえずこの女神神殿に避難するけど、一度に人が増えたので食事とか準備が大変だ。


「取りあえず温かいモノが欲しいねぇ。シチューを作ろうかしら?」

 ロマーさんはそう言って鍋を取り出す。
 しかしシチューとかは煮込みに結構時間がかかる。
 私はロマーさんを呼び留める。

「スープの類は私が作ります! 体が温まる物を作りますから任せてください!!」

「あら、そう? じゃあ私は他の物を作ろうかしらね」

 そう言ってロマーさんは私にスープを作る事を任せてくれる。
 となると、大量にしかも手早く、そして体が温まる美味しいものと言えば……

「豚汁ね!」

「豚汁? あ、あのお野菜とかお肉とかいっぱい入ってるやつか! あたしそれ好き~♪」

 思いついたのは豚汁だった。
 あれって体も温まるし、お腹にもそこそこ溜まる。
 手際さえよければ結構早く作れるし、何より美味しい。

 私は腰の魔法のポーチからありったけの道具や食材を引っ張りだす。

 豚肉に玉ねぎ、ジャガイモ、大根、人参にゴボウ、豆腐に里芋、ネギに味噌など、とにかく出せるだけ出す。
 それを台の上に乗せて早速ルラにも手伝ってもらいながら料理を始める。


 まずは下ごしらえ。

 里芋や人参、大根は皮をむく。
 ピラーとか便利な道具はこっちの世界には無いけど、私にはチートスキルがある。
 皮と身の間を「消し去る」してどんどんと皮むきを終わらせる。
 ちなみに間の部分を「消し去る」と全ての野菜は薄皮一枚被ったような感じで、指でつまむと簡単に破けて中身が出て来る。
 ルラなんかどんどん皮をむいて籠に入れて言ってくれる。


「いつも思うけど、これって脱皮みたいだよね~」

「まあ、手間はこれでなくなるからね」


 言いながら二人で大量の野菜の下ごしらえを終える。

 それをまな板の上で切って行くのだけど、これは流石に包丁で切った方が速い。
 コカトリスみたいに硬いお肉ならスキルを使った方がいいけど、包丁が使えるならその方が速いのでどんどんと処理をしてゆく。

 で、野菜は大方一口大に切り終わったら、ゴボウだ。

 やはり豚汁にゴボウは欠かせない。
 まずは包丁で奇麗に洗ったごぼうの表面を刃を立てたまま削って薄皮をはぐ。
 根っこみたいな色のそれは表皮を剥がれると、白っぽくなる。
 それを鉛筆を削るように、ゴボウを回しながら削って水の入ったボールにどんどん入れて行く。
 ゴボウはあくが強いので、こうして水にさらすと変色しにくくなるのだ。


「お姉ちゃん、ジャガイモも入れるの?」

「うん、何処だったか忘れたけど、あっちの世界で里芋と一緒にジャガイモ入れる地域もあるのよね。意外とこれが合うのよ」

 そう言いながらジャガイモも一口大に切って行く。

 あらかた野菜が終わったら、今度は豚肉を切って行く。
 これはなるべく薄く、細切れに。

 そして脂身が多い部分を先に鍋に入れて火にかける。

 脂身からじゅわじゅわと脂が出始める。
 そこへまた豚肉を投入して全体が軽く焦げ目がつくくらいに炒める。


「あれ? 豚汁なのに豚肉炒めてるの?」

「うん、こうして豚の油を先に引き出して軽く焦げ目がつく位に豚肉を炒めておくと、旨味が出るし他のお野菜も軽く炒めてから水を入れて煮込むと型崩れが少なくなるのよ」

 言いながら、ジャガイモや里芋、人参など固めの野菜を先に入れて軽く炒める。
 豚肉の油が回ってこれだけでも美味しそうだ。

 軽く焦げ目がつくくらいで今度は水を投入する。
 じゅっと音がしてなみなみとなったそこにゴボウも入れてしばし煮込む。

 鍋の淵とかに泡とあくが出て来るのでお玉ですくって取る。
 それを何回かやって、みりんとお酒少々、炒ったゴマなんかも入れて行く。


「なんか良い匂いして来たぁ~」

「まだよ。煮え立ったら、玉ねぎとお豆腐を切っていれてっと」

 ぐつぐつ煮え立つそこへ切った玉ねぎとちぎったお豆腐も入れて行く。
 お豆腐はちぎって入れた方が味の染み込みが良くなるので、見た目より味を重視する。

 しばし煮込んだら、火を弱めてお味噌を入れる。
 お味噌を溶きながら、ボヘーミャのユカ父さんやマーヤ母さんを思い出す。
 あの家には味噌も醤油もお酢もみりんも何でもあった。
 何かの時のためにと、それらを分けてもらってこの魔法のポーチに入れておいたのは僥倖だった。

 くつくつと軽く煮え立ってきたら最後にほんの少し牛乳を入れる。


「お姉ちゃん、豚汁に牛乳とか入れるの!?」


「うん、隠し味程度だけどね。これを入れるとまろやかになるのよ」

 ユカ父さんの家にあった味噌は、麦とお米の麹を使った物だった。
 本物のお味噌と言うのは結構匂いも癖も強い。
 保存に適する為にしょっぱさも結構あるので、知らないとその味や風味に驚かされる。
 なので、それをまろやかにすると、とても飲みやすくなるのでこう言った小技を使うのだ。


「そろそろ良いかな? 最後にほんのちょっとごま油を垂らしてっと」

 豚汁を掻き回しながら、わずかにごま油を垂らす。
 これも隠し味になるのだけど、いい風味になる。

 少しすくって、味見の小皿に入れてみる。
 ふわんといい香り世湯気が立って、食欲をそそる。

「こくっ」

 それを味見してしばし考える。
 おもむろに醤油を取り出し、少しお鍋に入れる。


「お姉ちゃん、醤油も入れるの?」

「うん、塩気が少し足らないからね。塩より醤油の方が美味しくなるんだよ。そう言えばルラ、お醤油ってお味噌から出るって知ってた?」

「へっ? お醤油ってお味噌からできてるの??」

「うん、お味噌を絞るとお醤油のもとが出て来るんだよ。だからお味噌汁の塩気とかが足らない時はお醤油入れると簡単に調節できるんだよ」

 お婆ちゃんのうんちくみたいな事を言いながらもう一度味見をする。


「こくっ。……うん! 美味し!!」

「あ~、あたしも早く豚汁たべたぃ!」


 とりあえずこれで豚汁は完成。
 後は弱火でじっくり温めると更に美味しくなる。

 私は刻みネギも大量に切って、唐辛子の種を抜いたものをすり鉢ですって、一味唐辛子も作っておく。
 これでお椀によそってお好みで葱や一味を入れても美味しい。


「ロマーさん、こっちは出来ました!」

「あらあら、早いわね~。まあ、いい香り。何かしらこれは?」

「豚汁って言うスープです。お椀によそってお好みでこの葱とか一味唐辛子を少し入れてもおいしいですよ」

 そう言って早速ロマーさんにお椀によそって差し出す。
 ロマーさんはそれを受け取り、早速お椀に口をつけ飲んでみる。

 
 こくっ


「あら、なにこれ美味しいじゃない! 初めて食べる味だけど、お野菜の甘みやお肉の味がとてもよく出ているわね。独特な風味もあるけど、とても美味しいわ」

「良かった。そうだ、葱とか一味入れるともっと美味しいですよ」

 私はそう言って刻み葱や一味もパラパラと入れてやる。
 ロマーさんは軽くそれをスプーンで掻き回してから飲んでみる。


「あらぁ! エシャレットの風味がとても合うわね。それに少し辛いけど、ホットペッパーのお陰で体も温まりそう。これはみんなが喜ぶわよ」


「良かった、皆さんの口にも会いそうで……」

 と、そこまで言って何だか私の視界が曇って来た。
 

「お、お姉ちゃん!」

「あらあらあら、どうしたのリルさん?」


 驚くルラとロマーさん。
 しかし私はぼろぼろと涙を流す。


「ごめんなさい! 私が全部悪いんです。皆さんにご迷惑かけて、友達にも、ボヘーミャのユカ父さんやマーヤ母さん、ソルミナ教授にも迷惑かけて!!」


 何故だろう。
 炊き出しの豚汁を作り終わったら急に涙が出始めた。
 多分、ひと段落して気が緩んだのだろう。

 まさか私の提案でこんな事になるだなんて!


「よしよし、リルさんは頑張って来たのだからもう泣くのはおよしなさい」

「でもでもっ!」

「大丈夫、リルさんたちが頑張っているのはみんな知ってますよ」

 そう言いながらロマーさんは優しく私の頭を撫でてくれる。
 私は止まらない涙を手で拭きとりながら何度も「ごめんなさい」を連呼する。

 そんな私をロマーさんはぎゅっと抱きしめて頭を撫でながら言う。


「もしリルさんが気にしているなら、この美味しいスープをみんない沢山食べさせてあげないさい。迷惑をかけたと思う人がいれば、みんなに同じようにリルさんが誠意を込めてご飯を作ってあげなさい。きっとみんなそれで許してくれるわよ」

「ご飯を……ですか? ひっく」


 私はロマーさんのその言葉を聞き、泣くのをやめる。
 そしてロマーさんを見上げると、にっこりした表情で言う。

「みんな美味しいごはんでお腹いっぱいになっていれば、きっと怒りっぽいのも嫌な事も忘れるわ。あなたの作るご飯はみんなを笑顔にしてくれる。私は、そう思うのよ」

 ロマーさんにそう言われ私は、ぱちくりとする。



 美味しいご飯をみんなにたくさん、お腹いっぱいに食べてもらう。



「ぐすっ、そんな事で許してくれるんでしょうか……?」

「ふふふふ、ほらせっかくかわいい顔が涙でぐちゃぐちゃじゃない? これで奇麗になった。大丈夫、あなたのご飯をみんなにたくさん食べさせてあげればきっと許してくれるわ」

 ハンカチで顔を拭かれ、鼻水も拭き取られながらロマーさんは私にそう言う。


「そうだよ、お姉ちゃんのご飯はいつも美味しいもん!」

「ルラ……」


 ルラも近くに着てニカッと笑ってくれる。   
 ご飯を作ってみんなに食べてもらって、本当にそんな事で許してもらえるのだろうか?


「私は……」

「ほら、まずはジルの村で試してみなさいな。きっと大丈夫よ」


 ロマーさんにそう言われ背中をポンポンと叩かれ手から私は押し出された。
 ルラは既にお椀を沢山持って準備している。
 ロマーさんもニコニコしながら他の食べ物を準備している。

 私はもう一度涙を擦り、言う。



「はいっ! それじゃ豚汁皆さんに食べてもらいます!!」





 そう言って私はルラ共に皆さんに豚汁を配る準備をするのだった。
  
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