32 / 106
第十三話 ベビー服
しおりを挟む
一昨年引っ越してきたAさん、知ってる?
先月火事があったでしょ? そう、それで亡くなられた。お若いのにねぇ。
でもね、あれねぇ…あれ、多分事故じゃないのよ。
なんでそんな風に言うのかって?
…Aさんって、ほら、あれ。手癖が悪いって言うの?
とにかく、悪い癖があってねぇ。
引っ越して当初はご近所のママさんたちでよくお茶とかしてたみたいなんだけど、あるときからよくうちにもメールが来るようになったのよね。
泥棒に入られましたってのが。
うち?
うちは年が離れてるからあちらのグループじゃなかったの、良かったわぁ。
あ、いえね、別にそういうことじゃなくてね。
ともかく、何回もそういうことがあって、Aさんが怪しいって話になったんだけど。
このAさんってのがたいそうしたたかでねぇ。
いつも純情無垢そうな顔でとぼけてるもんだから、証拠も無くてそれ以上は誰もいえなくて。
ただ、当たり前だけどそういう状況だとお呼ばれとかもしなくなるじゃない?
それで困ったのかしらねぇ…
あたし、見ちゃったのよ。
なにをって?
あなた、ご存知かしら?
六丁目に、小さなお堂があるのよ。石仏祀ってるね。
あそこ、結構古いいわくつきのところなんだけど、お参りする人が多くてときどきいろんな品物がお供えされてることが多いのよ。
大体はお花とか、あとはちょっとしたお菓子とかなんだけど、たまに赤ん坊用品とか置いてるのよ。お地蔵様じゃないのにねぇ。
…さあ、何の神様なのかしらね?
あたしも知らないわ。
けど、おばあちゃんが言ってたの。『アレは神様じゃない、もっとおぞましいものだ』って。その証拠に、頭を良く見ると額のところ、なにか出っ張りがあるのがわかるっていうのよ。それって、元々は角だったらしいけど縁起が悪いから折って削ったって話よ。
今もあるんじゃないかしら? あたしが子供の頃に見に行ったときは確かにあったわよ。
あら、脱線しちゃったわね。
それでね、あたしたまたま夜中に電球切れちゃって、買い物帰りに出かけたらそこで出会っちゃったのよ、Aさんに。
Aさん、あたし見てぎょっとしたわ。まさかそんな時間に知り合いに出くわすとは思ってなかったんでしょうね。
それであたしもね、なんでそんなに驚いたんだろうと思ってつい、じろじろみちゃったの。そしたら、手に真っ赤な赤ちゃん用の服を持ってたことに気づいたわ。
…お昼にご飯の材料買いに出たときにも見たから、間違いなかったわ。あれ、お供え物だったはず。
あたし、さすがにそれは黙ってみてられなくてね。
「ちょっと、Aさん。それ、お供え物よ?」
と声かけたの。
そしたらね、Aさんてば、一瞬怖い顔になって、それからすぐに猫なで声で返したわ。
「あら、知ってるわよ。でも、こんなところで無駄にするくらいなら誰かが使ってあげた方が神様も喜ぶわよ」
ってね。
盗人猛々しいとはよく言ったものね。
あたし、何か言い返したかったんだけど…あんまりにもむちゃくちゃなことが起きると、頭真っ白になっちゃうものなのね。
何も出来ずにいたら、Aさんてば勝ち誇ったような顔で鼻を鳴らすとそのまま立ち去っちゃったの。
このこと、誰に言ったらいいかわかんなくってねぇ。とりあえず、警察には伝えたんだけど証拠も無いからと相手してもらえなかったわ。
…で、ね。
結局他の人にも話したのよ。もう、悔しくて悔しくってねえ、気持ちを分かち合ってもらいたかったの。
でもね。
聞いた人たち、あたしと同年代か、それより上な人たちばっかりなんだけど…みんな、聞いてから眉をひそめちゃって。
「可愛そうに」
「まあ、しょうがないわよねぇ」
っていうのよ。
泥棒なのに何がかわいそうなのよ、とむっとしたけど。
「あなたも、Aさんには決して近づかないようにしなさいね」
「お地蔵さんのところを通るのもしばらくやめておきなさい」
「巻き込まれたらつまらないものね」
そう言ってて、あ、これは本当に不味いんだと思ったわ。
言われたとおり、出来る限りAさんやお地蔵様と接触しないようにしてたんだけど…一週間くらいかしら。
さっき言った、火事。起きたのよ。
Aさんち。
Aさん、それから赤ちゃんが焼け死んで、旦那さんだけが生き残ったって。お気の毒よねぇ。これからが幸せってときに。
でもってね。
ここからは噂なんだけど…
どうやらね、焼け死ぬ前からAさん、ちょっとおかしくなってたみたいなのよ。
あたしが避ける必要なんて無く、家から出なくなってたんですって。
赤ちゃん、放置して。
旦那さんの話だと、赤ちゃんの代わりにベビー服をずっと肌身離さず持っててね、あやしてたんですって。
それはただの服だ、赤ちゃんの面倒を見るようにと旦那が言うと凄い勢いで暴れたそうよ。
「あたしの赤ちゃん、どうするつもりよ」って。
しかもね、不思議なことに「あたし、まだまだお世話しないといけない子供が多いのに」とか言ってたそうよ。
旦那さん、ほとほと弱り果ててたところに火事でしょ。
奥さんはベビー服を握ったまま旦那さんを振り払ってね。一方の旦那さんはというと、助け出されたとき半狂乱になってわめいていたそうよ。
「Aはお前たちの母親じゃない! 出ていけ!」って。
一体、何があったのかしらね。
怖いわよねぇ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ18ニチ19ジ
先月火事があったでしょ? そう、それで亡くなられた。お若いのにねぇ。
でもね、あれねぇ…あれ、多分事故じゃないのよ。
なんでそんな風に言うのかって?
…Aさんって、ほら、あれ。手癖が悪いって言うの?
とにかく、悪い癖があってねぇ。
引っ越して当初はご近所のママさんたちでよくお茶とかしてたみたいなんだけど、あるときからよくうちにもメールが来るようになったのよね。
泥棒に入られましたってのが。
うち?
うちは年が離れてるからあちらのグループじゃなかったの、良かったわぁ。
あ、いえね、別にそういうことじゃなくてね。
ともかく、何回もそういうことがあって、Aさんが怪しいって話になったんだけど。
このAさんってのがたいそうしたたかでねぇ。
いつも純情無垢そうな顔でとぼけてるもんだから、証拠も無くてそれ以上は誰もいえなくて。
ただ、当たり前だけどそういう状況だとお呼ばれとかもしなくなるじゃない?
それで困ったのかしらねぇ…
あたし、見ちゃったのよ。
なにをって?
あなた、ご存知かしら?
六丁目に、小さなお堂があるのよ。石仏祀ってるね。
あそこ、結構古いいわくつきのところなんだけど、お参りする人が多くてときどきいろんな品物がお供えされてることが多いのよ。
大体はお花とか、あとはちょっとしたお菓子とかなんだけど、たまに赤ん坊用品とか置いてるのよ。お地蔵様じゃないのにねぇ。
…さあ、何の神様なのかしらね?
あたしも知らないわ。
けど、おばあちゃんが言ってたの。『アレは神様じゃない、もっとおぞましいものだ』って。その証拠に、頭を良く見ると額のところ、なにか出っ張りがあるのがわかるっていうのよ。それって、元々は角だったらしいけど縁起が悪いから折って削ったって話よ。
今もあるんじゃないかしら? あたしが子供の頃に見に行ったときは確かにあったわよ。
あら、脱線しちゃったわね。
それでね、あたしたまたま夜中に電球切れちゃって、買い物帰りに出かけたらそこで出会っちゃったのよ、Aさんに。
Aさん、あたし見てぎょっとしたわ。まさかそんな時間に知り合いに出くわすとは思ってなかったんでしょうね。
それであたしもね、なんでそんなに驚いたんだろうと思ってつい、じろじろみちゃったの。そしたら、手に真っ赤な赤ちゃん用の服を持ってたことに気づいたわ。
…お昼にご飯の材料買いに出たときにも見たから、間違いなかったわ。あれ、お供え物だったはず。
あたし、さすがにそれは黙ってみてられなくてね。
「ちょっと、Aさん。それ、お供え物よ?」
と声かけたの。
そしたらね、Aさんてば、一瞬怖い顔になって、それからすぐに猫なで声で返したわ。
「あら、知ってるわよ。でも、こんなところで無駄にするくらいなら誰かが使ってあげた方が神様も喜ぶわよ」
ってね。
盗人猛々しいとはよく言ったものね。
あたし、何か言い返したかったんだけど…あんまりにもむちゃくちゃなことが起きると、頭真っ白になっちゃうものなのね。
何も出来ずにいたら、Aさんてば勝ち誇ったような顔で鼻を鳴らすとそのまま立ち去っちゃったの。
このこと、誰に言ったらいいかわかんなくってねぇ。とりあえず、警察には伝えたんだけど証拠も無いからと相手してもらえなかったわ。
…で、ね。
結局他の人にも話したのよ。もう、悔しくて悔しくってねえ、気持ちを分かち合ってもらいたかったの。
でもね。
聞いた人たち、あたしと同年代か、それより上な人たちばっかりなんだけど…みんな、聞いてから眉をひそめちゃって。
「可愛そうに」
「まあ、しょうがないわよねぇ」
っていうのよ。
泥棒なのに何がかわいそうなのよ、とむっとしたけど。
「あなたも、Aさんには決して近づかないようにしなさいね」
「お地蔵さんのところを通るのもしばらくやめておきなさい」
「巻き込まれたらつまらないものね」
そう言ってて、あ、これは本当に不味いんだと思ったわ。
言われたとおり、出来る限りAさんやお地蔵様と接触しないようにしてたんだけど…一週間くらいかしら。
さっき言った、火事。起きたのよ。
Aさんち。
Aさん、それから赤ちゃんが焼け死んで、旦那さんだけが生き残ったって。お気の毒よねぇ。これからが幸せってときに。
でもってね。
ここからは噂なんだけど…
どうやらね、焼け死ぬ前からAさん、ちょっとおかしくなってたみたいなのよ。
あたしが避ける必要なんて無く、家から出なくなってたんですって。
赤ちゃん、放置して。
旦那さんの話だと、赤ちゃんの代わりにベビー服をずっと肌身離さず持っててね、あやしてたんですって。
それはただの服だ、赤ちゃんの面倒を見るようにと旦那が言うと凄い勢いで暴れたそうよ。
「あたしの赤ちゃん、どうするつもりよ」って。
しかもね、不思議なことに「あたし、まだまだお世話しないといけない子供が多いのに」とか言ってたそうよ。
旦那さん、ほとほと弱り果ててたところに火事でしょ。
奥さんはベビー服を握ったまま旦那さんを振り払ってね。一方の旦那さんはというと、助け出されたとき半狂乱になってわめいていたそうよ。
「Aはお前たちの母親じゃない! 出ていけ!」って。
一体、何があったのかしらね。
怖いわよねぇ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ18ニチ19ジ
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
夜にも奇妙な怖い話2
野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。
作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。
あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる