安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第十三話 ベビー服

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 一昨年引っ越してきたAさん、知ってる?

 先月火事があったでしょ? そう、それで亡くなられた。お若いのにねぇ。

 でもね、あれねぇ…あれ、多分事故じゃないのよ。
 なんでそんな風に言うのかって?

 …Aさんって、ほら、あれ。手癖が悪いって言うの?
 とにかく、悪い癖があってねぇ。

 引っ越して当初はご近所のママさんたちでよくお茶とかしてたみたいなんだけど、あるときからよくうちにもメールが来るようになったのよね。
 泥棒に入られましたってのが。

 うち?
 うちは年が離れてるからあちらのグループじゃなかったの、良かったわぁ。
 あ、いえね、別にそういうことじゃなくてね。

 ともかく、何回もそういうことがあって、Aさんが怪しいって話になったんだけど。
 このAさんってのがたいそうしたたかでねぇ。
 いつも純情無垢そうな顔でとぼけてるもんだから、証拠も無くてそれ以上は誰もいえなくて。

 ただ、当たり前だけどそういう状況だとお呼ばれとかもしなくなるじゃない?

 それで困ったのかしらねぇ…

 あたし、見ちゃったのよ。
 なにをって?

 あなた、ご存知かしら?
 六丁目に、小さなお堂があるのよ。石仏祀ってるね。
 あそこ、結構古いいわくつきのところなんだけど、お参りする人が多くてときどきいろんな品物がお供えされてることが多いのよ。
 大体はお花とか、あとはちょっとしたお菓子とかなんだけど、たまに赤ん坊用品とか置いてるのよ。お地蔵様じゃないのにねぇ。

 …さあ、何の神様なのかしらね?
 あたしも知らないわ。
 けど、おばあちゃんが言ってたの。『アレは神様じゃない、もっとおぞましいものだ』って。その証拠に、頭を良く見ると額のところ、なにか出っ張りがあるのがわかるっていうのよ。それって、元々は角だったらしいけど縁起が悪いから折って削ったって話よ。
 今もあるんじゃないかしら? あたしが子供の頃に見に行ったときは確かにあったわよ。

 あら、脱線しちゃったわね。
 それでね、あたしたまたま夜中に電球切れちゃって、買い物帰りに出かけたらそこで出会っちゃったのよ、Aさんに。
 Aさん、あたし見てぎょっとしたわ。まさかそんな時間に知り合いに出くわすとは思ってなかったんでしょうね。
 それであたしもね、なんでそんなに驚いたんだろうと思ってつい、じろじろみちゃったの。そしたら、手に真っ赤な赤ちゃん用の服を持ってたことに気づいたわ。
 …お昼にご飯の材料買いに出たときにも見たから、間違いなかったわ。あれ、お供え物だったはず。

 あたし、さすがにそれは黙ってみてられなくてね。
「ちょっと、Aさん。それ、お供え物よ?」
 と声かけたの。

 そしたらね、Aさんてば、一瞬怖い顔になって、それからすぐに猫なで声で返したわ。
「あら、知ってるわよ。でも、こんなところで無駄にするくらいなら誰かが使ってあげた方が神様も喜ぶわよ」
 ってね。
 盗人猛々しいとはよく言ったものね。
 あたし、何か言い返したかったんだけど…あんまりにもむちゃくちゃなことが起きると、頭真っ白になっちゃうものなのね。
 何も出来ずにいたら、Aさんてば勝ち誇ったような顔で鼻を鳴らすとそのまま立ち去っちゃったの。
 このこと、誰に言ったらいいかわかんなくってねぇ。とりあえず、警察には伝えたんだけど証拠も無いからと相手してもらえなかったわ。

 …で、ね。
 結局他の人にも話したのよ。もう、悔しくて悔しくってねえ、気持ちを分かち合ってもらいたかったの。
 でもね。
 聞いた人たち、あたしと同年代か、それより上な人たちばっかりなんだけど…みんな、聞いてから眉をひそめちゃって。
「可愛そうに」
「まあ、しょうがないわよねぇ」
 っていうのよ。
 泥棒なのに何がかわいそうなのよ、とむっとしたけど。
「あなたも、Aさんには決して近づかないようにしなさいね」
「お地蔵さんのところを通るのもしばらくやめておきなさい」
「巻き込まれたらつまらないものね」
 そう言ってて、あ、これは本当に不味いんだと思ったわ。

 言われたとおり、出来る限りAさんやお地蔵様と接触しないようにしてたんだけど…一週間くらいかしら。

 さっき言った、火事。起きたのよ。
 Aさんち。

 Aさん、それから赤ちゃんが焼け死んで、旦那さんだけが生き残ったって。お気の毒よねぇ。これからが幸せってときに。

 でもってね。
 ここからは噂なんだけど…

 どうやらね、焼け死ぬ前からAさん、ちょっとおかしくなってたみたいなのよ。
 あたしが避ける必要なんて無く、家から出なくなってたんですって。

 赤ちゃん、放置して。

 旦那さんの話だと、赤ちゃんの代わりにベビー服をずっと肌身離さず持っててね、あやしてたんですって。
 それはただの服だ、赤ちゃんの面倒を見るようにと旦那が言うと凄い勢いで暴れたそうよ。
「あたしの赤ちゃん、どうするつもりよ」って。
 しかもね、不思議なことに「あたし、まだまだお世話しないといけない子供が多いのに」とか言ってたそうよ。

 旦那さん、ほとほと弱り果ててたところに火事でしょ。
 奥さんはベビー服を握ったまま旦那さんを振り払ってね。一方の旦那さんはというと、助け出されたとき半狂乱になってわめいていたそうよ。

「Aはお前たちの母親じゃない! 出ていけ!」って。

 一体、何があったのかしらね。
 怖いわよねぇ。

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ツギハ18ニチ19ジ
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