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第二十八話 器_1
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昔柳田理科雄氏の本を読んで深く感銘を受けた俺は、以来科学探究の徒になろうと決めた。
しかし、俺の頭は自分で思っていた以上に悪かったようで、理系大学を目指してはや四浪が確定してしまった。
年老いた親には大層泣かれ、これ以上は進学は諦めてまっとうに働いてくれと諭された。
こうなればもはや大学に通うことを諦める他はない。なに、科学探究はやろうと思えばどこでもできる。
そして、成果を出せばきっと認めてもらえるはず。
そう考えた俺は、テーマを”呪い”に絞った。
古来より存在するものでありながら、現代においても解明されていないものこそ科学的に解き明かすに相応しいと思ったからで、そうと決めた翌日知人の伝で”出る”と噂のボロアパートへ引っ越した。
俺が越したのは、安瀬乃片敷六丁目にある、風呂なしトイレあり隙間風あり月家賃五千円築36年という徹頭徹尾三百六十度どこからどうみても完璧な安アパート、その二階だ。階段の真ん前で、ゴミ捨てや出勤の際には多少便利な立地でもある。
「おお、雰囲気あるな」
入居した当日の夜半、さっそくのご挨拶に隣から般若心経が聞こえてきた。昼間挨拶したときは出てこなかったから、隣人は余程シャイなのだろう。
さて、実は俺はホラーとかは苦手だ。
呪いを研究テーマにしておきながらお前何言ってんだと読者諸兄には思われるかもしれないが、それは逆で、解き明かせば恐怖を感じなくて済むではないかという現金な理由もある。理解の及ばないことこそが怖い、という奴だ。
そんなわけで、こういう事態に対する対抗策はあらかじめ用意しておいた。
俺はおもむろにラジカセを取り出すと、壁側に僅か1センチほど空けてから大ボリュームで俺がアカペラで吹き込んだ各ガ○ダムの主題歌をエンドレスで流してやる。
うむ、いつ聞いても素晴らしい声で我ながら聞きほれてしまうな。ちょっとばかし音程が外れているところもあるが、それを覆うだけのエネルギーに迸っているのは素晴らしい。
俺はにっこり微笑むと、しっかり耳栓をして朝までぐっすり寝た。
翌日以降、般若心経は聞こえなくなった。
…………。
……………………。
………………………………。
引越ししてしばらくのこと。
バイト先でちょっと腹立つことがあった。昨夜思いついたことがあり、呪いの調査に没頭していたせいで寝過ごして怒られたのだ。くそう、これだから科学探究に理解の無い凡人は困る。
せっかくなので前夜思いついたことを試すこととする。
仕事が終わった俺は、その足で電車に飛び乗り近場のデパートへ向かうと買い物を済ませた。結構な出費だが、これも科学探究のための必要な犠牲と思えば無駄にはなるまい。
そこから超集中して二つ、今回の実験に必要なものを作成する。
本番は午前二時、丑三つ時。
素組で二時十分くらいにようやく間に合わせられたので、俺はその二つ――HGUC 1/144PMX-003 ジ・○、そして同サイズのゼータガ○ダム――を抱えて近所の神社へと向かった。
本来はわら人形を用意する必要があるのだが、怖い。
それなら同じ人形であるガン〇ラを使えば良い、そこに気づいてしまった俺は控えめに言っても天才だと思う。
「よし、第一段階はクリア」
ただでさえ人通りの少ない土地でこの時間だ、誰にも見咎められることなく俺は神社へともぐりこみ、そこで一番でかい杉の木の根元へ辿り着いた。花粉を撒き散らす害悪め、こうして俺が利用してやることから感謝するがいい。
早速俺はジ・○を取り出し、ロープで木の幹へ雑に固定する。ロープは後で回収するからな。
次いでゼータガ○ダムを取り出し、ジ・○腹に打ち付ける。
「店長! いつもいつも脇から見ているだけで、人を弄んで! お前も少しは自分で働け!! 職場からいなくなれー!!」
ガツッ! ガツッ! ガツッ!
…うーむ、穴が開かない。俺の身体を通して出る力が足らないのだろうか。来る前に漏らすまいと大をすましてきたのが悪かったか。
それからも肩で息をするまで数回試したが、どうやっても原作どおりにはならないので少し迷った挙句、こんなこともあろうかとあらかじめ用意した五寸釘を打ち付けて帰った。
余ったゼータガ○ダムはうちで飾っておくこととする。
「フフフフフ、ハハハハハハ、ざまあないぜ!」
翌日、また釘打ちに向かったところジ・○は取り外されていて、代わりに張り紙がしてあった。
『おもちゃでいたずらしないでください。おもちゃがいたいいたいってないています』
子供相手にも分かるよう丁寧に大きく、ひらがなで書かれたそれを見て俺は撤退した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ8ニチ19ジ
しかし、俺の頭は自分で思っていた以上に悪かったようで、理系大学を目指してはや四浪が確定してしまった。
年老いた親には大層泣かれ、これ以上は進学は諦めてまっとうに働いてくれと諭された。
こうなればもはや大学に通うことを諦める他はない。なに、科学探究はやろうと思えばどこでもできる。
そして、成果を出せばきっと認めてもらえるはず。
そう考えた俺は、テーマを”呪い”に絞った。
古来より存在するものでありながら、現代においても解明されていないものこそ科学的に解き明かすに相応しいと思ったからで、そうと決めた翌日知人の伝で”出る”と噂のボロアパートへ引っ越した。
俺が越したのは、安瀬乃片敷六丁目にある、風呂なしトイレあり隙間風あり月家賃五千円築36年という徹頭徹尾三百六十度どこからどうみても完璧な安アパート、その二階だ。階段の真ん前で、ゴミ捨てや出勤の際には多少便利な立地でもある。
「おお、雰囲気あるな」
入居した当日の夜半、さっそくのご挨拶に隣から般若心経が聞こえてきた。昼間挨拶したときは出てこなかったから、隣人は余程シャイなのだろう。
さて、実は俺はホラーとかは苦手だ。
呪いを研究テーマにしておきながらお前何言ってんだと読者諸兄には思われるかもしれないが、それは逆で、解き明かせば恐怖を感じなくて済むではないかという現金な理由もある。理解の及ばないことこそが怖い、という奴だ。
そんなわけで、こういう事態に対する対抗策はあらかじめ用意しておいた。
俺はおもむろにラジカセを取り出すと、壁側に僅か1センチほど空けてから大ボリュームで俺がアカペラで吹き込んだ各ガ○ダムの主題歌をエンドレスで流してやる。
うむ、いつ聞いても素晴らしい声で我ながら聞きほれてしまうな。ちょっとばかし音程が外れているところもあるが、それを覆うだけのエネルギーに迸っているのは素晴らしい。
俺はにっこり微笑むと、しっかり耳栓をして朝までぐっすり寝た。
翌日以降、般若心経は聞こえなくなった。
…………。
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引越ししてしばらくのこと。
バイト先でちょっと腹立つことがあった。昨夜思いついたことがあり、呪いの調査に没頭していたせいで寝過ごして怒られたのだ。くそう、これだから科学探究に理解の無い凡人は困る。
せっかくなので前夜思いついたことを試すこととする。
仕事が終わった俺は、その足で電車に飛び乗り近場のデパートへ向かうと買い物を済ませた。結構な出費だが、これも科学探究のための必要な犠牲と思えば無駄にはなるまい。
そこから超集中して二つ、今回の実験に必要なものを作成する。
本番は午前二時、丑三つ時。
素組で二時十分くらいにようやく間に合わせられたので、俺はその二つ――HGUC 1/144PMX-003 ジ・○、そして同サイズのゼータガ○ダム――を抱えて近所の神社へと向かった。
本来はわら人形を用意する必要があるのだが、怖い。
それなら同じ人形であるガン〇ラを使えば良い、そこに気づいてしまった俺は控えめに言っても天才だと思う。
「よし、第一段階はクリア」
ただでさえ人通りの少ない土地でこの時間だ、誰にも見咎められることなく俺は神社へともぐりこみ、そこで一番でかい杉の木の根元へ辿り着いた。花粉を撒き散らす害悪め、こうして俺が利用してやることから感謝するがいい。
早速俺はジ・○を取り出し、ロープで木の幹へ雑に固定する。ロープは後で回収するからな。
次いでゼータガ○ダムを取り出し、ジ・○腹に打ち付ける。
「店長! いつもいつも脇から見ているだけで、人を弄んで! お前も少しは自分で働け!! 職場からいなくなれー!!」
ガツッ! ガツッ! ガツッ!
…うーむ、穴が開かない。俺の身体を通して出る力が足らないのだろうか。来る前に漏らすまいと大をすましてきたのが悪かったか。
それからも肩で息をするまで数回試したが、どうやっても原作どおりにはならないので少し迷った挙句、こんなこともあろうかとあらかじめ用意した五寸釘を打ち付けて帰った。
余ったゼータガ○ダムはうちで飾っておくこととする。
「フフフフフ、ハハハハハハ、ざまあないぜ!」
翌日、また釘打ちに向かったところジ・○は取り外されていて、代わりに張り紙がしてあった。
『おもちゃでいたずらしないでください。おもちゃがいたいいたいってないています』
子供相手にも分かるよう丁寧に大きく、ひらがなで書かれたそれを見て俺は撤退した。
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ツギハ8ニチ19ジ
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