安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第三十一話 下水道施設の清掃スタッフ

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 ガキの頃から勉強が嫌いだった俺は元々こらえ性というものが無いのだと思う。高校を中退してから適当な会社を転々と移るうち、気づけばまっとうな仕事に就くのも難しい年になってしまった。
 そんなんでようやく見つけた下水道施設の清掃スタッフだが…一年も経つ頃にはもう嫌になっていた。

 といっても、別に仕事が面倒くさいとか疲れるからと言った理由ではない。
 むしろ、そんな理由ならどんなに良かったことか。

 毎月月頭、俺は先輩であるYさんとこの町の下水道に潜らないとならない。
 Oさんは普段から目を閉じたような初老の男性で、とかく口数が少ない。
 元々数少ない従業員の中でも、周りの対応からかなりの古株らしいことは分かった。

 そんなOさんと組まされてから数回、彼の口から教えてもらったのは「ここでのことは決して口外するな」ただそれだけだった。

 最初はどういう意味かは分からなかった。
 が、はじめて下水道に潜る段になって分かった。

 下水道は、想像していたほどには臭くはない。
 ただ…どことなく、鉄さびのような匂いが辺りにこびりついている。こういう場所は、汚水の臭いが勝るものではないのか。

 妙なのはそれだけではない。

 普通、清掃員というのはモップや洗剤を持っていくものだろう。
 だが…俺が持たされたのは、赤いたっぷりした液体の入ったバケツだった。俺の鼻がおかしくなかったのであればこの液体は…周囲に負けない血の匂いをさせていた。

 このバケツを、指示されたポイントまで持っていっては置いてくる。
 そしてまた、半月後に空になったそれを持って帰る。
 これが、清掃と銘打たれた仕事の内容だった。

 俺たちが運ぶのはなんなのか。
 このやり取りになんの意味があるのか。
 そして、道中時折踏む、白っぽくて硬いものは何か。
 疑問は山ほどある。
 が、Oさんは俺が何か口を開こうとするたびわずかに目を開いてねめつける。
 質問は許さない、ということなのだろう。

 そこまではまだいい。
 俺も似たような仕事はいくらでもしてきたから。

 耐えられないのは、帰りだ。
 はじめて潜ったときはなんの気にも留めていなかった。

 マンホールの蓋、その裏側。
 まっしろな、手の痕。そして、搔きむしるようなか細い…爪痕がついている。

 それが、俺が潜るにつれて数が増えていく。
 爪痕は半年もすれば、削れ過ぎて金属の地肌が見えるくらいに増えていた。

 そんな折、先日、一つの疑問が解けた。

 顔見知りだったY田君。
 数か月前から会社に現れなくなって辞めたんじゃないかと思っていたのだが。

 彼のお気に入りの腕時計を、見つけてしまった。

 その日清掃作業に従事している間、俺は体の震えが止まらなかった。

「なぁ」

 マンホールから出てようやく一息ついたところで、Oさんがはじめて口を開いた。

「おめえ…このままつづけるなら、今日のことぁ忘れろ。だが、辞めるなら今が花だぞ」

 Oさんは知っているのだ。ここで何を飼ってるのか、そして…このままだとどうなるのかも。
 Oさんなりに俺を気遣ってくれたのだろう。

 だが…俺にはもう、行く当ては無い。

 なら、Oさんの元で頑張ろう。
 彼を見届けてから辞めれば、まだ間に合うはずだ。



 そう心に誓った翌日から、Oさんとは連絡がつかなくなった。


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ツギハ26ニチ19ジ
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