お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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1-1.二人の日常

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「面倒だから起きるよ。あ、朝ご飯作ってやるから食べろ」
「適当に食べるからいらない」
「今ヶ瀬の適当は本当に適当だから信用できない」
「急に頑固になるじゃん」
  遼が頑固になるのには理由がある。王輝の生活力の無さを遼は目の当たりにしているからだ。セフレになって半年経っているが、王輝が料理や掃除をしているのを見たことがない。栄養が手軽に摂れるパウチタイプのゼリーを吸いながら、台本を読んでいるのを何度も目撃している。王輝は体形維持のためだと言うが、料理をする習慣がないと遼は踏んでいた。
 遼の予想は当たっており、王輝は常日頃弁当や総菜で食事を済ませていた。朝はもっぱら経口ゼリーのみで、昼はケータリングやロケ弁、夜は総菜やロケ弁の残りなどを食べている。マネージャーからも栄養については指摘されており、せめてサプリメントでもと様々なサプリメントが王輝のキッチンには常備されていた。
 王輝が自炊しないのは料理ができないからではなく、一人暮らしだと自炊は非効率だと実感したことがあったからだ。一度カレーを作ったときに、カレーは上手にできたものの、その後の野菜やカレールーの残りを活用できなくて、結局捨ててしまったことがあった。それ以来、非効率を理由にほとんど料理はしていない。
 掃除については、掃除ロボットが定期的に室内をウロウロしている。かろうじて洗濯はしているので、ベランダや室内には折り畳み式の物干しスタンドには、定期的に服が干してあった。
「部屋戻ってシャワー浴びてくるから、今ヶ瀬は風呂入れよ。疲れ取れてないだろ」
 遼は正座を崩すと、ベッドから降り、ベッドの周囲に散らばった二人分の服を拾いあげる。下着一枚で歩く遼の身体を、王輝は自分の身体と見比べた。遼の筋肉のついた背中や腕は逞しく、均整がとれて綺麗だ。王輝は遼から服を受け取りながら尋ねた。
「また筋肉ついた?」
「そうか?新曲のダンスがキツイからかも」
「いつ発売?」
「八月初めくらい。でも発売前にツアーオーラスで披露するから、それまでに仕上げなきゃいけなくて」
「サプライズ発表ってやつ?楽しそうでいいじゃん」
「だろ?ファンのみんなの喜ぶ顔見たいから、頑張らねぇと」
 意気込む遼の姿は王輝には眩しく映り、同時に羨ましく感じた。王輝は誰かのためになんて思って仕事をしたことがない。仕事をしているのは、全ては自分のためだ。
「あ、ライブ来るか?関係者席なら取っておけるけど」
「ほんと?」
 遼からの思わぬ誘いに王輝は驚いた。と同時に、嬉しさを隠しきれずに頬がゆるんだ。
 遼が所属する『Bloom Dream』という三人組アイドルユニットは、今大人気でチケットは争奪戦である。テレビでのパフォーマンスやライブ映像を見たことはあったが、実際にライブに行く機会はなかった。もともとアイドルに興味がなかった王輝だが、遼と関係を持ってからはアイドルに興味を持ち始め、特に『Bloom Dream』はお気に入りだった。もしライブに行けるなら行ってみたい。
「迷惑じゃないなら、お願いしていい?」
「全然迷惑じゃねぇよ。何枚必要?」
「一枚でいいよ」
「友達とか誘わねぇの?」
「俺に友達いないの知ってるくせに」
「ごめんごめん。でも意外だな」
「何が?」
「ライブ来てくれるのが意外ってこと。今ヶ瀬が俺の仕事に興味持ってくれるの普通に嬉しい」
 遼は嬉しそうに顔をほころばせた。そして思い出したように「シャワー浴びてくる」とTシャツとスウェットを身に着け、足早に寝室からでていった。
 遠くで玄関の閉まる音を聞きながら、王輝はベッドに倒れこんだ。肌ざわりのいいシーツが頬に触れる。
 王輝は後悔していた。もしかして、遼は建前として聞いただけだったのかもしれない。断ったほうがよかったんだろうか。確かにライブに行きたいのは本音だが、それならこっそり見に行けばいい話だ。そもそもセフレなのに、遼の関係者としてライブに行くのは気が引ける。
 ただのセフレ、身体だけの関係。お互いそれ以上は望んでいない。嬉しそうな遼の表情を思い出して、王輝はため息をつく。関係を持って半年経った今、どういう距離感でいるのが正解なのかが、わからなくなっていた。
 一方、遼は自分の部屋に戻っていた。話の流れから王輝をライブへと誘ったが、まさか見に来ることになるとは想像していなかった。てっきりアイドルには興味がないと返ってくると思っていたし、演技のことばかり考えている王輝がライブに来てくれることは素直に嬉しかった。
 しかし、遼の表情はすぐに曇った。もしかして誘われたから仕方なく行くと返事をしたのかもしれない。誘ったのは余計なお世話だとしたらどうしよう。時間が経てば、遼の気持ちは嬉しさよりも不安のほうが大きくなっていた。
遼の見間違いでなければ、王輝をライブに誘ったとき、嬉しそうな表情をしていた。普段あまり感情が表にでない王輝にしては珍しい。それが自惚れでなければいいのにと遼は思わず願っていた。
 セフレになってから、お互いの部屋を行き来するものの、セックスばかりしている。友達でもない、恋人でもないこの関係に、戸惑いを感じ始めていた遼だった。
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