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1-1.二人の日常
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しおりを挟む「準備OKです。タスクさんお願いします」
スタジオスタッフから声がかかる。タスクは楽譜を持って録音ブースへと入った。タスクの次はカズ、最後は遼の予定だった。遼とカズは並んでソファに座り、録音ブース内のタスクを眺めた。
タスクの準備が整ったようで、演奏が流れ、タスクが身体でリズムを取りながら、メロディーに歌をのせていく。
「いつ聞いてもうまいよなぁ」
カズが感心するように呟いた。
タスクはグループ内で一番歌がうまく、落ちサビやメロディラインはタスクが担当することが多い。一応センターということになっているが、本人はほとんど意識しておらず、タスク自身としては三人同等というスタンスだ。
一方、カズは歌よりもダンスが得意とし、アクロバティックな動きが魅力的で、バク転なども軽々とこなす。ダンスの振付を担当することもあり、難しいものから簡単なものまで、振付は多岐にわたる。簡単な振付はファンも一緒に楽しめると評判がよかった。しかし難しいものになると、遼とタスクがついていけなくなってしまうこともあった。
二人とは対照的に、遼は歌もダンスもそつなくこなし、二人の苦手な部分を埋める役割が多い。リーダーとしてライブで進行を任されたり、マネージャーと一緒に仕事打ち合わせに参加したりと、縁の下の力持ちとして働いている。グループのために何でもこなす遼を、カズとタスクは一目置いていた。
バランスが取れたグループだが、実は寄せ集めで、その場しのぎで作られていた。
そもそも事務所としてはタスク一人をデビューさせたかったのだ。十五歳でスカウトされ、即デビューが決まっていたタスクは、グループでならデビューしてもいいと条件を付けた。それで、遼とカズがメンバーとして集められたのだ。
事務所はある程度グループでの活動をした後、解散させて、タスクだけをソロで再デビューさせるつもりだった。しかし、意外なほどに人気がでてしまい、解散という話は立ち消えている。メンバーはその話を知らず、知っているのはマネージャーの岸だけだった。事務所の意向はいつ変わるかわからない。岸としても内心ハラハラしながらマネジメントをする日々である。しかし、グループはようやく軌道に乗ってきたところで、まだまだ上を目指せるし、ここで終わらせるわけにはいかないと岸は強く思った。
タスクの歌を聞きながら、遼はスマホでスケジュールを確認した。六月末の東京でのツアーオーラスまでに、あと二ヶ所地方公演がある。音楽番組出演や雑誌取材、遼個人の仕事、八月にかけて新曲プロモーションのための仕事が目白押しだ。オフはあるものの、ほとんどが仕事でうまっていた。一瞬王輝とセックスする時間がなさそうだと考えてしまい、自分で呆れた。今は仕事の時間だと頭を切り替える。
「うわー、結構うまってるじゃん」
カズが遼のスマホを覗きこんでいた。遼はカズに見やすいように、スマホの画面の角度を変えてやる。「仕事があることはいいことだぞ」と岸にくぎをさされて、カズはおどけた表情を見せた。
「リョウはソロの仕事増えたねー。最近絶好調じゃん。なんかいいことあった?」
「いいこと…」
カズの質問に、王輝との関係が浮かぶ。
王輝の方から持ち掛けてきたセフレ関係だったが、遼も似たような状況だった。仕事に追われ、アイドルとして、リーダーとして、求められることが多く、プレッシャーを感じる日々。仕事は楽しいのに、精神的に追い詰められ、自分がどう振る舞えばいいがわからなくなっていた。岸にはよく「肩の力を抜け」と言われたが、力加減がわからない。カズみたいにあっけらかんとすればいいのか、タスクのようにストイックに仕事をすればいいのか。どうすればアイドル佐季遼としての正解なんだろうと悩む日々が続いた。周囲に相談できずに、一人で抱え込んでいた。
息抜きには好きなことをやればいいと言うが、遼にとっては歌やダンスが好きなことであり、他にやりたいことが見つからない。オフの日に家でのんびりしたり掃除をしたりしても、悶々とした気持ちが晴れない。ファンレターに「最近疲れてますか?」「元気がなくて心配」と書かれることが増えてきて、ファンに心配をかけるなんてアイドル失格だと、さらに追い打ちがかかった。
そこに舞い込んできた王輝との関係。最初は抵抗があったが、王輝とのセックスを重ねることで身体が軽くなり、仕事でもうまく力を抜けるようになった。理由はわからないが、王輝の顔が好きだった遼は、自分にとっての癒しを見つけた感覚だった。
高校中退するまでには普通に彼女がいてセックスをしていたが、スカウトされてアイドルを目指し始めてからは、セックスはおろか、自慰の回数も減っていた。アイドルになってからも同様だった。
性欲を満たすという答えに、自分の身体ながら最低だと落ち込んだときもあったが、今では王輝とのセックスが欠かせないものとなっている。気兼ねなくセックスして、仕事もうまくいくのなら、これ以上何を考える必要があるだろう。王輝も同様に、遼とのセックスが欠かせないものとなっているなら、お互いwinwinの関係だ。遼は割り切ってセフレ関係を続けていた。
「えー?なになに!一人でにやけるなよ!」
ばしっとカズに背中叩かれた遼は、痛さに顔をしかめた。頬に触れたが、にやけていたかはわからなかった。
「俺はお前を信じてるから何も言わないが、スキャンダルだけには気を付けろよ」
岸が鋭い視線で遼を見つめた。鼓動が速くなり、嫌な汗が噴き出しそうだ。
「そんなんじゃないですって。大丈夫です」
遼は笑顔を作って答えた。セフレ関係は絶対バレてはいけない。新たに覚悟をした瞬間だった。
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