お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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2-2.溢れる気持ち

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 八月になり、Bloom Dreamのニューシングルが発売され、遼は慌ただしい日々を過ごしていた。発売イベントで全国を飛び回り、合間にテレビ収録や雑誌取材なども詰め込まれる。曲はもちろん、今回は特典のショートムービーが話題になり、映像業界でも取り上げられた。諏訪のネームバリューがあってのことだったが、演技も概ね好評で、メンバーも岸も一安心した。
 遼と王輝と会ったのは八月の半ばで、以前に約束した映画を観に行く日だった。二人はレイトショーを予約していた。
 遼は王輝の部屋の前にいた。夕方になってもまだまだ暑く、少し外にいるだけでじわりと汗が滲む。鍵を差しんだ後、一瞬開けるのを躊躇う。
 この前のあの感情については、胸の中にもやもやとした気持ちが浮かんだままだった。可愛いや愛おしいとは違うその感情に、遼は心当たりがないわけではなかった。しかし、無意識のうちに目を背けていた。それは一種に自衛に近く、王輝との関係を続けていきたいと思うが故だった。
 軽くため息を吐き「今ヶ瀬、準備できた?」と声をかけながら、王輝の部屋に入り、リビングに足を進める。暑い室外とは違い、エアコンのおかげで涼しい室内に、ホッと一息ついていると、後ろから「ごめん、ちょっと待ってて」と王輝の声が聞こえた。どうやら自室にいるようだ。
「時間に余裕あるから、急がなくていいぞ」
「はーい」
 王輝の声が明らかに機嫌がよく、遼は思わず笑ってしまった。しかし遼も今日のことを楽しみにしており、機嫌がいいので王輝のことを言える立場ではない。今日の服装は浮かれてないだろうかと遼は不安になった。濃紺のデニムパンツとブリティッシュストライプの半袖のオープンカラーシャツで、落ち着いた雰囲気のファッションだった。

 リビングテーブルの椅子に座り、王輝を待つ間、スマホで映画の時間を再度確認した。映画館で映画を観るなんていつぶりだろうか。それに、ずっと仕事が詰まっていたため、久しぶりのオフだった。とは言っても、午前中は仕事だったし、明日は朝から打ち合わせが入っていた。新曲の売上が好調なため、追加でイベントを行うことが決まり、急ピッチで準備が進んでいるところだ。
「お待たせ、まだ外暑かった?」
 リビングに入ってきた王輝の姿を見て、遼は驚いて目を見開いた。
「え、なに、その髪…」
「あれ?知らなかった?先週染めたとこ」
 遼と王輝が最後に会ったとき、王輝は黒髪でショートヘア、センターパート分けだった。しかし、今はドラマ撮影のために金髪のベリーショート、サイドは刈り上げた髪型に変わっていた。
「どう?」
 ご機嫌にくるりとその場で回った王輝は、にこにことした笑顔を遼に向けた。
「どうって…似合ってると思う…」
 あまりの変貌に、遼の脳は一瞬王輝と認識しなかった。髪がかなり短くなったため、顎のシャープなラインや細い首筋が露わになり、色気が漂う。そういう目で見てしまったことに、遼は心の中で自分を叱った。
「あと、ピアス開けた」
 王輝は見せつけるように、ぐいっと遼に耳を近づけた。先日遼が触れた耳朶に、ファーストピアスが一つ付いていた。
「え、痛そう」
「感想それ?!」
 王輝はけらけらと笑ったが、遼が耳朶に触れると身体を跳ねさせた。慌てて身を引いた王輝は耳を庇う。
「開けてからそんなに経ってないから、あんま触るなよ」
「ごめん、痛かった?」
「大丈夫。しばらくは消毒しなきゃだから、意外と大変なんだよ」
 ピアスを開けてもらった医者には、順調にいけば一ヶ月程度で穴が安定すると言われた。今は二週間程度経ったところだ。
 遼は王輝をまじまじと見つめた。少しの間会わないだけで、すっかり様変わりしたが、かっこよさは変わらずだ。もともと王輝の顔が好みだったので、新しい王輝の造詣も言わずもがな素晴らしいと思った。絵画を鑑賞している気分になる。
「何?なんか変?あ、髪色変わったから、前着てた服が似合わなくてさ。とりあえずシンプルにしたんだけど…」
 王輝は白のオーバーサイズのTシャツに、色の薄いデニムパンツを合わせた服装だった。小ぶりのメッセンジャーバッグを肩からかけている。シンプルゆえに、王輝のかっこよさが際立つと遼は思った。
「いや、大丈夫。似合ってるよ」
「よかった。じゃあ行こう」


 映画館がある商業施設に着いた二人は、映画まで時間を潰そうと、ファッションフロアをぶらぶらと歩いていた。時間帯のせいで行き交う人は少ないが、二人のマスクだけでは隠せないオーラに、すれ違う人たちの視線は集まる。
いつもより見られてる感じがすると王輝は感じていた。須川と歩いているときよりも、明らかに視線が痛い。王輝は隣を歩く遼のせいだと思っていたが、王輝の金髪の派手さとそれに付随する王輝の造形が目を引いているせいもあった。
 遼を横目で見る。普段部屋で会っているときよりもかっこよさが際立って見えた。よく考えればスウェットなどのラフな服装で会うことが多い。もしかしたら裸のほうが見慣れてる可能性が高いことに思いついて、自分たちのことながら呆れてしまった。
 遼とセフレになってからは、お互いの部屋の行き来だけだったので、こうやって出かけるのは初めてだ。そもそも王輝は買い物も映画を観に行くのも最近はずっと一人だった。交友関係の狭さゆえだったが、一人で行動するほうが楽なので気にしていなかった。
 しかし、今、自分が浮かれていることを王輝は自覚していた。マスクの下の頬は自然と緩む。誰かと出かけることが苦ではないし、そして、相手が遼であることが嬉しかった。今日のために、ここ最近の仕事を頑張ってきた。ライブのときの二の舞にならないために、今日の午後に仕事を入れないよう須川に取り計らってもらった。
 あの日抱いた遼への気持ちに、王輝は気づかない振りをすることに決めた。セフレ関係を続けるにはそれが一番いい。仕事のことを考えると、今遼との関係が終わることはどう考えても不利益だ。ようやく俳優としての仕事が軌道に乗ってきている。気持ちを押し殺して生きていくこと、そして、遼に気持ちを悟られないように演じることくらい、王輝にとってどちらも大したことではない、はずだった。
「今ヶ瀬、聞いてる?」
 ふいに遼に顔をのぞきこまれて、心臓が跳ねる。遼と視線交わり、異様にドキドキしてしまい、不自然に目を逸らす。大したことない、なんてことはなかった。一度気づいてしまうと、自分の感情なのに制御できずに、王輝は戸惑う。しっかりしろと自らを叱咤し、平常心と心の中で何度も唱えた。
「ごめん、ぼーっとしてた」
「大丈夫?疲れてるんじゃないのか?」
 優しい気遣いを見せる遼に、王輝は逆に腹が立ってきた。人の気も知らないで、優しくしないで欲しい。セフレに優しくしたって、いいことないのに。八つ当たりで、王輝は遼の鍛えられた腹に軽くパンチをした。
「なに?どうした?」
「べつに、何でもないよ」
 驚いた表情の遼を見て、気が晴れた王輝は、ちょうど通りがかったアクセサリーショップへと入った。
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