お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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2-2.溢れる気持ち

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「いらっしゃいませ」
 男性店員のけだるげな声を聞きながら、王輝は店内を見回し、商品ラックに並んでいるピアスコーナーへと足を向けた。撮影期間中はプライベートでもピアスをするだろうから、せっかくなのでファッションとして楽しみたい。王輝は並んでるピアスの中から、好みのものを探した。
 遅れて店内に入ってきた遼は王輝に近寄る。王輝からのパンチの意味を図りかねていた。何か気に障ることでもしただろうかと行動を振り返るが、心当たりがなかった。店内には、アクセサリーの他、バッグや雑貨などが置いてある。BGMがBloom Dreamの新曲だったので、遼は一人嬉しくなった。
「ピアス開けたままにするのか?」
「とりあえず撮影中は維持しないといけないから。今後は役によるかも」
「今回はどんな役?」
「まだ解禁になってないから…」
「そっか、それなら言わなくていい」
 遼は深堀せずに、あっさりと引いた。
 不良マンガの実写ドラマ化の話はまだ公になっていなかった。ネットのあらゆる場所で情報が飛び交うなかで、早バレや情報解禁は芸能関係者は誰もが敏感になっている。そろそろ情報公開の予定だったので、王輝は役の話だけにとどめた。
「本当は舌にも開けてる役なんだけど、事務所NG出ちゃって」
「舌?痛そう…」
「そればっかじゃん」
 痛みを想像して眉根を顰めた遼を王輝はくすくすと笑った。いたずら心が芽生え、遼の耳もとで小さく囁く。
「でも舌ピアスでフェラしたら気持ちいいらしい」
「っ、…!」
 辺りをキョロキョロして誰も聞いていないか確認した遼は、王輝を叱りつけるように睨んだ。マスクの下の顔は真っ赤になっていた。
「外でそんなこと言うなよ」
 遼は王輝に注意しながら、王輝の舌にピアスが付いているのを想像して、不覚にも昂ってしまったことを反省した。
「佐季はアクセサリー付けないんだ?」
 遼は腕時計だけを身に付けていた。対して王輝はシルバーの細身のリングと、同じくシルバーのチェーンブレスレットをつけていた。
「腕時計はいくつか持ってるけど、アクセサリーは全然ない。今ヶ瀬みたいにセンスないから」
「俺?俺もセンスないって。そう言うの考えずに、好きなようにつければいいのに」
 ピアスの棚の横には、リングやブレスレットが並んでいた。遼は馴染みのないそれらを見つめる。撮影で身につけたことはあるものの、プライベートでは全くだ。自分にどれが似合うのだろうと想像しても、よくわからなかった。王輝は「そうだ」と嬉しそうに声を上げた。
「俺が選んでやるよ」
「そんな、いいよ。なんか悪い」
「遠慮すんなって。せっかくセンスある俺に選んでもらえるのに、どうする?」
 王輝の茶化すような言い方に、思わず遼は吹き出した。
「じゃあ頼もうかな」
「おっけー」
 嬉しそうに承諾した王輝は「リングとブレスレット、どっちがいい?」と続けた。遼はブレスレットなら腕時計と同じ感覚でつけられると思い「ブレスレットで」と答えた。
 王輝はずらりと並んだブレスレットを物色する。レザー製やシルバー製、他にバングルなどの様々な種類が並ぶ。
「皮とか金属とかにアレルギーあったりする?」
「ない」
「どういう感じが好き?」
「どういう…?」
「ほら、カジュアルとか、綺麗めとかあるじゃん」
「それなら、気軽につけられて、シンプルめが助かる」
「助かるって…」
 王輝はマスクの下でふふっと笑い、遼らしい答えだとおかしくなった。良さそうなものをいくつか選び、実際に遼の腕にはめてみる。
「これいいじゃん」
「似合わない気がする」
「じゃあこっちは?」
「派手すぎない?」
 意外と厳しい意見が遼から返ってきて、王輝はムキになった。絶対これがいいと言わせてやると意気込む。
 途中からは男性店員も加わり、あれじゃないこれじゃないと言い合いながら、最終的に選んだのはシルバーの細身のバングルだった。装飾はないが、中央部で緩やかにツイストしており、立体感で遊び心がある。遼はそのデザインが気に入ったようだった。
 王輝も好みのデザインだったので、色違いのゴールドを買うことにした。髪色と合わさっていい感じだと、売場に設置された鏡に写る自分を評価した。
「せっかくだからつけていかれますか?」
 男性店員に尋ねられ、二人は顔を見合わせた。王輝はペアなんて照れると思ったが、遼は全く気にしておらず「そうですね。お願いします」と頷いた。
 二人とも会計を済ませたタイミングで、男性店員が申し訳なさそうに遼に声をかけた。
「Bloom Dreamのリョウですよね…?」
 バレてしまったと王輝は思った。あれだけ近距離で会話をすれば、マスクをしていてもバレるのは当たり前だ。そう言えば、店内のBGMはBloom Dreamの新曲だと王輝は遅ればせながら気づいた。
 どうするのだろうと遼を見ると、パッと笑顔を見せ「そうです」と答えた。
 店員はレジカウンターの奥からBloom Dreamの新曲のCDケースを取り出した。「彼女がリョウのファンで、よかったらサインもらえますか?」と言葉が続く。チャラそうな見た目なのに、案外彼女想いなんだと王輝は黙って見ていた。
「いいですよ。ペンあります?」
 遼は嫌な顔一つせずに承諾し、CDケースとペンを受け取り、慣れた手つきでサインを書く。「名前も書きましょうか?」と店員に尋ね、丁寧に彼女の名前を書き加えた。
「ありがとうございます!すごく喜ぶと思います。今度の発売イベント行くって言ってました」
「本当ですか?会えるの楽しみにしてますって伝えて下さい」
 嬉しそうな店員に、遼は「プライベートなので、ここにいたことは秘密にして下さいね」と少しの圧をかけて、王輝と店を出た。
「プライベートなのに優しいな」
「そうか?」
「知ってるよ、佐季は誰にでも優しいって」
 王輝の嫌味混じりの言い方に、遼は一つ思い当たる。
「今ヶ瀬だけ気づかれなかったから、怒ってる、とか?」
「そうじゃなくて……。まぁいいや」
 それも少しあったが、結局は自分の気持ちの問題だと王輝はわかっていた。今日はダメな日だ。もう何も言わない方がいいと気持ちを切り替えた。
「Tシャツ見ていい?」
 王輝が話を逸らしたことに遼は気づいていたが、これ以上触れないことにする。今日の王輝はどこか変だ。忙しくて疲れているのかもしれない。映画を観たらすぐに帰ろうと決め、遼は頷いた。
 そのあと、ファッションフロアの店をいくつか見て回った二人は、映画の時間が近づいたため、映画館と向かった。
 

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