闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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1章

仇敵

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僕は憎しみに飲まれていた。
男の顔を見るまでは拳鬼のすさまじい戦いぶりに身震いをしていたのだが、男の顔を見た瞬間、あの時のことを思い出し頭に血が上った。
あの男だけは許せない・・・。
男は僕の大事な家族をすべて奪った、父さん、母さん、妹も・・・。
だから、あの男だけは僕の手で殺す。



眼帯の盗賊は廃墟の奥へと逃げていく。
廃墟の裏には壁の崩れた場所があり、そこから森へと盗賊は逃げ出した。


「くそ、なにがガキが3人だ・・・一緒にいたのは拳の鬼じゃねぇか・・・あんな化け物が来るなんて聞いてねえぞ。」


眼帯の男は悪態をつく。



「とにかくいるもんはしかたねぇ、だが、ここまでくりゃ大丈夫か?」


安堵のため息を吐きながら今来た道の方を振り返る盗賊、だが、逃がすわけにはいかない。
やっと見つけたんだ・・・家族の敵を取らせてもらう。


「・・・・だれだ!・・・・!!っ」


僕はロングソードを抜き眼帯の男に切りかかる。
だが、眼帯の男はシミターと呼ばれる曲刀を抜き受け止める。


「ちっ・・・拳の鬼の仲間か!」


どうやら、相手は僕のことを覚えてないらしい、そのことがさらに頭に血をのぼらせる。


「お前だけは許さない!!」


怒りに任せ僕は剣を振るう、絶対にこの男を殺すんだ。
絶対に!


「父さんと母さん、そしてリリアの痛みを思いしれ!!!」


何度も何度も切りかかる、僕はあの頃よりかなり強くなった、それこそ、そこらの冒険者なんかより遥かに・・・盗賊くらい訳なく倒せるくらいに・・・なのになぜか僕の剣はあいつに届かない。
軽く受け止められてしまう、それもそのはずだ、僕の攻撃は怒りで単調になっていた。
相手は盗賊とはいえ、それなりに強いらしい。冷静になればこんなにあっさりと受けられることはないだろう。
だが、今の僕は冷静でなんていられなかった・・・いられるわけがなかった。
あの日のことが頭の中で思い出され、悲しさと怒りでわけが分からなくなっていた。
ただただ、目の前の男を殺したい。憎しみの感情しかなかったのだ。


《クオン過去side》


2年前のあの日、僕と家族は馬車で隣の街に出かけていた。
隣の街に有名なサーカス団が来ているということでそれを見に行ったのだ。
妹のリリアはまだ5歳でサーカスを見ることをとても楽しみにしていた。
僕もまだ10歳でサーカスを見るのは初めてだった。
お父さんもお母さんもリリアもとても笑顔でこれから見るサーカスがどんなものか予想しあい和気あいあいと馬車の中で楽しんでいた。


・・・・その時である。
一人の男が馬車の前に飛び出してきた。
男は盗賊に襲われていると言い、助けてくれと懇願してきた。


うちの両親は心の優しい人たちで、すぐにその男を馬車に乗るようにと促した。
男は涙を流しながらも馬車へと近づいてきた。
その男の風貌は赤い髪で片目を眼帯で覆っている。


リリアが少し怖そうにしていたので僕はリリアに大丈夫だよと声をかけた。
僕の父親は昔は騎士団に所属をしていたらしい、今は貴族の家を継ぐためにやめてしまったが、かなりの剣の使い手だ。
僕も小さいころから父さんに剣を習っていた。だから父さんが強いのはよく知っていた。たとえ盗賊が来ようとなんとかしてくれるそう思っていた。


父さんが眼帯の男に近づき、もう大丈夫ですよと声をかけた・・・。
その次の瞬間お父さんが「・・・・ぐ」と言う声を上げる。
僕はどうしたんだろうと、父さんを見た。
父さんはそのまま地面に倒れこんだ・・・お腹のあたりから赤い液体が出ている・・・血だ。


眼帯の男がお父さんを刺したのだ。
大きいナイフが父さんのお腹に深々と刺さっている。このままだと父さんが死んでしまう。


「いやああああああああ!」

母さんが叫んでいた。
眼帯の男は笑いながら背中に隠していた曲刀を抜き放つ。
そして逃げる御者の背中を曲刀で切り裂いた。


「助けてくれてありがとうよ、奥さん。でも残念、盗賊は俺自身だったんだ。ギャハハハハハ」


男は笑う、とても下品な笑いだった。
父さんはピクリとも動かない。このままだと父さんが死んでしまう。
そう思い僕は父さんに駆け寄っていった。


「だめよ、クオン!」


母さんが制止したが僕は止まらなかった。
父さんのところへ駆け寄って呼びかけ続けた。
それを見た眼帯の男は今度は僕に向かって曲刀を振るう。
僕は死を覚悟した。こんなところで死んじゃうんだ・・・。そう思いながら。
でもいつまでたっても痛みは来なかった。
それどころか暖かくて柔らかいものに包まれている感触があった。
恐る恐る目を開けると目の前には母さんがいた。


「母さん?」
「ごめんね、クオン、リリア。・・・・どうか優しい心をなくさないで・・・」


なぜか母さんは謝る。


「ギャハハハ、息子を庇うなんて母親ってのはすごいねぇ!」


息子を庇う?どういう意味だ?
そう思っていると暖かい液体が僕の顔に落ちてきた。
それを見て僕は理解する。母さんが僕を庇って斬られたんだ。


「母さん!?」
「ごめんね、クオン・・・ごめんね」


母さんは謝り続ける。
母さんが謝る必要なんてどこにもないのに謝り続けている。
次第に母さんから力が抜けていく、もう謝る言葉も聞こえない。
・・・・・嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!


「おにいちゃん!」


リリアの声が聞こえる。
母さんが僕の上にいるので体を動かせず頭だけを声のしたほうに向ける。



「おにいちゃん、助けて!」
「あ~らら、酷いねぇお前のお母さん。息子は助けたのに娘は助けに来てくれないよ、ギャハハ!」


母さんが助けに行けるわけがない。僕の上であいつに斬られてもう、息をしていないのに。
それをあいつは解っているのにリリアにそんなことを言う。


「やだ、やだ、たすけてええええ」


リリアの悲痛な叫びが聞こえた。
僕はなんとか母さんの下から這い出す。


「やめろ!リリアに手を出すな」


涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら僕は声を張り上げた。


「おーおー、粋がいいねぇ、そんな男らしいところを見ると言うこと聞いてあげたくなっちゃうね」


男がそう言うと、リリアは助かるかもしれないという希望に顔を緩める。
・・・・・・そしてそのリリアの胸に曲刀が貫かれていた。

「・・・・なんで?」


リリアは理解できないという表情のまま動かなくなった。


「あああああああああああああああああああああ!!!」


僕は叫んだ、叫んだところでリリアも母さんも父さんも戻っては来ない。
だけど、叫ぶことしかできない。叫ばずにはいられなかった。
許さない、許せない、この男だけは許すことができない。


「さぁて、あとは坊主だけだ。」


眼帯の男はにやけた顔のままこちらに近づいてきた。
僕は父さんのところに駆け寄り、腰につけていたロングソードを抜き構える。


「お~、勇ましいね」


男は余裕そうに笑っている。


「お、かなりの金持ちだな。かなりの額が入ってる」


男はこちらを見もせず母さんに近づきお金の入っている麻袋を取り出す。
サーカスを見るために用意したのでら結構な金額が入っているはずだ。
そのまま男は母さんの身に着けている宝石などを取ろうと体を漁る。


「母さんに触るな!!!!!」


その光景を見せつけられて僕は怒り男めがけて突進していく。
だが、男に蹴り飛ばされた。
そのはずみで持っていたロングソードを手放してしまう。


「うるさい餓鬼だな、そろそろ死んどくか?」


男が曲刀を手に近づいてきた。
僕は何もできずに殺されるのか、悔しい・・・このまま家族の仇もとれずに終わるなんて。
でも、どうにもできない・・・そう思った時、眼帯の男が後ろに飛びのく。


そこには僕と同じ夜空のような髪をした男が立っていた。
・・・・父さんだ、死んでいなかったんだ。


「よくも、俺の家族を・・・許さん!!」



父さんが眼帯の男を圧倒する。
不意さえつかれてなければ父さんがこんな奴に負けるわけがないんだ!


「ちっ・・・まあいい、金は手に入ったんだズラからせてもらうぜ」


盗賊が逃げていく、逃がしちゃだめだ!母さんとリリアの仇を取らないと!
なのに父さんは動こうとはしなかった。


「父さん、どうしたの?」
「すまんな、クオン。情けない父さんで・・・」


父さんは僕に謝った。
なんで謝るんだろう、父さんも母さんも僕を助けてくれたのに謝る。


「強く生きろ・・・お前ならきっといい人に出会える・・・だから・・・」


そこまで言って父さんは何も言わなくなった。
どうしたんだろう、疲れて寝ちゃったのかな?
最近仕事が忙しくて疲れているって言ってたしきっとそうなんだろうな。
・・・・そう、思いたかった。

父さんのお腹からは赤い液体が大量に流れていた。
最初に大きなナイフを刺された場所だ・・・致命傷だったのだろう、当たり前だ。
父さんは辛いのに痛いのに、僕を守るために盗賊と戦ったんだ。
僕だけ生き残った・・・妹を助けることも出来ず、母親に庇われ、父親に命がけで助けられた・・・。
この時、僕は大切な人を全てなくした。そして、その原因を憎むことしかできなかった。

《現代side》


僕は眼帯の男に斬りかかる。
過去を思い出しながら怒りと悲しみをぶつける。
この男だけは絶対に殺すんだ!


「ちっ・・・うぜぇんだよ!!」


僕は蹴り飛ばされた、あの時と同じように・・・でも今回は剣を手放さない。


「あの時のように何もできないままじゃない・・・父さんの代わりに僕がお前を殺す!!」
「ああん?・・・・そうか、お前あの時の餓鬼か。ギャハハハ、思い出した。あの時泣き喚いてた餓鬼か!」


あの時と同じように下品な笑い声で男は笑った。
この笑い声だ、この二年間ずっと耳から離れなかった憎い笑い声。・・・・。
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