闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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1章

廃墟の盗賊

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翌朝、私たちは集合場所である王都の門の向かう。
門に着くとエリンシアとラインハルトさんはすでに待っていた。


「おはよー」
「あら、来ましたわね」
「此度は我が国の大臣が迷惑を掛けてしまってすまない」


ラインハルトさんが開口一番に私達に謝罪してきた。


「ううん、確かにレディを捕らえたのは許せないけどラインハルトさんと国王様のおかげで何とかなりそうだしね。それに盗賊に手を出さずにいてくれたのは私達には好都合だったし」
「そうなのか?」
「うん、クオンの家族の仇を討たせてあげられるからね」
「家族の仇・・・クオン・・・そうか、君はドースティン子爵の?しかし、復讐というのは・・・」
「ラインハルトよ、もし目の前にアスカを殺した魔物がいたとしてもお前は私を止めるか?」
「・・・・いや・・・すまない、余計なことを言った」
「いえ、そう言う方が普通ですから」


謝るラインハルトさんにクオンは笑顔で答える。
クオンって大人だよね・・・私なら文句の一つも言いそうだ。


「それで、皆さん準備はよろしいんですの?」
「あ、うん。私はオッケー♪」
「僕も大丈夫だ」
「ラインハルト、あれは持ってきてくれたか?」
「ああ、この手甲をお前に返せるときが来るとはな」
「うむ、私も二度と着けないつもりだったのだが仕方があるまい」


そう言ってラインハルトさんからキラキラと光る手甲を受け取り、お父さんはそれを装備した。
あれが昨日言っていた聖武具なのかな。
それにしてもなんでお父さんはあれを預けたんだろう。


「お父さん、そう言えばなんでその聖武具を預けてたの?」
「ん・・・ああ・・・これはなお前の母さんとダンジョンに潜ったときに手に入れた思い出の品なのだ」
「へー、そうなんだ?」
「ああ、だからこれを見ていると母さんを思い出してしまってな・・・」
「わー、お父さん女々しい!」
「やかましいっ」


コツンと軽く私を小突くお父さん。
お父さんはお母さんが大好きすぎてお母さんが死んだ日が近づくと夜中に一人泣いている時がある。
私はトイレに行くために起きたとき、それを見てしまった。
私もお母さんが死んでしまったことは悲しい。死んでしまった時は胸が張り裂けそうなくらいだった。
でも、きっとお父さんはそれ以上に悲しかったんだろうな・・・だって滅多に泣かないお父さんが毎年お母さんの死んだ日が近づくと泣いているのだ。
ううん、もしかしたら私が知らないだけで他でも泣いているかもしれない。
あの、精神も体もオーガのお父さんを泣かせてしまうくらい、お父さんにとってお母さんは大事な存在だったのだろう。

だから、私はあえて茶化す!
少しでもお父さんの気持ちを和らげてあげたいし、それに一緒になって悲しんでたらお母さんに怒られそうだもん。


「では、出発いたしますわよ」
「おー!」


私達が親子漫才をしているとエリンシアが笑いながら声を掛ける。


「まったく、僕はこれから仇討ちだっていうのに君達親子といるとシリアスになれないよ・・・」
「とーぜん!シリアスになんてさせないよ。笑って復讐しよう!」
「いや、それは怖いでしょ!?」


笑顔で復讐相手に近づき、笑顔で斬りかかってくる復讐者・・・あ、うんホラーだわ。
その光景を想像してぶるっと体を震わせる私。


「あ、うん怖いね」


私の答えにみんなが笑う。

待っててね、レディ。
盗賊を倒して絶対に助けてあげるから!







私達は王都の南の森にある古い廃墟に来ていた。
ラインハルトさんの話だとここはすでに使われていないらしい。
盗賊たちはそれをアジトに利用しているようだ。

私達は、廃墟の入り口の見える位置に隠れ、様子を伺っている。
廃墟の入り口には見張りとして盗賊が一人と妖魔が3匹。そして廃墟の周りを数匹の妖魔が見回っている。
盗賊の1人がヘインズに殺され、2日も帰ってきていない筈なのに警戒が薄いのはどういう事だろう?
それとも、これでも増やしていたりするのかな?


「少ないですね・・・」


クオンも私と同じことを思ったのかそう口に出す。


「ふむ・・・元々君たちの倒した盗賊が紅の牙のメンバーじゃなかった可能性はないのかい?」


ラインハルトさんがそう確認してくる。
だが、それはないはずだ。なぜなら・・・


「いえ、あの盗賊は妖魔の呼び笛を使用していました。紅の牙のメンバーで間違いないと思います」

もしかしたら、他にも妖魔の呼び笛を持っている盗賊がいる可能性は零ではないだろう。しかし、あんな珍しい魔導具を持っている盗賊が同じ地域にいるとは思えない。


「だとすると、元々その盗賊は何日も帰らないことのある人物で気にしていないということか?」
「それもおかしいですわね。ならなぜ、妖魔がおりますの?笛が無ければ呼べないはずですわ」
「あの盗賊がここを離れる前に呼んでおいたとか?」
「いや、あの入り口にいる盗賊の首を見て・・・」


クオンがそう言って盗賊の首元を指さす。
そこには見たことのある笛がぶら下っていた。妖魔の呼び笛である。


「あれがあそこにあるということは・・・」


ヘインズがここに来たと言う事だ。


「じゃあ、ヘインズが盗賊が死んだ事を知らせていないとか?」
「その可能性はあるけど・・・そうする意味がわからないね」
「考えても答えがでんな・・・ならば、突撃あるのみだ」
「だね!」



うんうん、考えても分からないならとりあえず突撃してみるのが一番だよね。



「な、なにを言っていますの!?罠の可能性もありましてよ!?」
「でも、罠じゃないかもしれないじゃん?」
「罠だったらどうするんですの!?」
「んー、その時、考えればいいんじゃない?」
「良くありませんわよ!?」


だって、ここで考えてても仕方ないし、何か行動を起こさないと何も変わらないと思うんだけど・・・違うのかな?


「はあ・・・さすがヴィクトールの娘だ・・・よく似ている」
「はっはっは、そうだろうそうだろう」
「褒めてないからな?」


ジト目でお父さんを睨むラインハルトさん。
褒めてないのか・・・。



「とはいえ、ここでこうしていても仕方ありません、とりあえず仕掛けてみましょう」
「・・・解りましたわ、ですが気を付けてくださいまし」
「りょーかい!」


そう言って私たちは廃墟の入り口に向かって飛び出す。
入り口付近にいた妖魔を私は魔法で次々に倒していく。


「なっ、話が違うじゃねぇか・・・弱っちいガキが3人でくるんじゃなかったのかよ!」


入口付近にいた盗賊がそう言うと首にかけていた妖魔の呼び笛を吹いた。
私達と盗賊の間に十数体の妖魔が土の中から現れる。
そして、妖魔を呼び出した盗賊は一目散に廃墟の中に逃げていった。


「あ、逃げるよ!?」
「妖魔を蹴散らし追うぞ!」
「了解!」









「兄貴っ!」


廃墟の奥で大柄の盗賊が誰かから奪ったであろう宝石を眺めながらくつろいでいると、先ほどまで廃墟入口の所で見張りをしていた小柄の盗賊が慌てた様子で駆け込んできた。



「なんでぇ、騒々しい!」
「ヘインズの旦那が言っていた奴らが来たんですよ!」


ヘインズというのは彼らに妖魔の魔導具をくれた男である。


「ガキが3人だろう、何を慌ててやがる?」
「それが、ガキ意外にも大人の男が二人いやがるんです!それだけじゃねぇ、ガキ共も半端なく強ぇえんだ!妖魔共が一瞬でやられちまう!」
「なんだとぉ?」


兄貴と呼ばれた盗賊は右の眉を上げながら答えた。


「ヘインズの野郎が嵌めやがったのか・・・?ちっ、とにかく妖魔を簡単に倒すような奴らとまともにやりあう必要はねぇ、ここを捨ててずらかるぞ!」
「へい!」


危険からは逃げるに限るというのが兄貴と呼ばれた盗賊の性分である。
実際、そのおかげで今まで少数でありながら衛兵や冒険者達から逃れることが出来ていた。

二人が逃げようとしたその時。


「残念だけど、逃がすわけにはいかないよ!」


良く通る少女の声が廃墟の中に響いた。
男たちが声のした方を見ると、棒を持った少女を中心に5人の男女が立っていた。


「なっ、妖魔たちはどうした!?」


小柄の盗賊が廃墟の中に逃げたときにはまだ十数匹の妖魔が入り口を護っていた。
その数の妖魔がいたというのに自分がこの場所に来たすぐ後に彼女たちが来たことに驚いていた。


「どうしたって・・・倒したにきまってるじゃん」
「なっ・・・なっ・・・」


「まいったか!」と言わんばかりの余裕の表情でカモメが言う。



「どうするっ兄貴!」
「ちっ・・・こんな奴らとまともにやりあっても勝ち目がねぇ・・・妖魔を呼べ!」
「へい!!」


小柄の盗賊が呼び笛を口に咥え吹く。
すると地面から妖魔が7匹現れた。


「あ、兄貴・・・これで限界でさぁ・・・魔力がもう残ってねぇ」


どうやら、呼び笛も無尽蔵に妖魔を呼べるわけではないらしい。
吹き手の魔力を使って妖魔を呼び出すようだ。


「構わん、この隙に逃げるぞっ!」
「で、ですがザインはどうするんすか?」
「知るかっ、今は自分の身を考えろ!」
「へい!」


そう言って逃げ出そうと振り返る盗賊たち。
一目散に私たちの来た方向とは反対方向に駆けだす・・・が。
駆けだした瞬間、兄貴と呼ばれた男が見事に顔をへこましながら吹き飛んだ。

いつの間にか回り込んだお父さんの拳が盗賊の兄貴の顔面にクリーンヒットしたのだ。
盗賊の兄貴はくるくると縦に回転しながら壁へと突っ込んでいった・・・死んだかもしんない。



「あ、あにきいいいいいいいいい!?」
「うわぁ・・・・・・」


その光景を見てドン引きという感じの声を上げたのはエリンシアであった。
私はいつもの光景なので気にしない、ラインハルトさんも昔パーティを組んでいたときによく見たのだろうやれやれと言う表情で頭を?いていた。
クオンとエリンシアは目が点になっている。


「これであと一人・・・いや、もう一人いる筈だな・・・」



そう、肝心なクオンの家族の仇の盗賊がいない。
確か、赤髪の隻眼の男だとクオンは言っていた、だが、さっき吹き飛んだ男もそこでへたり込んでガタガタと震えている男も髪の色は赤ではない。
吹き飛んだ男は緑で、震えている男は青だ。
なら、もう一人の盗賊がクオンの仇であるはずなのである。


「さて、他の仲間はどこだ?」


お父さんが震えている盗賊に尋問しようと拳をゴキゴキと鳴らしながら鬼の形相で尋ねた・・・怖いっ。


「ひっ・・・ひぃいいいい」


盗賊が悲鳴をあげる・・・まあ、そうだろうね。


「なんだ今の音は!?」


盗賊が今にも失神しようかというその時、奥の部屋に続くのであろう通路から赤髪の男が声を荒げて現れた。
その男は片目を眼帯で覆っており、燃えるような赤い髪を逆立てていた。


「なっ・・・」
「ザ、ザイン助けてくれぇええ!」


震えていた盗賊が男の名を呼び、助けを求める。
あの男はザインというらしい。

ザインは状況を理解するや否や、部屋には入ってこず、踵を返し逃げていった。

そして、その男の後を呼び出された妖魔をすり抜け追いかける影がひとつ・・・・クオンだ。


「クオンっ、待って!!」


慌てて私はクオンの後を追った。
後ろではお父さんが制止する声が聞こえたが私はそれを無視する。
だって、クオンが今までに見たことないような怖い顔をしていたんだもん・・・。
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