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11.婚約パーティー
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しおりを挟む「なんだ!?」
会場には、何もない。
ステージも、テーブルも、料理も。
あるのは、壁にかかった真っ白のスクリーンだけ。
なに、これ……。
オルゴールのメロディが流れる会場内には、十人ほどが立ち尽くしていた。
皆正装しており、顔見知りらしく話をしている人もいれば、壁際で青い顔で俯いている人もいる。
「西堂さん?」
「滝田社長! いらしてたんですか」
登さんが滝田社長と呼んだのは、滝田重機の社長。
「どういうこと!? なんであんたが――」
知った女性の声がして、顔を向ける。
鹿子木さん――!?
鹿子木さんが真っ赤なドレスを着て、壁際の男性に向かって声を荒げている。
「ユリア?」
滝田社長が呟いた。
とても小さな声だったけれど、間違いなく、鹿子木さんを見て呟いた。
そして、それは登さんにも聞こえていたらしく、彼は眉間に皺を寄せて滝田社長を見た。
背後に人の気配がして振り向くと、見覚えのある人物がいた。
あちらもまた私に見覚えがあるようで、目が合うなり思いっきり逸らされた。
あの人は確か、営業部の近本……さん。
近本さんは会場の隅まで移動すると、会場内の面々を見てわかりやすく俯いた。
「ママ、ごはーは?」
「あ、うん」
力登には美味しいものを食べに行こうと言ったから、当然楽しみにしていた。
けれど、困ったことに、食事する雰囲気ではないようだ。
「ユリア! 何をしているんだ」
恰幅のいい白髪の男性がツカツカと近づき、鹿子木さんを叱責した。
「ママ、ごはーは?」
「あ、うん」
力登には美味しいものを食べに行こうと言ったから、当然楽しみにしていた。
けれど、困ったことに、食事する雰囲気ではないようだ。
「お父様。今日のパーティーは――」
「――鹿子木社長」
呼ばれた父親が振り返り、一瞬で笑顔を作る。
「これは! 東雲社長! お久しぶりです。娘がお世話になったにも関わらず、ご挨拶もしませんで――」
「――いえ。我が社での経験と知識が、お嬢さんの財産となるものであれば良いのですが」
梓さんが来るということは東雲専務も来るということ。
そして、理人の直属の上司である東雲社長も。
「もちろんです! おかげさまで、娘の縁談も決まりまして、感謝しております」
「それは何よりですね」
「ええ。トーウンコーポレーションの重役秘書という貴重な経験を活かし、夫を支えていけるよき――」
「――重役秘書?」
東雲社長の背後から、東雲専務が聞く。
隣には、梓さん。
彼女はネイビーのワンピースを着て、専務の腕に手を添えている。
「お嬢様が役員の秘書をしていたとは、初耳です」
「え?」
鹿子木社長の表情が固まる。
「役員秘書はベテラン揃いで、ここ数年は変更がなかったはずですが」
「……え? いや、娘は常務の専任秘書をしていたと聞いていますが?」
「おかしいですね。常務は三名おりますが、秘書は全員男性です」
鹿子木社長が勢いよく娘を見やる。
娘はこの状況にそぐわない、作り笑顔で父を見ている。
父親にも見栄を張った……?
「ユリア、これは一体――」
「――まぁま! おいしぃは!?」
突然の力登の声に、一斉に会場内の視線が集まる。
登さんが不機嫌さを隠さずに、私を睨む。
私は力登の手を握り直し、身を屈めた。
登さんが戻って来る前に、立ち去りたい。
「りき、ママとおいしぃの探しに――」
「――失礼いたします」
若い男性の声。
私は上体を起こして、彼を見た。
二十代前半に見える男性と女性が立っている。
男性はさらっさらの栗色の髪で透き通るような白い肌で、カジュアルスーツを着ている。韓国のアーティストだと言われても疑わないくらいに、綺麗な顔立ち。
女性は肩より少し長い真っ直ぐな黒髪で、白のブラウスに黒のパンツというシンプルな服装。
化粧っ気はなく、可愛い雰囲気。
招待客でもホテルのスタッフでもなさそうだ。
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