115 / 164
11.婚約パーティー
6
しおりを挟む*****
「お待ちしておりました、西堂様」
ロビーに入るなり、支配人の名札を付けた男性が登さんに声をかけた。
どうして登さんが西堂だと知っているのか不思議に思うも、当人は自分の名と顔が広く知れているとでも勘違いしたようで、ご満悦で彼について行った。
元夫がチェックインカウンターに向かうのを見て、パーティーの後は力登を帰してホテルに泊まると言っていたことを思い出す。
いや、忘れていたわけではない。
忘れたくて、考えないようにしていただけ。
「おじーちゃ、いたいの?」
息子の声にハッとして、足元を見た。
すぐそばに立っていたはずの力登が壁側に並ぶソファの前にいて、私は駆け寄った。
ソファには高齢の男性が座っていて、足の前に杖をつき、それを両手で持っている。
力登に笑いかけているところを見るに、不快な思いはさせていないようだけれど、子供を煩わしく思う人もいる。
「すみません、息子が――」
「――優しいお子さんですね」
男性の声にドキリとした。
低くて穏やかな声。
艶っぽさをプラスすると理人に似ている気がした。
「少し足が痛んでね。それを息子さんが心配してくれました。優しくて可愛い子ですね」
「ありがとうございます。あの、お加減はいかがです? 誰かご一緒の方は――」
「――すぐに戻ってくるので、大丈夫です。ご心配、ありがとう」
「いえ」
理人が歳を重ねたらこんな感じだろうかと思うほど、似ている声。
力登が男性をじっと見ているのも、そのせいだろうか。
「力登、行こう?」
「あら! あらあらあら!」
弾む高音に、私と力登が同時に振り返る。
「お父さん! こんな若いお嬢さんを口説いてるの!?」
淡いピンクのスカートをなびかせて、可愛らしい女性が歩いてくる。緩くパーマがかった長い髪が、ふわりと弾む。
可愛らしいとは言っても、恐らく五十代だろう。
幼いとか若作りをしているとかではない。
笑顔と声、そして雰囲気が可愛らしいのだ。
彼女が歩いた後には花が舞っていそうな、力登が持っている絵本の、お花の国のお姫様のよう。
杖を突いている男性を『お父さん』と呼んだということは、彼女は娘なのだろう。
「ごめんなさいね? 私の父なの。八十を過ぎてるのに、好みの女性をナンパしちゃうの。呆れちゃうわよね」
「私が口説こうとしてるのは、この小さな王子様だよ」
「え?」
男性が力登の頭を撫でる。
「可愛くて優しくて賢そうな子だ。どうかな? このじいと友達になってくれないかな?」
「……?」
さすがに、力登には意味がわからない。
現に、ぽけっと男性を見上げている。
「やぁね、お父さん! 鬼ごっこもかくれんぼもできないじゃない」
……鬼ごっこ?
「華純、そういう問題じゃないと思うよ?」
長身の男性が歩み寄ってきて、女性の腰に手を添えた。
黒々とした髪を後ろに撫でつけていて、秘書モードの理人のよう。
「お義父さん、時間ですよ」
男性は滑らかな動きで義父に手を差し伸べる。
その手につかまって立ち上がった男性は、表情を歪めながら背を伸ばした。
義息子さんと同じくらい背が高い。
ダークグレーのストライプ柄のスーツに、磨かれた黒靴。
スーツを着慣れているのだろうとわかった。
「行こうか。返事はパーティーの後で聞かせてくれるかな」
パーティー……って。
「おいっ!」
登さんの声にハッとして、力登の手を握る。
「行くぞ」
「はい」
少し離れた場所から腕を組み、私を睨みつけている。
私は三人に会釈した。
「これで、失礼します」
この時、彼らがどんな表情で私たちを見ているのか、私はわからなかった。
とにかく急いで登さんの元に戻ったから。
そして、支配人に案内され、パーティー会場に入る。
え……?
1
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
極上エリートの甘すぎる求愛に酔わされています~初恋未満の淡い恋情は愛へと花開く~
櫻屋かんな
恋愛
旧題:かくうちで会いましょう 〜 再会した幼馴染がエリートになって溺愛が始まりそうです 〜
第16回恋愛大賞で奨励賞いただきました。ありがとうございます!
そして加筆もたっぷりしての書籍化となりました!めでたーい!
本編については試読で16章中3章までお楽しみいただけます。それ以外にも番外編やお礼SSを各種取り揃えておりますので、引き続きお楽しみください!
◇◇◇◇◇
三十一歳独身。
遠藤彩乃はある日偶然、中学時代の同級生、大浦瑛士と再会する。その場所は、酒屋の飲酒コーナー『角打ち』。
中学生時代に文通をしていた二人だが、そのときにしたやらかしで、彩乃は一方的に罪悪感を抱いていた。そんな彼女に瑛士はグイグイと誘いかけ攻めてくる。
あれ、これってもしかして付き合っている?
でもどうやら彼には結婚を決めている相手がいるという噂で……。
大人のすれ違い恋愛話。
すべての酒と肴と、甘い恋愛話を愛する人に捧げます。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
サディスティックなプリテンダー
櫻井音衣
恋愛
容姿端麗、頭脳明晰。
6か国語を巧みに操る帰国子女で
所作の美しさから育ちの良さが窺える、
若くして出世した超エリート。
仕事に関しては細かく厳しい、デキる上司。
それなのに
社内でその人はこう呼ばれている。
『この上なく残念な上司』と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる