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6 二人の距離
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しおりを挟む今の私には、それで充分。
私は智也の首に腕を回し、自分からキスをした。
すっかり忘れたと思っていたけれど、してみると思い出すもの。
唇に触れ、咥え、舐める。
開いた扉が閉じてしまわないように、素早く身を挟む。
その後はもう、互いを味わうだけ。
智也の手が胸を弄る。
昨夜は恥ずかしいばかりだったのに、今は心地良いと思える。
もっと触って欲しいとさえ、思う。
部屋に響くのは舌が絡まる水音と、窓の向こうの波の音だけ。
足の間に智也の片足が挟まれ、少し身体が浮いた気がした。そのままベッドに倒れ込む。
一瞬、唇が離れたが、すぐに重なった。
胸に置かれた手が、シャツのボタンを外していく。
私もまた、智也のジャケットを脱がす。
私の身体に覆い被さっていた智也が起き上がり、ネクタイを解く。
男の人のこの仕草を、初めて格好いいと思った。
智也はするするとシャツを脱ぎ、ベルトを外す。スラックスのファスナーを下ろすと、下着越しにでも大きくなったモノが目に入った。
キスだけでも、興奮してくれているのが嬉しい。
久し振りに見る男性の裸に見惚れていると、智也が私のシャツのボタンに手を伸ばした。
シャツの中には黒のタンクトップ。さらに中は黒のシームレスブラ。
ここまできたら、色気のない下着など一刻も早く脱いでしまいたい。脱いだところで、ハリも艶もない胸に色気がないのも事実だが。
「そういや、どのくらい振りなんだ?」
シャツのボタンを外しながら、智也が聞いた。
「え?」
「セックス」
「あーーー……。八年……か、九年?」
「マジで!?」
亮を妊娠した頃が最後だから、正確には九年と三か月ほど。
「じっくりしないと痛そうだな」
誘導されてシャツから腕を抜く。
「けど、出産してるならそうでもない?」
「帝王切開だから……」
「ああ、そうか」
智也は私の腕を引いて上体を起こすと、タンクトップをまくり上げた。私はバンザイをして、脱いだ。
先に脱いだはずのシャツが、お腹の周りに落ちていた。
「腹、見られたくないんだろ?」
ヤバい、と思った。
こんな風に、優しくされたことなんてない。
「それを言ったら、全部見られたくないんですけど」
「それは却下」と言って、ブラのホックを外した。
腕から引き抜き、ベッドの下に放る。
思わず、胸を隠してしまった。
「電気……じゃなくて、カーテンを……」
「俺は忙しいから、自分でやって」と言いながら、私の手を広げ、露わになった胸にキスをした。
「ちょ――」
「そこら辺のボタンだろ」
智也の舌先が、胸の先端に触れる。
気持ち良さよりも、恥ずかしい。
私は枕元に並ぶボタンに手を伸ばした。
ボタンやらレバーだかが並び、どれがカーテンを閉めてくれるのかわからない。
そうしているうちにも、智也の手が私のパンツのファスナーを下ろす。
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