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15 女の顔、母親の顔
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しおりを挟む「大体、父親が社長って立場を利用して落とし前をつけようってやり方が卑怯じゃない。どうせ、やらかした息子は『俺は悪くない』『誘ったのは女の方だ』とか責任逃れを言ってるんでしょう? それを真に受ける父親も父親、だと思うけど」
「女の立場で京本たちを庇いたいのはわかるけど――」
「別に? ただ、一方的にどちらかだけを悪者にしていい問題じゃないってこと」
彩が立ち上がり、バリスタのスイッチを入れた。食器棚からマグカップを二つ、取り出す。
「そんなこと言ったって、京本が自慢気にハイスペックな男と合コンするって話してたのは事実だし、相手もFSPの接待を受けるって報告してたらしいから、近藤がセッテ
ィングしたのは間違いないだろ」
「じゃあ、智也が接待を受けて、その場にいた女性と意気投合してヤッちゃっても、自分は接待を受けた側だから悪くないって言うの?」
「話が違うだろ」
「根本的には同じでしょ。要は、三人のセックスが契約に繋がったのかってことじゃないの?」
彩がボタンを押すと、バリスタは唸りながら香ばしい香りのする黒い液体を放出しだした。それを、真っ白いカップが受け止める。
その音を聞きながら、俺は記憶を辿っていた。事が発覚してから、枕営業の事実と経緯を追求するだけで、当人の感情は誰も気に留めなかった。
そして、相手の一人が社長の息子であることに気を取られ過ぎて、その事実が契約に影響を及ぼしたのかまでは誰も言及しなかった。
「もし、京本たちの接待が、契約には直接影響してなかったら?」
「ただの合コン、じゃない? っていうか、接待って言うなら費用はFSP持ちだったの?」
「領収書の類は提出されてないはずだ」
それらは全て、経理の前に俺が目を通す。仮に近藤からそんな領収書が提出されたら気づくはずだ。近藤は顧客を持っていないし、接待など命じてもいない。
「じゃあ、自腹? ホテル代も?」
「……」
そんなこと、聞き取りの場で聞いてもいなかった。
いや、だが、聞いたところで何が変わる?
契約には関係ないところでの情事だからFSPには関係ない、なんて言えるはずがない。
コトン、と目の前にカップが置かれ、俺は顔を上げた。
「私が話してみる?」と言って、彩がバリスタに自分のカップを置き、ボタンを押した。
「え?」
「三人と。女同士の方が話してくれるかもよ?」
「……」
なるほど。確かに、その方がいいかもしれない。
だが、そうなれば――。
「お前は三人とやり合っただろう? 話すか?」
「だから、じゃない? 泣こうが怒ろうが、口を開いてくれたら何か聞けるかもしれないでしょう?」
確かに。
だが、部長になんて言う?
聞き出す役に、課の違う俺が彩を指名するのは不自然だ。
ぐっすり寝たとはいえ、疲れが抜けきれなくて頭が働かない。
「シャワー、浴びてくる。買い物に行くだろ?」
「ん……」
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