最後の男

深冬 芽以

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15 女の顔、母親の顔

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 ぼんやりと頭から熱いシャワーを浴びていた。

 今週は目まぐるしい一週間だった。

 毎日ホームルームに出向き、謹慎中の京本たちに会って聞き取り調査をして、帰社してから通常業務をこなす。睡眠時間が平均三時間で何日も耐えられるほど、もう若くはないと思い知った。

 人は、こういう時に思うのだろうか。



 誰かが待つ家に帰りたい、と。



 実際、俺も思った。

 疲れて帰って、たとえ先に寝ていても、誰かがいてくれるだけで、手作りの食事がテーブルに置かれているだけで、何かが違うのではないかと。

 そして、その『誰か』は、一人しか思い浮かばなかった。

 シャワーを止めると、掃除機をかける音が聞こえた。

 数か月前は、自分の家に自分以外の誰かがいるなんて、想像もしなかった。

 長く一人暮らしをしていたから、自分の領域に他人を入れることに嫌悪感があったし、そういう意味では軽く潔癖症になりつつあったと思う。

 それが、真心と一緒にいる彩を見て、抵抗なく家に入れる気になった。むしろ、抵抗があったのは彩の方だったろう。

 彼氏の家に初めて遊びに行く、みたいに緊張気味だったのを覚えている。



 千堂の家に行った時も、あんな感じだったんだろうか?



 考えると、イラっとした。

 出かける準備をしてリビングに戻ると、大きなバッグが目に入った。

「今日、泊まれんの?」

「帰るよ?」と、彩が言った。

 答えになっていない。

「どうして?」

「仕事、持ち帰ってるんでしょう? 休み中に食べられるように、大目に作り置きして――」

「子供は父親のところか?」

「……うん」

「じゃあ、泊まれるんだな」

「……うん」

 彩の扱い方に、慣れてきたと思う。

 同じように、彩も俺の扱い方がわかってきただろう。



 だから、居心地がいい。



「買い物に行くか」

「ん。何が食べたい?」

「カツカレー」

「好きだね、おじちゃん」

「おじちゃん、言うな」

 彩が、ケラケラと笑う。

 つられて、俺も笑う。

 たったそれだけのことで、疲れを忘れられた。

 俺がカートを押し、彩が食材をカゴに入れて行く。はたから見れば夫婦。そう考えただけで、少し嬉しくなった。

 カゴいっぱいの食材を袋に詰めて、カートに乗せて出口まで転がして行き、袋を持ち上げようとした時、三つある袋全てを、彩が持とうとした。俺はギョッとして彩の手から大きな二つを取り上げ、パンなんかが入った軽い袋を彩に持たせた。



 また、だ。



 彩が驚いた顔をして、それからふっと笑う。

 何度か一緒に買い物をしたが、いつもそうだ。気のせいじゃない。
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