最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
181 / 212
20 最後の男

10

しおりを挟む
 俺は彩の言葉を最後まで聞かず、彼女の両足を肩に担いで挿入した。

「んんんっ――!」

「痛い……か?」

 彼女の温もりに包まれて、俺は身震いした。

 彩を抱くまでは、セックスに幸せなど感じたことはなかった。

 セックスは所詮、欲望だ。

 感情抜きでも勃つし、濡れる。

 それも、間違いではないのだろう。

 けれど、真実ほんとうの幸せとか安心感を知ってしまったら、一瞬の快感や満足感に意味はなくなる。

 彩が手を伸ばし、俺の頬に触れた。

 親指の腹で、瞼をなぞる。

「これで、俺が『最後の男』な?」

「え……?」

 彩が目を細めて、俺を見た。

「俺はお前の『最後の男』な――?」

 キュウッと膣内なかが締まり、じっとしているのが辛くなる。早く、動きたい。強く、激しく。

 彩に締め付けられながら、何度も膣内なかを掻き混ぜて、俺の形を思い出させたい。

「とりあえず、暫定――ね?」

 彩が、フッと笑った。

「言うか? それ」

「言っちゃった」

 ムードの欠片もない。

 けど、これが俺たちなのだろう。

 俺は肩から彼女の足を下ろし、両脇に抱えた。

 それから、彩の瞼にキスをした。鼻にも。頬にも。唇にも。

「好きだよ、彩」

 彩は穏やかに微笑んで、俺の首に腕を絡め、同じようにキスをくれた。瞼に。鼻に。頬に。唇に。

「私も好きよ」

 涙が出るほど、嬉しかった。幸せだった。

 きっと、彩も同じ気持ち。

 俺の腕の中で激しく揺さぶられ、嬌声を上げて悦び、時折俺の名を呼び、キスをねだる。

 俺は狂ったように腰を振り、きつく彩を抱き締め、彼女の声に身悶えし、求められるがままに唇を重ね、耳元で囁く。

「好きだよ……」

 彼女の膣内なかが俺を離すまいときつく締め付け、激しく収縮し、俺は成す術なく果てた。

 そりゃあ、もう、大量に放出し、彩に大笑いされた。

 こんな気取らないセックス、他の女とは出来ない。

 つまり、そういうことなんだ。

「お前、俺の『最後の女』な――?」

「とりあえず、暫定?」

「俺だけ確定じゃ悔しいから、今のところはそういうことで」

「変なの」

「俺達らしいだろ?」

 彩がくすくすと笑う。

 そんな彩を見ていたら、自然と言葉が出た。

「愛してるよ」

 彩の笑顔が消え、代わりに大粒の涙が目から溢れた。

「もう一回、言って?」

「ダメ」と言って、俺は彩の涙を唇ですくう。

「え!?」

「『とりあえず』と『暫定』が外れたら、な」

「外れるの?」

「外れるだろ。『ごっこ』も外れたんだし」

「……そうだね」

 チュッと音を立てて、キスをした。

 彩が俺の肩を押し退け、身体を捻って俺に跨った。

「じゃあ、『とりあえず』と『暫定』が外れたら、今度は私から言う」

 今度は、彩がチュッと音を立てた。

 きっと、俺と彩はこれからもこんな風に、色気ムードのない会話を楽しみながら過ごすのだろう。

 それでいい。

 それが、俺達らしい。

「彩」

 今度は俺が彩の首に腕を絡めた。

「誕生日、おめでとう」

 こうして、いつまでも、誕生日を祝いたい。

 この先、何度でも。

 誰よりも、多く。

 誰よりも、先に。

 俺は、心から、そう願った。


----- END -----





~あとがき~

 今作も無事に完結いたしました!
 最後まで読んでくださって、ありがとうございますm(__)m

『最後の男』はキャラクターの年齢が高めで、バツイチ、子持ちという、ロマンスとしては現実的な設定ではありましたが、親近感を持って読んでいただけるのではという期待を込めて書かせていただきました。

 ご存じの方も多いかと思いますが、彩は作者自身がモデルになっています。とは言っても、作者は彩ほど懐も広くないし、年下の男性に好かれる要素はありませんが、そこは夢を見たい一心で盛らせていただきました(笑)

 元夫の言動を文章にしていると、つくづく自分の男を見る目のなさを思い知りました。
 そして、読者様から彩への同情のコメントや励ましのコメントをいただくと、自分への言葉のように思えて嬉しかったです。

『自分もシングルなので、彩の幸せを自分の幸せのように願っています』というコメントもいただき、本当に泣きました(´;ω;`)
 ありがとうございます!

 ギリギリまで智也と隼のどちらとくっつけようかと迷っていましたが、圧倒的に智也派が多く、むしろ隼が可哀相になってきて、隼とくっつけちゃおうかなとも思ったのですが(笑)
 私自身なら、甘え上手で素直な隼も捨てがたいところでしたが、理想と現実の違いですよね(笑)

 読者様、納得のエンディングとなっていたら嬉しい限りです( ´艸`)


 さて、お次は『【番外編】千堂隼の恋』を書きます!
 やっぱり、隼にも幸せになってもらいたい(つд⊂)

 ぜひ、お楽しみください!


 【ルーズに愛して】シリーズも、のんびり連載中です!

 どの作品も、感想をお待ちしています_(_^_)_


~megu☆ミの作品~

女は秘密の香りで獣になる
ダブル・ミッション【女は秘密の香りで獣になる2】
ねぇ、笑って……?
共犯者 ~報酬はお前~
最後の男

【ルーズに愛して】シリーズ
友達、時々 他人
指輪を外したら、さようなら
私の身体を濡らせたら

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

恋愛短編まとめ(現)

よしゆき
恋愛
恋愛小説短編まとめ。 色んな傾向の話がごちゃ混ぜです。 冒頭にあらすじがあります。

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

サディスティックなプリテンダー

櫻井音衣
恋愛
容姿端麗、頭脳明晰。 6か国語を巧みに操る帰国子女で 所作の美しさから育ちの良さが窺える、 若くして出世した超エリート。 仕事に関しては細かく厳しい、デキる上司。 それなのに 社内でその人はこう呼ばれている。 『この上なく残念な上司』と。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...