最後の男

【番外編１】千堂隼の恋

苦悩－１

　溝口あの男は何をやっているんだ――！



　普段、あまり負の感情に振り回されることのない俺だが、さすがにムカついた。

『お前に彩あやは渡さない』なんて格好いいこと言っておいて、土壇場で逃げ出した。



　ダメ押しで、見送りの為の半休まで許可したのに――！



　溝口みぞぐちさんが堀藤ほりふじさんに気持ちを伝えるなり、関係をハッキリさせるなりしなかったことは、彼女の表情でわかった。

　男として、溝口さんの気持ちがわからないでもない。

　部下の不祥事の責任を取る形で、閉所が決定しているも同然の地方所に異動になった。このままでは、半年後には失業だろう。

　そんな状態で、堀藤さんを縛るなんて出来ないと思うのは、至って当然だ。

　けれど、俺に言わせてみれば、今回の場合なら就職の際にＦＳＰウチからの口利きもあるだろうし、溝口さん自身の伝手もあるだろう。実際、過去にヘッドハンティングの噂もあった。今よりも好待遇で転職できる可能性もある。

　それは、溝口さんだってわかっているはずだ。

　それなのに、あっさり異動を受け入れた。

　堀藤さんを『自分のもの』にもしないで。

　意味がわからない。

　何より、俺がムカついて仕方ないのは、『俺が』彼女のそばにいるのに、手放したことだ。

　振られているとはいえ、毎日一緒に仕事をしている俺を警戒していないわけがない。

　それはつまり、俺に奪われてもいいと思っているのか、俺のことをライバルとも思っていないのか。

　どちらにせよ、溝口さんはもういない。



　彩さんはまだ、誰のものでもない――。