15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

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2.知ってるよ?

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「和葉! 鍵、忘れないでね」

 バタバタと階段を駆け下りてきた娘に声をかける。

「あ! 忘れてた」

「もうっ」と言いながら、リビングのサイドボードの上に置かれたハートのスクイーズのキーホルダー付きの鍵を和葉に渡す。

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい。今日は家にいてね」

「はーい! お土産買って来てねー」

 はぁと肩で息を吐き、和葉が蹴飛ばしていった由輝の靴を揃える。

「どっか行くのか?」

 トイレから出て来た和輝が聞いた。

 ため息を飲み込む。

「あなたのお母さんの病院」

「ああ」

 和輝の母親はひと月に一度通院しているのだが、免許のない義母はバスや地下鉄を乗り継いで行くのが面倒で、私が送迎をしている。

 和輝の父親は七十歳を期に免許を返納した。

 その為、通院や遠方での買い物がある時は、私がパートの休みを取って送迎する。

「頼むな」と、和輝が言った。

 毎月の会話。

 夫はカレンダーに書き込まれた母親の通院日を覚えない。けれど、知ればこうして『頼むな』と一言ある。

 ずるい。

 そんな一言があるから、私は彼に八つ当たりもできない。

 家族を見送って、簡単に家事を済ませ、和輝の実家に行く。車で二十分。

 お義父さんが免許を返納して良かったことは、毎週末のように義母が我が家を訪れなくなったこと。

 買い物で近くに来たから、おすそ分けに、ちょっと顔を見に、突然来てはお茶を飲んで帰って行く。

 いなくても怒られたりしない。

 が、やはり気を遣う。

 あちらから来ることがなくなると、呼びつけられることが増えたが、それは二回に一回は断っている。

 結婚して間もなくは和輝に泣きついて断ってもらっていたが、十五年も経てば平気で断れる。

「こんにちはー」

 インターホンを押すと同時に玄関ドアを開ける。

「はいはーい」とお義母さんの陽気な声。

「上がっててぇ」

「はーい」

 私は靴を脱ぎ、スタスタと進んでいく。

「おはようございます」

「おはよう、柚ちゃん」

 お義父さんはソファに座ってテレビを見ていた。毎朝のワイドショー。

「柚ちゃん、この女優さんが亡くなったの、知ってるかい?」

 テレビを見ると、昨夜のネットニュースで見た女優さんの訃報。

 享年七十五歳だというから、お義父さんの世代のど真ん中だろう。

「はい。癌だったんですよね?」

「最近見ないと思ったらなぁ……。好きだったんだよなぁ、若い頃。ヌードになって騒がれたりしたのは、いつだったかなぁ」

 お義父さんは今日も通常運転で何より。

「お父さん! 冷蔵庫にお昼ご飯があるから、チンして食べてよ」

 お義母さんがバタバタと居間にやってきた。

「んーーー」と、お義父さんは気のない返事。

「そう言って! 私がいないといっつもカップ麺なんだから!」

 お義母さんもいつも通り。

 お義父さんはレンジを使いたがらない。

 私の父同様、長年台所に立ち入らない生活をしていた団塊の世代には、レンジなるものに用はないらしい。

 ポットのボタンは押せるから、カップ麺に注ぐ方が楽なのだ。
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