11 / 89
2.知ってるよ?
2
しおりを挟む
私は義母を助手席に乗せ、先月と同じ道順で病院を目指す。
雪道で時間がかかるだろうと、先月より三十分早く出発して正解だった。
「じゃあ、終わったら電話ください」
「はいはーい」と、義母は病院に入って行った。
私は病院の駐車場に車を停めて、十分ほど歩いて地下街に入り、ブラブラする。
義母から電話が来るまで約一時間半。
いつもこうして時間を潰す。
まぁ、家族へのお土産を買うだけだが。
先月来た時には売り切れていた季節限定のあまおうロールケーキを見つけ、和栗のロールケーキと二本買った。
早々に用が済み、私はいつものカフェでコーヒーを飲むことにした。
平日の午前とあって店内はガラガラで、私は窓際のソファ席に座った。
窓の向こうには、足早に通り過ぎるサラリーマンや、友達と買い物を楽しむ主婦の姿。
私は毎月、この店でこうしてコーヒーを飲みながら、行き交う人たちを見ている。
やめればいいのに。
なぜやめないのかは、私にもわからない。
あ……。
先月は見なかった、目当ての女性がビルから出て来た。
地下直結のビルに職場がある彼女を、私は知っている。
今日も、相変わらず美人だ。
真っ直ぐに伸びた腰までのブラウンの髪に、抜かりないメイク、ネイルもばっちりで、ベージュのロングコートの合わせ目からは、見るからにバリキャリですって紺か黒のスーツが覗いている。そして、七センチくらいはあるヒールに、高そうなバッグ。
ある意味、十五年前より若いんじゃない……?
行儀悪く頬杖を突き、じっと見つめる。
待ち合わせをしているようで、その場を動かない。
三分で、お待ちかねの人物が登場した。
今朝、見送った時と同じスーツにコート、鞄を持った男。
二人は簡単に挨拶を交わし、駅に向かって歩き出す。
私はじっと見ていた。
二人が鞄一つ分の距離を保って並び、私のすぐ目の前を通り過ぎていくのを、じっと。
じっと。
カフェの窓はマジックミラーになっていて、中から外は見えても、外から中は見えない。
だから、どんなにじっと見ていても、二人に私は見えない。
相変わらず、お似合い……。
私はようやく視線を移し、コーヒーを飲み干して店を出た。
スマホを見るが、まだ義母からの連絡はない。もうすぐ昼だ。
「お母さん?」
背後からの声にハッとして振り返ると、和輝がいた。
「なんで――」
「――じゃあ、私は失礼します」
少し離れた場所にいた彼女は、和輝に会釈した。私にも。
だから、私も会釈した。
モコモコのダウンコートを着て、化粧もそこそこの顔で、去年の春のセールで買った流行おくれのバッグと、スイーツの袋を持って、会釈した。
惨めだ。
「じゃあ、また。お疲れ様です」と、和輝が言った。
彼女を見て、言った。
それから、私を見た。
さぞ、残念だろう。
私はまた、惨めになった。
「一緒に仕事してる人なんだけど、自社でトラブルがあったらしくて取引先への訪問をやめたんだ」
「そう」
「お母さんは?」
ねえ? あの女性のことはなんて呼んでいるの?
雪道で時間がかかるだろうと、先月より三十分早く出発して正解だった。
「じゃあ、終わったら電話ください」
「はいはーい」と、義母は病院に入って行った。
私は病院の駐車場に車を停めて、十分ほど歩いて地下街に入り、ブラブラする。
義母から電話が来るまで約一時間半。
いつもこうして時間を潰す。
まぁ、家族へのお土産を買うだけだが。
先月来た時には売り切れていた季節限定のあまおうロールケーキを見つけ、和栗のロールケーキと二本買った。
早々に用が済み、私はいつものカフェでコーヒーを飲むことにした。
平日の午前とあって店内はガラガラで、私は窓際のソファ席に座った。
窓の向こうには、足早に通り過ぎるサラリーマンや、友達と買い物を楽しむ主婦の姿。
私は毎月、この店でこうしてコーヒーを飲みながら、行き交う人たちを見ている。
やめればいいのに。
なぜやめないのかは、私にもわからない。
あ……。
先月は見なかった、目当ての女性がビルから出て来た。
地下直結のビルに職場がある彼女を、私は知っている。
今日も、相変わらず美人だ。
真っ直ぐに伸びた腰までのブラウンの髪に、抜かりないメイク、ネイルもばっちりで、ベージュのロングコートの合わせ目からは、見るからにバリキャリですって紺か黒のスーツが覗いている。そして、七センチくらいはあるヒールに、高そうなバッグ。
ある意味、十五年前より若いんじゃない……?
行儀悪く頬杖を突き、じっと見つめる。
待ち合わせをしているようで、その場を動かない。
三分で、お待ちかねの人物が登場した。
今朝、見送った時と同じスーツにコート、鞄を持った男。
二人は簡単に挨拶を交わし、駅に向かって歩き出す。
私はじっと見ていた。
二人が鞄一つ分の距離を保って並び、私のすぐ目の前を通り過ぎていくのを、じっと。
じっと。
カフェの窓はマジックミラーになっていて、中から外は見えても、外から中は見えない。
だから、どんなにじっと見ていても、二人に私は見えない。
相変わらず、お似合い……。
私はようやく視線を移し、コーヒーを飲み干して店を出た。
スマホを見るが、まだ義母からの連絡はない。もうすぐ昼だ。
「お母さん?」
背後からの声にハッとして振り返ると、和輝がいた。
「なんで――」
「――じゃあ、私は失礼します」
少し離れた場所にいた彼女は、和輝に会釈した。私にも。
だから、私も会釈した。
モコモコのダウンコートを着て、化粧もそこそこの顔で、去年の春のセールで買った流行おくれのバッグと、スイーツの袋を持って、会釈した。
惨めだ。
「じゃあ、また。お疲れ様です」と、和輝が言った。
彼女を見て、言った。
それから、私を見た。
さぞ、残念だろう。
私はまた、惨めになった。
「一緒に仕事してる人なんだけど、自社でトラブルがあったらしくて取引先への訪問をやめたんだ」
「そう」
「お母さんは?」
ねえ? あの女性のことはなんて呼んでいるの?
26
あなたにおすすめの小説
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
夫婦の恋は結婚のあとに 〜二度目の初夜とクリスマスの贈り物〜
出 万璃玲
恋愛
「エーミル、今年はサンタさんに何をお願いするの?」
「あのね、僕、弟か妹が欲しい!」
四歳の息子の純真無垢な願いを聞いて、アマーリアは固まった。愛のない結婚をした夫と関係を持ったのは、初夜の一度きり。弟か妹が生まれる可能性は皆無。だが、彼女は息子を何よりも愛していた。
「愛するエーミルの願いを無下にするなんてできない」。そう決意したアマーリアは、サンタ……もとい、夫ヴィンフリートに直談判する。
仕事人間でほとんど家にいない無愛想な夫ヴィンフリート、はじめから結婚に期待のなかった妻アマーリア。
不器用な夫婦それぞれの想いの行方は、果たして……?
――政略結婚からすれ違い続けた夫婦の、静かな「恋のやり直し」。
しっとりとした大人の恋愛と、あたたかな家族愛の物語です。
(おまけSS含め、約10000字の短編です。他サイト掲載あり。表紙はcanvaを使用。)
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる