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2.知ってるよ?
3
「お母さん?」
女性が入って行ったビルをいつまでも見ていた私は、夫に向き直った。
「お義母さんからの連絡待ちで、コーヒー飲んでたの」
「ああ、そっか。え? この店で?」と、私が出て来たばかりのカフェを見る。
「うん、そう」
「そう……なんだ」と、少しだけバツが悪そう。
そう、なのよ。
私は持っているビニール袋を持ち上げた。
「先月は買えなかった季節限定のロールケーキが買えたの」
「和葉が言ってたお土産?」
「そう。街に来ること、あんまりないから」
「そっか」
「うん」
そう、なのよ。
私はふっと、女性が入って行ったビルに目を向けた。
「綺麗な女性だね」
「え……? ああ」
「年上とは思えないくらい」と、私は目の前の夫には聞こえないであろう小さな声で言った。
それでも、唇の動きで私が何か言ったのはわかったようだ。
「え?」と、夫が聞く。
「働く女性は、若いよね」
今度は夫に向かってハッキリ言った。
「お母さんだって働いてるだろ?」
「文房具店のパートなんて……」
惨めだ。
何がって、自分で自分を惨めにしてることが。
文房具店の何が恥ずかしい。パートの何が恥ずかしい。
恥ずかしいよ……。
だって、私は夫と元カノをお似合いだと思っているんだから。
「昼飯でも食う?」
「え?」
「向こうで飯食ってからの予定だったから、弁当いらないって言ったんだけど、なくなったし。ちょうど昼だろ」と、夫が腕時計を見る。
私と出会う前から使っている、時計。
お揃いの、時計。
私じゃない女とお揃いの、時計。
「お義母さんの病院が終わったら、一緒に食べるから」
見たくない時計を見ながら言った。
「母さんには俺から連絡しておくよ」
優しい、夫。
私には勿体ないくらいの、夫。
「早く終わったら母さんも合流すればいいしさ」
「うん」
「お母さんは何食べたい?」
私の名前を呼んでくれない、夫。
後でお義母さんが合流しやすいように、すぐ近くの和食のお店に入った。
釜めしやとんかつ、天ぷらなんかが見本で並んでいる。
「どうしようかな……」
夫は優柔不断だ。
いつも、店員さんが来て、急かされてようやく決める。
「私はレディース御膳にしようかな」
「へぇ、美味そうだな」
レディース御膳は、手毬寿司に季節の天ぷら、ミニうどん、茶わん蒸し、お任せデザート、好きなドリンクのセット。
「ランチセットのAが似てるんじゃない?」
こちらは手毬寿司が普通の握り寿司で、天ぷらに大エビが入っている。
「天丼も捨てがたいなぁ……」
そう言って、物足りなくなるくせに。
「Cセットは? お寿司じゃなくてミニ天丼だよ?」
「んーーー……」
釜めしのBセットは気分でないらしい。
夫は、時間があればあっただけ悩み続ける。
私は壁際の呼出しボタンを押した。
すぐに店員さんがやってきた。
「お決まりでしょうか」
「レディース御膳を黒ウーロン茶でひとつと――」と言って、和輝を見る。
「――天丼にミニうどんとわらび餅をつけてください」
「かしこまりました」
店員さんは注文を復唱して、立ち去る。
女性が入って行ったビルをいつまでも見ていた私は、夫に向き直った。
「お義母さんからの連絡待ちで、コーヒー飲んでたの」
「ああ、そっか。え? この店で?」と、私が出て来たばかりのカフェを見る。
「うん、そう」
「そう……なんだ」と、少しだけバツが悪そう。
そう、なのよ。
私は持っているビニール袋を持ち上げた。
「先月は買えなかった季節限定のロールケーキが買えたの」
「和葉が言ってたお土産?」
「そう。街に来ること、あんまりないから」
「そっか」
「うん」
そう、なのよ。
私はふっと、女性が入って行ったビルに目を向けた。
「綺麗な女性だね」
「え……? ああ」
「年上とは思えないくらい」と、私は目の前の夫には聞こえないであろう小さな声で言った。
それでも、唇の動きで私が何か言ったのはわかったようだ。
「え?」と、夫が聞く。
「働く女性は、若いよね」
今度は夫に向かってハッキリ言った。
「お母さんだって働いてるだろ?」
「文房具店のパートなんて……」
惨めだ。
何がって、自分で自分を惨めにしてることが。
文房具店の何が恥ずかしい。パートの何が恥ずかしい。
恥ずかしいよ……。
だって、私は夫と元カノをお似合いだと思っているんだから。
「昼飯でも食う?」
「え?」
「向こうで飯食ってからの予定だったから、弁当いらないって言ったんだけど、なくなったし。ちょうど昼だろ」と、夫が腕時計を見る。
私と出会う前から使っている、時計。
お揃いの、時計。
私じゃない女とお揃いの、時計。
「お義母さんの病院が終わったら、一緒に食べるから」
見たくない時計を見ながら言った。
「母さんには俺から連絡しておくよ」
優しい、夫。
私には勿体ないくらいの、夫。
「早く終わったら母さんも合流すればいいしさ」
「うん」
「お母さんは何食べたい?」
私の名前を呼んでくれない、夫。
後でお義母さんが合流しやすいように、すぐ近くの和食のお店に入った。
釜めしやとんかつ、天ぷらなんかが見本で並んでいる。
「どうしようかな……」
夫は優柔不断だ。
いつも、店員さんが来て、急かされてようやく決める。
「私はレディース御膳にしようかな」
「へぇ、美味そうだな」
レディース御膳は、手毬寿司に季節の天ぷら、ミニうどん、茶わん蒸し、お任せデザート、好きなドリンクのセット。
「ランチセットのAが似てるんじゃない?」
こちらは手毬寿司が普通の握り寿司で、天ぷらに大エビが入っている。
「天丼も捨てがたいなぁ……」
そう言って、物足りなくなるくせに。
「Cセットは? お寿司じゃなくてミニ天丼だよ?」
「んーーー……」
釜めしのBセットは気分でないらしい。
夫は、時間があればあっただけ悩み続ける。
私は壁際の呼出しボタンを押した。
すぐに店員さんがやってきた。
「お決まりでしょうか」
「レディース御膳を黒ウーロン茶でひとつと――」と言って、和輝を見る。
「――天丼にミニうどんとわらび餅をつけてください」
「かしこまりました」
店員さんは注文を復唱して、立ち去る。
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