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2.知ってるよ?
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「お母さんは時々、お父さんのこと名前で呼ぶよね?」
「そうね」
二日前同様に、食事の後で和葉が食卓に質問用紙を広げた。
「でも、お父さんはお母さんのこと、名前で呼ばないよね」
「……そうね」
気づかなくていいことに気づくのは、女の子だからか。由輝が両親のそういったことに無関心なだけか。
「私は、結婚して子供ができても名前で呼んで欲しいなぁ」
マセたことを……。
「で? 質問は?」
「結婚する前は、お父さんはお母さんのことなんて呼んでたの?」
「普通に名前で」
「柚葉、って?」
「そう」
「えぇーっ! 想像できなーい」
両肘をテーブルに立て、掌に顎をのせた和葉が唇を尖らす。
思えば、和葉が生まれて間もなくから、和輝は私を名前で呼ばなくなった。
「質問はっ!」
「お父さんとお母さんが知り合ったきっかけは?」
「第一印象から更に前に戻ったのね」
「愛華のパクリ」
「愛華ちゃんのお父さんとお母さんと比較されたくないなぁ」
「他にも似たようなテーマの子いるから大丈夫」
どこが大丈夫なんだろう。
「はい! きっかけは!?」
「友達の紹介」
「ありがち~」
悪かったわね。
「幸せの押し売りってやつでしょ?」
「どこで覚えるの、そんなこと」
「ね! その友達はどうしたの?」
「ん?」
「お父さんとお母さんを会わせた友達」
「別れた」
「えっ! きまずっ!」
ええ、気まずかったわよ。
私たちをくっつけようとあれこれ世話を焼いた挙句、当の二人は浮気だなんだで大揉めに揉めて別れた。
結婚式に二人を呼ぶか滅茶苦茶悩んで、結局二人とも呼ばなかった。
二人が別れた時、私たちにちょっとした悪意が向けられ、友達付き合いはなくなっていたし。
和葉が質問の答えを書き込み、顔を上げる。
「ね! 初めてのデートの場所は?」
「食事しただけ」
「つまんなっ!」
だから、言い方……。
「社会人同士のお付き合いなんて、最初はそんなものです。仕事帰りにちょっとご飯食べるとか」
「何食べたの?」
「ファミレス」
「うわっ! 引くわぁ」
そのまま和輝にも言ってやって。
初めて食事した時はまだ、紹介された手前、ちょっと会っとくかって感じだった。
「あ! ねぇ、初めてもらったプレゼントは?」
「シュシュ」
「やすっ!」
「あんたねぇ……」
大人の恋に夢を見ている娘の将来が不安になる。
「お父さんて、お母さんの何番目の彼氏?」
「はい!?」
「愛華、お母さんの元カレに会ったことあるんだって。今はオトモダチだからって、よく会ってるらしいの。すっごいすっごいイケメンだって!」
え、それ、いいの……?
「お母さんの元カレは? お父さんより格好良かった?」
「いないわよ、元カレなんて」
「えっ?」
「お父さんが初めての彼氏だもん」
「えええぇーーーっ!」と、和葉が家中に響く声で驚いた。
そんなに驚くこと!?
「初カレと結婚とか、あるんだぁ」
すいませんね、モテなくて。
小学生の娘の散々な言いように、大人気なくいじけたくなる。
正直に言う私もどうかだけど……。
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