17 / 89
2.知ってるよ?
8
「さすがにお父さんはいるよねぇ、元カノ」
「いるよ」
「知ってるの?」
「知ってる」
「修羅場!?」
「なんで」
「略奪!」
「違うから!」
タブレットを使用禁止にするべきかと、真剣に考える。
「どんな人?」
「え?」
「お父さんの元カノ」
「……」
子供に教えることじゃない。
いつもなら、適当に流す。
だが、和輝と並ぶあの女性を見てしまった。
あの頃より磨きがかかった大人の女性になった彼女は、夫ととてもお似合いだった。
「お父さんと同じ年で、バリバリのキャリアウーマンで、美人で痩せててハイヒールが似合って、和輝と並ぶとお似合いで――」
「――ただいまぁ」
私、子供相手に何を言った!?
弾かれるように立ち上がる。
「はい! お父さんと交代」
そそくさと和輝の食事を温めて食卓に並べた。
そして、前回同様、部屋を出て、聞き耳を立てる。
「お母さんと初めてデートした場所は?」
「…………」
「憶えてないの!? サイテー」
和葉、もっと言っちゃえ!
「ご飯食べに行った……と思う」
あら、知ってた?
「初めてもらったプレゼントは?」
「………………」
「マジ、サイテー」
ははは……。
「あ――」
和輝が何か言いかけたが、和葉には聞こえなかったようだ。あるいは、無視した。
「――お母さんて、お父さんの何番目の彼女?」
「はぁ!?」
ふふっ。焦ってる。
「怒らないから正直に言ってごらん」
いや、それは妻の台詞じゃぁ……。
「数えられないほどいるのっ!?」
「いない! けど、子供に言うようなことじゃ――」
「――お母さんは教えてくれたのに」
「はぁ?」
「お父さんの元カノ情報」
「え――?」
二階から由輝が下りてくる足音に、私はそっとお風呂に向かった。
和輝の様子からして、私が元カノのことを知っているなんて思いもしなかったのだろう。
でもね、知ってるよ?
知ってるんだよ……?
また、惨めになった。
夫が何か言いたげに私を見ても、知らん振りをした。
いつもなら、私から声をかけるのに。
だって、聞けるわけない。
『私があなたの元カノのことを知っていて、驚いた?』
聞けるはずないじゃない……。
それでも、私は知っている。
知っているのだ。
「いるよ」
「知ってるの?」
「知ってる」
「修羅場!?」
「なんで」
「略奪!」
「違うから!」
タブレットを使用禁止にするべきかと、真剣に考える。
「どんな人?」
「え?」
「お父さんの元カノ」
「……」
子供に教えることじゃない。
いつもなら、適当に流す。
だが、和輝と並ぶあの女性を見てしまった。
あの頃より磨きがかかった大人の女性になった彼女は、夫ととてもお似合いだった。
「お父さんと同じ年で、バリバリのキャリアウーマンで、美人で痩せててハイヒールが似合って、和輝と並ぶとお似合いで――」
「――ただいまぁ」
私、子供相手に何を言った!?
弾かれるように立ち上がる。
「はい! お父さんと交代」
そそくさと和輝の食事を温めて食卓に並べた。
そして、前回同様、部屋を出て、聞き耳を立てる。
「お母さんと初めてデートした場所は?」
「…………」
「憶えてないの!? サイテー」
和葉、もっと言っちゃえ!
「ご飯食べに行った……と思う」
あら、知ってた?
「初めてもらったプレゼントは?」
「………………」
「マジ、サイテー」
ははは……。
「あ――」
和輝が何か言いかけたが、和葉には聞こえなかったようだ。あるいは、無視した。
「――お母さんて、お父さんの何番目の彼女?」
「はぁ!?」
ふふっ。焦ってる。
「怒らないから正直に言ってごらん」
いや、それは妻の台詞じゃぁ……。
「数えられないほどいるのっ!?」
「いない! けど、子供に言うようなことじゃ――」
「――お母さんは教えてくれたのに」
「はぁ?」
「お父さんの元カノ情報」
「え――?」
二階から由輝が下りてくる足音に、私はそっとお風呂に向かった。
和輝の様子からして、私が元カノのことを知っているなんて思いもしなかったのだろう。
でもね、知ってるよ?
知ってるんだよ……?
また、惨めになった。
夫が何か言いたげに私を見ても、知らん振りをした。
いつもなら、私から声をかけるのに。
だって、聞けるわけない。
『私があなたの元カノのことを知っていて、驚いた?』
聞けるはずないじゃない……。
それでも、私は知っている。
知っているのだ。
あなたにおすすめの小説
秘められた薫り
La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位
55位を獲得した作品です。
「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。
欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。
クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。
指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。
完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。
夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。
一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。
守るべき家庭と、抗えない本能。
二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。
欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
【完結】曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
むらさきさゆり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。