45 / 89
6.ひとりになりたい
4
しおりを挟む嘘がつけない、隠し事が下手、慎重すぎるのに時々全然深く考えない、私のご飯の何を食べてもリアクションがない、ワイシャツと靴下を裏返して脱ぐ、時々すごく無神経、美人の元カノを今も名前で呼んでいる、美人の元カノとお揃いの時計を大事にしている、私の名前を呼んでくれない。
書くスペースがなくなって、ここまで。
『知り合ったきっかけは?』
友達の紹介。
『初めてのデートの場所は?』
ファミレス。
『初めてもらったプレゼントは?』
ベージュのリボン型シュシュ。
『生まれ変わっても結婚したい?』
もちろん!
『プロポーズの言葉は?』
なし。お父さんに結婚する気があるかと迫られて、負けたから。
A4用紙の自分の文字に、おかしくなる。
子供の宿題に本気で答えた結果。
きっと、和輝に書かせたらスカスカだね……。
きっとそれが、私と夫の気持ちの差なのだろう。
物音もしない部屋で一人、自分の想いを眺める。
私の十五年分の想い。
十五年、か……。
ずっと憧れていた人と付き合えて、舞い上がって、嫌われないように必死になって、結婚出来て、幸せで、いい奥さんになろうと必死になって、子供ができて、幸せで、いい母親になろうと必死になって、いいお嫁さんになろうと必死になって。
そうしていたら、あっと言う間に十五年。
私は名前も呼んでもらえなくなった。
さらに十五年後はどうなっているのだろう。
私は五十を過ぎて、相変わらずお店でパートして、和輝はちょっとだけ出世したり?
お義父さんとお義母さんは……相変わらずだろうなぁ。
由輝は結婚してる?
もしかしたら、和葉は子供を産んでいるかもしれない。
私はお祖母ちゃんになって、和輝にまでそう呼ばれているのかもね。
私は相変わらず、それを寂しいといじけて……。
その頃の私はきっと、もう、諦めている。
名前を呼ばれないことも、触れてもらえないことも。
だったら、今のうちに諦めろってことかな……。
ある女優さんが、心も身体も四十を過ぎてからが充実している、と言っていた。
本当だろうか。
最近は、子育てがひと段落したから自由に生きたいと離婚する夫婦も多いと聞く。四十代や五十代同士の再婚も。
離婚なんて考えていない。
が、考えなくもない。
もう一度、『女』になれる?
例えば千恵は、きっと気の持ちようで恋愛も再婚も可能性があると思う。
美人だし、ハツラツとしていて、結婚しなくても恋愛は楽しめそうだ。
例えば愛華ちゃんのお母さんもそうだ。
モデルに復帰できそうなプロポーションと美意識で、昔と変わらずモテるだろう。
私は……?
見た目も老け込み、洒落っ気もなく、身体もブヨブヨ。おばさん臭さが染みついて、最近の若者の言語は理解不能。
この前、再々婚した歌手は、私よりずっと年上だったな……。
そもそも、比較対象が芸能人というのが間違いであり、視野の狭さを表している。
そう思うと、笑えた。
笑った。
そして、ため息が出た。
ひとりに……なりたい。
壊れてしまいそうな予感がした。
今のまま、自分の気持ちを誤魔化し続けていたら、立っていられなくなるような気がした。
ひとりになりたい。
ならなきゃいけない――。
夫の言う『我が家のお母さん』でい続けるために、今はひとりにならなければと、強く思った。
34
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
夫婦の恋は結婚のあとに 〜二度目の初夜とクリスマスの贈り物〜
出 万璃玲
恋愛
「エーミル、今年はサンタさんに何をお願いするの?」
「あのね、僕、弟か妹が欲しい!」
四歳の息子の純真無垢な願いを聞いて、アマーリアは固まった。愛のない結婚をした夫と関係を持ったのは、初夜の一度きり。弟か妹が生まれる可能性は皆無。だが、彼女は息子を何よりも愛していた。
「愛するエーミルの願いを無下にするなんてできない」。そう決意したアマーリアは、サンタ……もとい、夫ヴィンフリートに直談判する。
仕事人間でほとんど家にいない無愛想な夫ヴィンフリート、はじめから結婚に期待のなかった妻アマーリア。
不器用な夫婦それぞれの想いの行方は、果たして……?
――政略結婚からすれ違い続けた夫婦の、静かな「恋のやり直し」。
しっとりとした大人の恋愛と、あたたかな家族愛の物語です。
(おまけSS含め、約10000字の短編です。他サイト掲載あり。表紙はcanvaを使用。)
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる