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6.ひとりになりたい
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昔から何をやっても中途半端で、自分に自信がなくて、そんな自分が嫌いだった。
大人になって、そういう自分と折り合いをつけて生きてきたけれど、結局本質なんて変わっていなくて、それを隠すのが上手くなっただけ。
和輝と付き合えるようになっても、結婚が決まっても、子供を産んでも、ずっと不安で自信がなかった。
自信のなさを隠すように、家事や子育てを頑張った。
いい奥さん、いいお嫁さん、いい母親になりたくて頑張った。
だけど……。
どんなに頑張っても、私は私の望む女になれない。
広田さんにはなれない――。
湯船がすっかり冷めるまでお風呂で粘って、それから子供たちの部屋を覗いて、和輝はまだ起きているのだろうかと気まずさを感じながら寝室のドアノブに手をかけた時、夫の声が聞こえた。電話中らしい。
こんな遅い時間にどうしたのだろうと思いながら、そっとゆっくりドアノブを下ろす。
「――だから、心配ないから――」
珍しく、夫が苛立っている。
何を言われたのか、はぁっと投げやりにため息をつく。
「――誤解されるようなことはなにもないし、受注先が決まればもう――だから、聞けって。仕事の件は、紹介はするけどその先までは――」
和輝はドアに背を向けてベッドに座っていた。私のベッドの方を向いて。
私は静かに寝室に入り、後ろ手にドアを閉めようとした。
「――落ち着け、響子! 大丈夫だから」
響子――――。
「昔のよしみで世話をしたが、これ以上は――、だから! なんでそうなるんだよ。うちのはお前とのことなんて気にしてないし――」
うちの……、か。
夫の声で元カノの名前を聞いた瞬間、例えば私の頭のてっぺんからつま先まで糸が張ってあったとしたら、それが、ピンと張ったその糸が、切れ味抜群のハサミでプツンと切られた気がした。
その途端、さっきまで考えていた色々なことが、どうでも良くなってしまった。
閉まりきっていないドアを開け、寝室を出る。
夫が私に気づいたかは、わからない。
ただ、元カノとの会話は続いていて、私はそれを聞きたくなかった。
夫が、私の名前を呼ばない夫が、他の女の名前を呼ぶのを、聞きたくなかった。
カタンと物音がして、娘の部屋を覗いた。
ベッドの下に、タブレットが落ちている。
見ながら寝ちゃダメだって言ったのに……。
いつもは寝る前に預かるのだが、今日は忘れていた。
タブレットを拾い、机の上に置こうとして、一枚の用紙が目に入った。
和葉のまあるい字で『お父さんとお母さんが、私のお父さんとお母さんになるまで』と書かれている。後は憶えのある質問。
予備の質問表だろうか。
私はそれを手に取り、部屋を出た。
階段を下り、食卓でその表を眺める。
そして、ペンを手に持った。
娘の質問の下に、答えを書き込んでいく。
『初めて会った時の感想は?』
運命かも!
『どっちが最初に好きって言ったの?』
言ってない。友達に押されて付き合いだしたから。
『どこが好きで結婚したの?』
顔、真面目、優しい、嘘をつかない、慎重なところ、時々ビックリするようなドジをする、私の話をきちんと聞いてくれる、細かいことを気にしない、穏やか、私のご飯を残さず食べてくれて文句も言わない、手が大きい、手が温かい、姿勢がいい、私の名前を呼ぶ声。
書くスペースがなくなって、ここまで。
『嫌いなところは?』
優柔不断、都合が悪いと笑って誤魔化す。
これは和葉にも答えた。
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