15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

文字の大きさ
64 / 89
8.今も愛していると言えますか?

しおりを挟む
「――違う! あれは……違う!」

 思い出した。

 これといって欲しいものが思いつかなかった私は、和輝と街を歩いて、百貨店のアクセサリー売り場で立ち止まった。

 彼氏から指輪やネックレスを買って貰う友達が羨ましくて、思わず。

 けれど、私は普段からアクセサリーをつける習慣がなかったし、自分からねだっていいものかと悩んでいた。値も張るし。

 ピアスならそれほど高価でないものもあるが、私は穴を開けていなかった。だから、ピアスを眺めながら穴を開けようかと考えていた。

 そこで、和輝が言ったのだ。俺もお揃いの買おうかな、と。

「困ったのは、わざわざ和輝にピアスの穴を開けさせるのが申し訳なくて……」

「マジか……」

 困った顔の意味を知った和輝が、私に触れていない方の手で顔を覆った。

「俺、柚葉はキーホルダー見てると思ってた」

「キーホルダー?」

「よく覚えてないけど、確か。キーホルダーならお揃いでも目立たないし、人にも見せないからちょうどいいと思ったのに、困った顔されて――」

「――あったっけ? キーホルダー」

「あった」

 十七年も前の記憶は互いに曖昧で、それ以上は話が進まない。

 とにかく、私は和輝とのお揃いを嫌がったわけではないとわかってもらった。

 因みに、この時の誕生日プレゼントには、当時流行っていたブランドのバッグ。

 人気で入手困難のそのバッグは、直営店でしか買えず、曜日も時間も関係なく突然店頭に並ぶもので、本当に偶然、その場に居合わせたのだ。

 黄色い声でバッグ目がけて突進してくる女性たちに驚いた和輝が反射的にそのバッグを手に取ってしまい、引っ込みがつかなくなった。

「ピアス、開けるか?」と聞きながら、和輝が私の耳朶に触れた。

「今から? もういいわ」と言って、私は笑った。

 和輝も、笑った。

「なぁ」

「ん?」

「柚葉こそ、後悔してないか?」

「何を?」

「俺と結婚したこと」

「……してない」

 するはずがない。

 ずっと憧れていた男性ひとと結婚できたのだ。

 私の人生の幸運の全てを使い果たしたんじゃないかってくらい、嬉しかった。幸せだった。

「良かった」と和輝が呟いた。

 私のうなじを撫でていた手に力がこもる。

 ゆっくりと引き寄せられ、抱きしめられた。

 本当に久しぶりの、夫の腕の中。

 こうして戻ってこられたことが嬉しくて、また涙が溢れた。

「愛してるよ」

 耳元で囁かれ、首筋に顔を埋められる。

 チュッと唇が押し付けられ、その部分が熱くなる。

 最後に言われたのはいつだったか、思い出せない。

 でも、いい。

 こうして、聞けたから。

 次に聞けるのが十五年後でも、いい。

 十五年後も一緒にいられるのなら、それでいい。

「私も……愛してる」

 嬉しくて、恥ずかしくて、声が震えた。



 ねぇ、和葉。

 プロポーズの言葉、まだ間に合う?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

君から逃げる事を赦して下さい

鳴宮鶉子
恋愛
君から逃げる事を赦して下さい。

裏切りの街 ~すれ違う心~

緑谷めい
恋愛
 エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

【完結】この胸に抱えたものは

Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。 時系列は前後します 元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。 申し訳ありません🙇‍♀️ どうぞよろしくお願い致します。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...