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番外編*十五年目の煩悩
1
しおりを挟む世の中の子供を持つ夫婦は、いつ、どんな風にセックスしているのだろう……?
まさか自分が、四十も過ぎてこんな悩みを持つとは思ってもいなかった。
*****
「課長って怒鳴ることあります?」
四月、歓迎会の席で部下の近澤に聞かれた。
「ないことも、ない」
「どんな時ですか?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「いや、なんか、想像できないっつーか……」
「そうか?」
「じゃあ、怒鳴られることってあります?」
「……思い出せるほど最近は、ないな」
「奥さんにも?」
「ない」
「マジかぁ……」
信じられないと言わんばかりに深いため息をつき、近澤がビールジョッキに口をつけ、高く持ち上げる。
俺は目の前にあったイカの一夜干しにマヨネーズをつけて口に運ぶ。
「じゃあじゃあ! 喧嘩はします?」
近澤は、なぜか楽しそうだ。
「お前の言う喧嘩の定義は?」
「はい?」
「いや、ちょっとした言い合いも喧嘩か?」
「あーーー……。ぶつぶつ言い合うのはノーカンで」
俺が入社四、五年目の頃は、上司にこんなにフランクに話したりできなかったものだが、最近の若者は勇気がある。
部下と昔の自分を比較してしまうとは、俺も年を取るはずだ。
「ないな」と、俺は言った。
「はい?」と、近澤が聞き返す。
周囲がうるさくて聞こえなかったのかと思い、もう一度言う。
「お前が言うような喧嘩を、妻とした覚えがない」
「マジでぇ!?」
「……マジで」
そんなに驚くことだろうか。
余程驚いたらしく、近澤が周囲の部下たちに広めていく。
そして、聞いた奴らはこぞって「嘘だぁ」と言う。
そんなに驚くことだろうか。
「え、それってヤバいんじゃなくて?」と、とある女性社員が言ったのが聞こえた。
敢えて、誰が言ったのかは確かめない。
俺はタコザンギを頬張る。
「喧嘩もしてもらえないって、見放されてるってことだよ」
「バカッ! 永吉課長のことだぞ」
「えっ? それを早く言ってよ!」
俺は聞こえない振りを決め込み、ビールを飲む。
そんなに驚くことだろうか。
「永吉の奥さんは、穏やかな人だしねぇ」と、落ち着いた低音に、一同が声の主に目を向けた。
部長だ。
「永吉もそうそう感情的になるタイプじゃないし、お前らが思う喧嘩にならなくても不思議はないぞ?」
部長は、結婚式に出席しているし、その後も柚葉と何度か顔を合わせている。
「冷静に話し合うのは喧嘩じゃないってことだ。な? 永吉」
「はい」
「お前らも少し見習え」
「はぁい……」
確かに、俺と柚葉はそう感情的に声を荒げたりしない。
我慢しているのだろうか……?
少なくとも、見放されてはいない。
それは、自信を持って言える。
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