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2章 帝国の呪い
2-59 拒む顔も嘘ではない
「なーんでキミがここに来るのかなあー」
仏頂面で迎えたのは。
「キミなんて他人行儀な。俺にはクロウ・リティという名がある」
「キミとはどこまで行っても他人だよ。その名を呼びたくないから、わざわざキミのボスとかでボカシて話しているんじゃないか」
彼の精神世界を抉じ開けて入り込んでみたものの、どこまでも暗い空間が広がっている。
歓迎されていない何もないように見える空間に、彼は人化して座り込んだ。
「、、、それなら、なぜわざわざ人化するんだ?」
セリムに似ている姿に。
「この顔なら僕の顔を割らないだろ」
うーん。
剣で顔を割ったのは悪手だったかな。
まあ、友好の証で顔を割るバカはいない。
たとえ人外で、元通りになるとはいえ。
人化した顔には傷跡が残っている。
「セリムと同じ顔にすれば良かったのに」
俺が言うと、彼は微かに溜息を吐いた後。
「そんなことしたら、キミは烈火のごとく怒るくせに。顔を割るくらいじゃ終わらないくせに」
「感情とはままならないものだ」
理性はそんなことしないと口では言うのだが、セリムじゃないものがセリムの顔を騙ることを感情が許せない。
「セリムの代替品などいらんくせに。なぜ僕の領域にわざわざ入り込む?」
「アジュール、」
俺が名を呼ぶと、あからさまに嫌そうな顔をする。
本当に正直者だ。
人外には珍しく。
だから、ファンを羨ましく思うのだが。
「ファンに名付けられたときは本当に嬉しそうにしていたと聞いたけどー?」
「お前と縁がつながる必要性を感じない」
「おお、キミがお前に進化した」
「関係性がどこまでも限りなく後退したんだ。自分にとって都合良く受け取るんじゃない」
どこまでも限りなく後退と言われて、悲しい。
俺が親しくなりたい人外には距離を取られる不思議。
俺が別に親しくなりたくないと思っている人外からは非常に好かれているのに。
隣に座るなと、目が語っている。
「ここは僕の領域だと言っただろ。お前のことも何もかもわかっているからとっとと帰れ」
「実力行使で追い出せばいいだろ」
今度は呆れた目で見られた。
説明がメンドクサイと目に書かれている。
アジュールに対しては面倒な人間になっているという自覚はある。
面倒だと思われても突き進むよ。
「そうすると、お前はファンを人質にとって俺の領域を荒らすんだろ。お前は毎度毎度同じことをしていく。二年でファンを見捨てていくくせに」
俺はアジュールのことを何一つ覚えていないのに、アジュールは毎度毎度同じこと、という発言をする。
この人外は未来を見ることができるのかと思ったのだが、そうではなさそうだ。
「二年で大教会の大修繕が終わるんだろ?」
「そうだ」
「それなら契約通り、薬部屋も終了だ。何が悪い」
「感情とはままならないとお前が言ったんだ。トータやボレールには会うくせに、」
この言い方では、本当に俺はファンを見捨てたんだろうな。
薬部屋での仕事が終わったら、それで終わり。関係も終了。
「俺はトータとボレールには会うんだ?」
「ボレールは順当に薬師になる。トータは別の道を歩む。それぞれ必要なときにお前と会う」
俺を見るアジュールの目は恨みがましい。
「その言い方じゃ、ファンには必要なときがなかったみたいじゃないか?」
「お前には必要がなかった」
ファンにはあっても、お前にはなかった、とその目が言う。
アジュールが今回のように都合良く介入しない未来では、自分に心酔までさせて、薬師試験に落ちたのに、その後のフォローも一切しないのか、俺は。
酷い奴だと思われても仕方ない。
「その通りだから、さっさと帰れって」
この空間は彼の領域。
だから、口にしないことも伝わる。
俺が他の誰よりセリムを最優先するのは決定事項だから仕方ないのだが。
「理想郷にもう少しいるー」
俺は駄々をこねてみた。
「、、、ここはお前の理想郷ではない。およそ二年で大修繕が終わったのは、終わらせたからだ。お前らの結婚の許可が下りたからな」
「え、そうなの」
下りたんだ、皇帝からの許可が。二年は長い気がするが、婚約の許可が一年で、結婚の許可に一年かかったという感じかな。
期限がわかっていれば我慢できる長さでもある。俺が本気でキレる前に何とかしたのかもしれない。
「お前らをこの地に縛るものはないが、お前はあの牢獄を利用し続ける。とはいっても一般人はお前と話すための伝手を持たない」
「えっと、つまり、それは、俺から連絡しようとしないと、彼らから連絡しようと思っても無理だということか?」
帝城に問い合わせたり、薬師見習たちならシエルドに問い合わせれば済むことだと思うが。
「シエルドは利用価値を持たない者には厳しい。帝城がお前に連絡することを許すわけがないだろ。ファンがどんなに願おうともお前につながることはなかった」
断定的に過去形でアジュールは話す。
薬師見習のまま試験に落ち続けたファンにシエルドは失望したのだろうか。
「だったら、アジュールが俺に連絡してくれれば良かったんじゃないか?」
俺が嫌がらせをしたのだから、きっとそれなりに縁がつながっていたはずだし。
「ファンが僕を頼るのは最期のときだ。お前に連絡をとったところでもう意味はない」
「、、、そうか」
すでにアジュールの花嫁になることを決心したのなら、俺はもう必要なかったということか。
「今回は早い段階で手が打てた。指輪も受け取ってもらえた。ならば、お前の魔の手に落ちる前に、口説き落とすまでだ」
「おーい、魔の手って何だよ」
「ポシュが傲慢なら、お前は強欲だ。愛し愛される相手を見つけたのに、これ以上何を望む」
「愛し愛される相手と幸せになることかな」
素直に答えたら、ものすごーーーーーく嫌そうな顔を向けられた。
その顔でそんな表情で見ないでくれるかな。別人だとわかっていても少し傷つくから。
俺、そういう性癖ないから。
まだ、俺の顔で見られた方がマシである。
「お前は黒髪の平民だと蔑まされてきたが、理解ある妻子もいたし、不幸ではなかったと自分でもわかっているくせに。だから、もう帰れ」
ペッ、とアジュールの領域から追い出された。
大教会の部屋に戻ってしまった。
確かに、妻子がいる間は幸せだった。
妻子のために生きていた。
黒髪の平民であったとしても、あのときは不幸ではなかった。
そう、まだ妻子が生きている間はどんなことにも耐えられた。
「あ、そうそう」
人化したままのアジュールが壁紙をペリッと捲ったような感じで、顔を出す。
「薬師試験に落ち続けたら、自分が教えなければ、後悔の念に駆られるだろうかとかファンに言ったが、お前は後悔の念など一つも抱くことなく、何一つファンを顧みることをしなかった。ファンに呆れたシエルドよりもひどい。呆れる方がまだマシだと思うほどにはなあっ」
完全に怒っている。俺に対して、アジュールは。
未来のことに対して怒られても困るのだが。
彼にとっては未来のことじゃなく、何度も通り過ぎた過去のことなんだろうけど。
俺が俺である限り、アジュールは許せないのだろう。
それに、今の俺にとってセリム以外は。
「うるさいっ。お前はもう少し周りの人間にも気を遣えっっっ」
考えを読んだように大声で怒鳴られて、壁が綺麗に元通りになった。
もしかして、ずっと怒りをため込まれていた?
いや、久々に俺に出会い、徐々に思い出し怒りが込み上げてきたという方が正しいような。
愛する人を杜撰に扱われ続けたら、そりゃ怒りもするよな。本人には自覚がなかったとしても。
まあ、それでも、俺がファンを顧みる世界は存在しないだろう。
それは彼が考えた上で選択した未来なのだから。
たとえそれが不幸につながっている道であったとしても、その選択の責任は己にある。
見習期間中、彼は俺にその想いを明かさない道を選んだのだから。
「あー、聞き忘れたな」
アジュールは俺に説明するのも嫌がるだろうけど。
なぜ、アジュールはファンをそこまで愛するのだろうか。
俺の名前を断固として呼ぼうとしないのに。
仏頂面で迎えたのは。
「キミなんて他人行儀な。俺にはクロウ・リティという名がある」
「キミとはどこまで行っても他人だよ。その名を呼びたくないから、わざわざキミのボスとかでボカシて話しているんじゃないか」
彼の精神世界を抉じ開けて入り込んでみたものの、どこまでも暗い空間が広がっている。
歓迎されていない何もないように見える空間に、彼は人化して座り込んだ。
「、、、それなら、なぜわざわざ人化するんだ?」
セリムに似ている姿に。
「この顔なら僕の顔を割らないだろ」
うーん。
剣で顔を割ったのは悪手だったかな。
まあ、友好の証で顔を割るバカはいない。
たとえ人外で、元通りになるとはいえ。
人化した顔には傷跡が残っている。
「セリムと同じ顔にすれば良かったのに」
俺が言うと、彼は微かに溜息を吐いた後。
「そんなことしたら、キミは烈火のごとく怒るくせに。顔を割るくらいじゃ終わらないくせに」
「感情とはままならないものだ」
理性はそんなことしないと口では言うのだが、セリムじゃないものがセリムの顔を騙ることを感情が許せない。
「セリムの代替品などいらんくせに。なぜ僕の領域にわざわざ入り込む?」
「アジュール、」
俺が名を呼ぶと、あからさまに嫌そうな顔をする。
本当に正直者だ。
人外には珍しく。
だから、ファンを羨ましく思うのだが。
「ファンに名付けられたときは本当に嬉しそうにしていたと聞いたけどー?」
「お前と縁がつながる必要性を感じない」
「おお、キミがお前に進化した」
「関係性がどこまでも限りなく後退したんだ。自分にとって都合良く受け取るんじゃない」
どこまでも限りなく後退と言われて、悲しい。
俺が親しくなりたい人外には距離を取られる不思議。
俺が別に親しくなりたくないと思っている人外からは非常に好かれているのに。
隣に座るなと、目が語っている。
「ここは僕の領域だと言っただろ。お前のことも何もかもわかっているからとっとと帰れ」
「実力行使で追い出せばいいだろ」
今度は呆れた目で見られた。
説明がメンドクサイと目に書かれている。
アジュールに対しては面倒な人間になっているという自覚はある。
面倒だと思われても突き進むよ。
「そうすると、お前はファンを人質にとって俺の領域を荒らすんだろ。お前は毎度毎度同じことをしていく。二年でファンを見捨てていくくせに」
俺はアジュールのことを何一つ覚えていないのに、アジュールは毎度毎度同じこと、という発言をする。
この人外は未来を見ることができるのかと思ったのだが、そうではなさそうだ。
「二年で大教会の大修繕が終わるんだろ?」
「そうだ」
「それなら契約通り、薬部屋も終了だ。何が悪い」
「感情とはままならないとお前が言ったんだ。トータやボレールには会うくせに、」
この言い方では、本当に俺はファンを見捨てたんだろうな。
薬部屋での仕事が終わったら、それで終わり。関係も終了。
「俺はトータとボレールには会うんだ?」
「ボレールは順当に薬師になる。トータは別の道を歩む。それぞれ必要なときにお前と会う」
俺を見るアジュールの目は恨みがましい。
「その言い方じゃ、ファンには必要なときがなかったみたいじゃないか?」
「お前には必要がなかった」
ファンにはあっても、お前にはなかった、とその目が言う。
アジュールが今回のように都合良く介入しない未来では、自分に心酔までさせて、薬師試験に落ちたのに、その後のフォローも一切しないのか、俺は。
酷い奴だと思われても仕方ない。
「その通りだから、さっさと帰れって」
この空間は彼の領域。
だから、口にしないことも伝わる。
俺が他の誰よりセリムを最優先するのは決定事項だから仕方ないのだが。
「理想郷にもう少しいるー」
俺は駄々をこねてみた。
「、、、ここはお前の理想郷ではない。およそ二年で大修繕が終わったのは、終わらせたからだ。お前らの結婚の許可が下りたからな」
「え、そうなの」
下りたんだ、皇帝からの許可が。二年は長い気がするが、婚約の許可が一年で、結婚の許可に一年かかったという感じかな。
期限がわかっていれば我慢できる長さでもある。俺が本気でキレる前に何とかしたのかもしれない。
「お前らをこの地に縛るものはないが、お前はあの牢獄を利用し続ける。とはいっても一般人はお前と話すための伝手を持たない」
「えっと、つまり、それは、俺から連絡しようとしないと、彼らから連絡しようと思っても無理だということか?」
帝城に問い合わせたり、薬師見習たちならシエルドに問い合わせれば済むことだと思うが。
「シエルドは利用価値を持たない者には厳しい。帝城がお前に連絡することを許すわけがないだろ。ファンがどんなに願おうともお前につながることはなかった」
断定的に過去形でアジュールは話す。
薬師見習のまま試験に落ち続けたファンにシエルドは失望したのだろうか。
「だったら、アジュールが俺に連絡してくれれば良かったんじゃないか?」
俺が嫌がらせをしたのだから、きっとそれなりに縁がつながっていたはずだし。
「ファンが僕を頼るのは最期のときだ。お前に連絡をとったところでもう意味はない」
「、、、そうか」
すでにアジュールの花嫁になることを決心したのなら、俺はもう必要なかったということか。
「今回は早い段階で手が打てた。指輪も受け取ってもらえた。ならば、お前の魔の手に落ちる前に、口説き落とすまでだ」
「おーい、魔の手って何だよ」
「ポシュが傲慢なら、お前は強欲だ。愛し愛される相手を見つけたのに、これ以上何を望む」
「愛し愛される相手と幸せになることかな」
素直に答えたら、ものすごーーーーーく嫌そうな顔を向けられた。
その顔でそんな表情で見ないでくれるかな。別人だとわかっていても少し傷つくから。
俺、そういう性癖ないから。
まだ、俺の顔で見られた方がマシである。
「お前は黒髪の平民だと蔑まされてきたが、理解ある妻子もいたし、不幸ではなかったと自分でもわかっているくせに。だから、もう帰れ」
ペッ、とアジュールの領域から追い出された。
大教会の部屋に戻ってしまった。
確かに、妻子がいる間は幸せだった。
妻子のために生きていた。
黒髪の平民であったとしても、あのときは不幸ではなかった。
そう、まだ妻子が生きている間はどんなことにも耐えられた。
「あ、そうそう」
人化したままのアジュールが壁紙をペリッと捲ったような感じで、顔を出す。
「薬師試験に落ち続けたら、自分が教えなければ、後悔の念に駆られるだろうかとかファンに言ったが、お前は後悔の念など一つも抱くことなく、何一つファンを顧みることをしなかった。ファンに呆れたシエルドよりもひどい。呆れる方がまだマシだと思うほどにはなあっ」
完全に怒っている。俺に対して、アジュールは。
未来のことに対して怒られても困るのだが。
彼にとっては未来のことじゃなく、何度も通り過ぎた過去のことなんだろうけど。
俺が俺である限り、アジュールは許せないのだろう。
それに、今の俺にとってセリム以外は。
「うるさいっ。お前はもう少し周りの人間にも気を遣えっっっ」
考えを読んだように大声で怒鳴られて、壁が綺麗に元通りになった。
もしかして、ずっと怒りをため込まれていた?
いや、久々に俺に出会い、徐々に思い出し怒りが込み上げてきたという方が正しいような。
愛する人を杜撰に扱われ続けたら、そりゃ怒りもするよな。本人には自覚がなかったとしても。
まあ、それでも、俺がファンを顧みる世界は存在しないだろう。
それは彼が考えた上で選択した未来なのだから。
たとえそれが不幸につながっている道であったとしても、その選択の責任は己にある。
見習期間中、彼は俺にその想いを明かさない道を選んだのだから。
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