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2章 帝国の呪い
2-90 暗黒ヒーロー
「ありがとう、クロウ」
「修復の件ですか?いえいえ、どういたしまして」
叔父上の執務室。
叔父上がコックコートのまま重厚な執務机に座っている違和感は拭えない。
着替えてほしいとは言えない空間がそこにはあった。
あの後、クロウ殿は何食わぬ顔でそのままさよーならーと我々と別れて牢獄の方へ向かおうとしていた。
そうは問屋が卸さないと、叔父上がクロウ殿の腕を引っ張って自分の執務室へ連れてきた。
今は叔父上の向かい合わせに立たされている。
私も叔父上についてきたが、一緒に来ようとしていた父上は隕石の事後処理に精鋭部隊の隊長に引っ張られていった。
隕石の衝撃が衝撃だ。
帝都の方でも騒がれているだろう。
国民に対して素早く声明を出す必要があるし、被害があれば対応も迫られる。
好奇心が勝った私は父上の手伝いではなく、叔父上についていくことに決めた。
私は叔父上の斜め後ろに立っている。
あくまでもクロウ殿は修復の件しか感謝を受け取っていない。
「クロウなら、隕石落としという魔法も一人で可能ではないのか」
「何をおっしゃいます。確かに使用は一人でも可能ですが、今回、私は発動してませんよ。帝国の優秀な研究員たちが断言していたじゃないですか、自然災害だと」
にっこりと笑った笑顔が胡散臭い。
というか、隕石落としの魔法を一人で発動できるのか。
数十人の有能な魔導士が揃わないと、発動できないほどの難易度が高い魔法だと聞く。
しかも、こんなピンポイントに照準を合わせることなんて可能なのだろうか。
「まあ、対価としてごっそりと魔力を贈るハメになりましたが。これもまた実行犯と疑われないようにしなければならないですからねえ」
ぶっちゃけてませんか?
実行犯ではないのだったら、黒幕なんじゃないですか?
魔力の残滓で犯人を追いかけるのも無理だという話だが。
おそらく追いかけようがない細工がされているということなのだろう。
すでに研究員たちが騙されていたようだし。
自然発生した災害だと思い込んでいたし。
「、、、クロウ、お前な」
「まあまあ、本来コレは帝国が対処しなければならなかった案件です。貸しですよ、コレも。皇帝陛下は何気に踏み倒して潰しますので、ナナキ皇弟殿下とベモガー皇太子殿下に」
黒い瞳が私たちを見据える。
貸しと簡単に口約束だけで済ませられる案件なのだろうか。
父のように踏み倒すとは考えないのだろうか。
「、、、ベモガー、我々が覚えていなければ、クロウの手によって帝国が焦土になるだけだ。それだけの話だ」
それだけの話ってーーーっ。
大事じゃねえか。
私たちに伝えておくのは、もし皇帝のように踏み倒したら覚えておけよ、ってことか。
「帝国にとってはすべてが丸く収まって良かったじゃないですか」
「歴代皇帝の御遺体を消滅させさえすれば、帝国の呪いはなくなるはずだったのではないのか」
「歴代皇帝の御遺体だけを消滅させようとすれば、呪いの鎖に強固に阻まれるのは自明の理じゃないですか。アジュールの策にのったからには何らかの打開策を見つけているのかと思いきや、殺されかけていたら目も当てられません」
「アジュールに話を聞いたこと、まだ根に持っているのか?」
「そりゃあ、一見の人外の意見を鵜呑みにして、俺のことを蔑ろにすれば、恨みに思わない方がおかしいんじゃないですか」
にこにこにこ、と笑顔のままなのだが。
叔父上が何かをやらかしたとしか受け取れん。
「客観的に見ても、鎖を破壊していたナナキ皇弟殿下とあそこにいた精鋭部隊は殺されていたでしょうね。皇帝陛下にとどめを刺されていなければ第四皇子殿下も一緒に」
「あの、クロウ殿。フィーアは、その第四皇子は、どこへ」
叔父上はあの場を元に戻すことを願った。
ならば。
もしかしたら。
トリステラを救えたのなら。
叔父上もクロウ殿もじっと私を見た。
言葉が語られず、私の真意を探るような目をしている。
クロウ殿の顔から笑顔が消えている。
叔父上が少し考えてから。
「クロウ、フィーアの遺体があの場から消えていたが、どうなった?」
「帝国の希望は発動されました。霊廟が破壊される前にフィーア第四皇子殿下が亡くなっているので、すでに鎖に取り込まれています」
帝国の希望?
鎖に取り込まれて?
「、、、兄上のときには私は生まれていなかったが、他の皇子たちが亡くなったときに火葬したという記録が帝国には存在しているが、皇子の遺体は葬儀中、棺に存在したのか?」
叔父上はなぜ他国の、しかも、その当時帝国にいなかったはずの人物にそれを問うのだろう。
僅かな沈黙を挟み。
「それを問われるのが俺というのはおかしいと思いますが、」
そうですね。
クロウ殿もそう思いますよね。
けれど、帝国では真実を私たちに教えてくれる者がいないこともすでに悟ってもいる。
「トリステラ第三皇子殿下の葬儀で、年配者がごくごく普通に対応していたところを見ると、それが答えでしょう」
クロウ殿は直接的な言及は避けたが。
皇子の葬儀では棺の中に遺体が横たわっていないのが普通だということ。当たり前だということ。
記録にはどこにも残されていない。
クロウ殿が私を見る。
「皇帝陛下と皇太子殿下はあの場に居合わせても殺されることはありませんでしたよ。皇帝陛下は今回の首謀者なので、ある一定程度の罰は与えられたでしょうが、太い鎖はそのままでしたからね」
「私がクロウからもらったあの大剣でも対応できなかったか?」
「呪いというのは、俺のような第三者にとっては極めて弱いものでも、呪いを受けている者たちにとっては脅威でしかありません」
「そうか。では、クロウがあの場に来てくれなければ、私はここにいなかったんだな?」
叔父上が怖いことを確認した。
そんなことを良く確認できるな、と思う。
「、、、まあ、それもないでしょう」
クロウ殿が微かに笑う。
やや呆れたように。
「私では対処できなかったのに?黒ワンコがいるからか?」
クロウ殿が叔父上に向いた。
そして、静かに答える。
「いいえ、サザーラン皇帝陛下は貴方が殺されることを是としなかったに違いありませんから」
「、、、そうか」
叔父上が微かに俯く。その表情は見えない。
そういえば。
帝城に被害が出ると動かなかった父上の背後には。
「皇太子殿下も譲位後に無能な皇帝と揶揄される可能性が回避され、良かったじゃないですか」
クロウ殿は余韻もなくあっさりと話題を変えてきた。
が。
「私が無能だと?」
ムカつく話か?
皇太子にも喧嘩を売るのか?
「帝国の呪いが解呪する前に、一人でも生贄がなれば、二人分の能力が備わっているということですからね。凡人という扱いはされません」
「それは、、、大魔導士殿は、私がフィーアの死を喜んでいると思っているのか?」
わざと。
呼び名を変えた。
目を細めたのは、叔父上の方だった。
クロウ殿には変わらない口調で対応される。
「狂気は人を魅了する」
「え?」
「第四皇子殿下の狂気はすでに帝城に浸食しています。膿を出すなら、傷が浅いうちに」
「クロウ、忠告してくれるのはありがたいけど、詳細な説明を求める」
叔父上がクロウ殿に言う。
「第四皇子の高い能力だけでなく、狂気もまた、すでに皇太子殿下に吸収されております。帝国のことは帝国の者でご対応を」
煙に巻くような返答である。
捕虜である彼に助けを求めるのは筋違いに他ならない。
それはわかっているのだが。
悔しい。
ただ悔しいことだけがわかる。
何に対してなのか。
自分の力だけだと無能だと言われたことか?
自分が誤解されたことか?
突き放されたことか?
「話は戻るが、歴代皇帝の遺体を霊廟ごと吹き飛ばさなければならない理由はあったのか?」
叔父上がクロウ殿に問う。
「力技で霊廟ごと吹き飛ばした方が簡単ですよね」
「普通は帝城の防御魔法で弾かれるのだが」
「、、、え、この薄っぺらい防御魔法で???」
クロウ殿は霊廟のあった方向を見ている。視界は壁に阻まれて、それ自体を見ることはできないが。
素だな、コレ。
不思議そうな反応だ。
「へいへい、あのリンク王国の魔法障壁を張っていた魔導士には薄っぺらに見えるんでしょうね」
「わざとじゃないんですか?弱いように見せかけて他国の侵攻を誘う罠とか?」
この人、本気で言っているよ。
あの魔法障壁はオルド帝国でもそう易々と破れるものではなかった。
それを一人の力で成し遂げていたというのだから、その実力を考えると、そう取れてしまうのか。
だからこそのリンク王国との密約だった。相手の秘密を知るための。
「、、、ナナキさん、聞きたいことは大体終わりましたか」
話の途中であっさりと切った。
「何かあったら、明日にでも聞きに行く」
叔父上もあっさりとしている。
コレがこの二人の関係なのか。
クロウ殿が立ち去る前に。
「それでは皇太子殿下、一時の感情で恩を仇で返されるようでしたら、それなりの覚悟をお持ちください」
私に冷たい言葉を残して、クロウ殿は叔父上の執務室を去っていった。
「修復の件ですか?いえいえ、どういたしまして」
叔父上の執務室。
叔父上がコックコートのまま重厚な執務机に座っている違和感は拭えない。
着替えてほしいとは言えない空間がそこにはあった。
あの後、クロウ殿は何食わぬ顔でそのままさよーならーと我々と別れて牢獄の方へ向かおうとしていた。
そうは問屋が卸さないと、叔父上がクロウ殿の腕を引っ張って自分の執務室へ連れてきた。
今は叔父上の向かい合わせに立たされている。
私も叔父上についてきたが、一緒に来ようとしていた父上は隕石の事後処理に精鋭部隊の隊長に引っ張られていった。
隕石の衝撃が衝撃だ。
帝都の方でも騒がれているだろう。
国民に対して素早く声明を出す必要があるし、被害があれば対応も迫られる。
好奇心が勝った私は父上の手伝いではなく、叔父上についていくことに決めた。
私は叔父上の斜め後ろに立っている。
あくまでもクロウ殿は修復の件しか感謝を受け取っていない。
「クロウなら、隕石落としという魔法も一人で可能ではないのか」
「何をおっしゃいます。確かに使用は一人でも可能ですが、今回、私は発動してませんよ。帝国の優秀な研究員たちが断言していたじゃないですか、自然災害だと」
にっこりと笑った笑顔が胡散臭い。
というか、隕石落としの魔法を一人で発動できるのか。
数十人の有能な魔導士が揃わないと、発動できないほどの難易度が高い魔法だと聞く。
しかも、こんなピンポイントに照準を合わせることなんて可能なのだろうか。
「まあ、対価としてごっそりと魔力を贈るハメになりましたが。これもまた実行犯と疑われないようにしなければならないですからねえ」
ぶっちゃけてませんか?
実行犯ではないのだったら、黒幕なんじゃないですか?
魔力の残滓で犯人を追いかけるのも無理だという話だが。
おそらく追いかけようがない細工がされているということなのだろう。
すでに研究員たちが騙されていたようだし。
自然発生した災害だと思い込んでいたし。
「、、、クロウ、お前な」
「まあまあ、本来コレは帝国が対処しなければならなかった案件です。貸しですよ、コレも。皇帝陛下は何気に踏み倒して潰しますので、ナナキ皇弟殿下とベモガー皇太子殿下に」
黒い瞳が私たちを見据える。
貸しと簡単に口約束だけで済ませられる案件なのだろうか。
父のように踏み倒すとは考えないのだろうか。
「、、、ベモガー、我々が覚えていなければ、クロウの手によって帝国が焦土になるだけだ。それだけの話だ」
それだけの話ってーーーっ。
大事じゃねえか。
私たちに伝えておくのは、もし皇帝のように踏み倒したら覚えておけよ、ってことか。
「帝国にとってはすべてが丸く収まって良かったじゃないですか」
「歴代皇帝の御遺体を消滅させさえすれば、帝国の呪いはなくなるはずだったのではないのか」
「歴代皇帝の御遺体だけを消滅させようとすれば、呪いの鎖に強固に阻まれるのは自明の理じゃないですか。アジュールの策にのったからには何らかの打開策を見つけているのかと思いきや、殺されかけていたら目も当てられません」
「アジュールに話を聞いたこと、まだ根に持っているのか?」
「そりゃあ、一見の人外の意見を鵜呑みにして、俺のことを蔑ろにすれば、恨みに思わない方がおかしいんじゃないですか」
にこにこにこ、と笑顔のままなのだが。
叔父上が何かをやらかしたとしか受け取れん。
「客観的に見ても、鎖を破壊していたナナキ皇弟殿下とあそこにいた精鋭部隊は殺されていたでしょうね。皇帝陛下にとどめを刺されていなければ第四皇子殿下も一緒に」
「あの、クロウ殿。フィーアは、その第四皇子は、どこへ」
叔父上はあの場を元に戻すことを願った。
ならば。
もしかしたら。
トリステラを救えたのなら。
叔父上もクロウ殿もじっと私を見た。
言葉が語られず、私の真意を探るような目をしている。
クロウ殿の顔から笑顔が消えている。
叔父上が少し考えてから。
「クロウ、フィーアの遺体があの場から消えていたが、どうなった?」
「帝国の希望は発動されました。霊廟が破壊される前にフィーア第四皇子殿下が亡くなっているので、すでに鎖に取り込まれています」
帝国の希望?
鎖に取り込まれて?
「、、、兄上のときには私は生まれていなかったが、他の皇子たちが亡くなったときに火葬したという記録が帝国には存在しているが、皇子の遺体は葬儀中、棺に存在したのか?」
叔父上はなぜ他国の、しかも、その当時帝国にいなかったはずの人物にそれを問うのだろう。
僅かな沈黙を挟み。
「それを問われるのが俺というのはおかしいと思いますが、」
そうですね。
クロウ殿もそう思いますよね。
けれど、帝国では真実を私たちに教えてくれる者がいないこともすでに悟ってもいる。
「トリステラ第三皇子殿下の葬儀で、年配者がごくごく普通に対応していたところを見ると、それが答えでしょう」
クロウ殿は直接的な言及は避けたが。
皇子の葬儀では棺の中に遺体が横たわっていないのが普通だということ。当たり前だということ。
記録にはどこにも残されていない。
クロウ殿が私を見る。
「皇帝陛下と皇太子殿下はあの場に居合わせても殺されることはありませんでしたよ。皇帝陛下は今回の首謀者なので、ある一定程度の罰は与えられたでしょうが、太い鎖はそのままでしたからね」
「私がクロウからもらったあの大剣でも対応できなかったか?」
「呪いというのは、俺のような第三者にとっては極めて弱いものでも、呪いを受けている者たちにとっては脅威でしかありません」
「そうか。では、クロウがあの場に来てくれなければ、私はここにいなかったんだな?」
叔父上が怖いことを確認した。
そんなことを良く確認できるな、と思う。
「、、、まあ、それもないでしょう」
クロウ殿が微かに笑う。
やや呆れたように。
「私では対処できなかったのに?黒ワンコがいるからか?」
クロウ殿が叔父上に向いた。
そして、静かに答える。
「いいえ、サザーラン皇帝陛下は貴方が殺されることを是としなかったに違いありませんから」
「、、、そうか」
叔父上が微かに俯く。その表情は見えない。
そういえば。
帝城に被害が出ると動かなかった父上の背後には。
「皇太子殿下も譲位後に無能な皇帝と揶揄される可能性が回避され、良かったじゃないですか」
クロウ殿は余韻もなくあっさりと話題を変えてきた。
が。
「私が無能だと?」
ムカつく話か?
皇太子にも喧嘩を売るのか?
「帝国の呪いが解呪する前に、一人でも生贄がなれば、二人分の能力が備わっているということですからね。凡人という扱いはされません」
「それは、、、大魔導士殿は、私がフィーアの死を喜んでいると思っているのか?」
わざと。
呼び名を変えた。
目を細めたのは、叔父上の方だった。
クロウ殿には変わらない口調で対応される。
「狂気は人を魅了する」
「え?」
「第四皇子殿下の狂気はすでに帝城に浸食しています。膿を出すなら、傷が浅いうちに」
「クロウ、忠告してくれるのはありがたいけど、詳細な説明を求める」
叔父上がクロウ殿に言う。
「第四皇子の高い能力だけでなく、狂気もまた、すでに皇太子殿下に吸収されております。帝国のことは帝国の者でご対応を」
煙に巻くような返答である。
捕虜である彼に助けを求めるのは筋違いに他ならない。
それはわかっているのだが。
悔しい。
ただ悔しいことだけがわかる。
何に対してなのか。
自分の力だけだと無能だと言われたことか?
自分が誤解されたことか?
突き放されたことか?
「話は戻るが、歴代皇帝の遺体を霊廟ごと吹き飛ばさなければならない理由はあったのか?」
叔父上がクロウ殿に問う。
「力技で霊廟ごと吹き飛ばした方が簡単ですよね」
「普通は帝城の防御魔法で弾かれるのだが」
「、、、え、この薄っぺらい防御魔法で???」
クロウ殿は霊廟のあった方向を見ている。視界は壁に阻まれて、それ自体を見ることはできないが。
素だな、コレ。
不思議そうな反応だ。
「へいへい、あのリンク王国の魔法障壁を張っていた魔導士には薄っぺらに見えるんでしょうね」
「わざとじゃないんですか?弱いように見せかけて他国の侵攻を誘う罠とか?」
この人、本気で言っているよ。
あの魔法障壁はオルド帝国でもそう易々と破れるものではなかった。
それを一人の力で成し遂げていたというのだから、その実力を考えると、そう取れてしまうのか。
だからこそのリンク王国との密約だった。相手の秘密を知るための。
「、、、ナナキさん、聞きたいことは大体終わりましたか」
話の途中であっさりと切った。
「何かあったら、明日にでも聞きに行く」
叔父上もあっさりとしている。
コレがこの二人の関係なのか。
クロウ殿が立ち去る前に。
「それでは皇太子殿下、一時の感情で恩を仇で返されるようでしたら、それなりの覚悟をお持ちください」
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