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2章 帝国の呪い
2-91 悪役ヒーロー
「ベモガー、なぜ名前で呼ばなかった?」
クロウ殿が立ち去った執務室。
二人きりになった。
叔父上は座ったまま、私に問う。
あれほど忠告を受けていたのに、大魔導士殿と呼んだことが気に入らなかったのだろう。
「私が、、、フィーアの死を喜んでいるかのように聞こえて、つい」
「皇太子たる者が、あのくらいの腹芸で感情的になってどうする。アレは完全にお前を試していただけだ」
「けれど、私は、どうしても、、、」
言い訳だ。
今なら、なぜあそこまで感情的になったのか不思議に思うくらいなのに。
はあーーーっ、と大きいため息を吐かれた。
そこまでため息を吐かれるくらい、クロウ殿は怒っているようには見えなかった。
「あのとき叔父上は反応したが、クロウ殿は全然気にもとめていなかったようだった」
「んなわけあるか。第四皇子の狂気について、詳細な情報を得られなかったのはお前のせいだ。無能じゃないなら、自分で対処してみろと言われたんだぞ」
「え?」
「え?って、、、お前、それすら気づいてなかったのか。そこまで血が頭に上っていたのか。重症だな」
叔父上は頬杖をついた。
もう一方の片手は頭を掻いている。ボサボサになった髪がより荒れたので、縛っていた紐を外してしまう。
「普段のお前は慎重そのものだからな。少しは感情的になって人間味あふれるようになって良しと見るべきだと思うが、フィーアを受け入れて時間が経ってないために、自分で自分を制御できてないようにも見える。主に感情的な部分だが、その辺は時間をかけて馴染ませていくしかないのだろう」
「、、、あまり、フィーアを受け入れるという感覚もないのですけど」
「兄上のように即断即決できるような悩まない性格なら特に問題はないのだろうが、クロウにどうしたらいいか聞いてみたらどうだー?」
後半はニヤニヤ顔での提案だ。
「え、それは、、、」
「関係修復しておかないと、お前の代になったら見捨てられるぞ、あの大魔導士殿に」
叔父上がわざと大魔導士殿に、と言った。
代替わり時に他国に逃げられたら、帝国が危険なことはわかる。
「叔父上がいたら、なんだかんだ言っても見捨てない気がする」
正直に言うと、頬杖をついたまま叔父上が俺を見上げる。
「、、、私は兄上を支えるだけで精一杯だ。お前はディクスとフェムとともに、帝国を盛り立てていけ。トリステラは戻って来れたら協力してくれるかもしれないが、野生化している可能性も捨てきれない。もう弟たちに遠慮することはないぞ」
「叔父上は父上が引退したら、一緒に退く気なのか?」
私と叔父上の年齢はさほど変わらない。
父上が私に譲位した後、私とともに帝国を支えていくものだと思っていた。
「両親のように兄上が郊外の離宮に赴いたら、私も一緒についていくよ。まあ、まだ当分先の話だ。あの兄上がそう易々と皇帝の座を明け渡す気がしない」
私は言葉を重ねて手を伸ばそうとしたが、なんとなく叔父上の説得は難しいと感じた。
私には甘えがあった。
叔父上は帝国の呪いから除外された人物で、次代の皇帝に選ばれなくともずっと私を支えてくれるだろうと。
弟たちはいなくなるが、叔父上はずっとそばにいてくれると。
叔父上の、皇帝になる気がない、というのは言い換えれば、ずっと父上を支える決意があったからだ。
私が皇帝を譲られた後も、私ではなく。
叔父上は過去も今も、そして未来もたった一人を支える。
「あの、叔父上、、、父上についていっても、相談には乗ってくれないかな」
「、、、別にお前を見捨てるとまでは言ってないぞ。お前からは私がそんなに薄情に見えるのか?」
どうやったらそこまで飛躍した解釈になるんだ、という表情の叔父上がそこにいた。
翌朝。
「おはよう、クロウ殿」
ものすごーく嫌そうな顔で見られた。
「おはようございます、ベモガー皇太子殿下」
次の瞬間には笑顔に戻って、深いお辞儀の挨拶をされたが。
正々堂々、上流階級にしても遜色ない礼である。
クロウ殿の視線が厨房を向いた。
「クロウ殿、」
視線を私に戻してもらうように、名前を呼ぶ。
食堂にはまだ二人しかいない。
席に座ってもらい、向かいの席に私も座る。
「、、、夏休みの宿題は、まだ一日も経っていないのにお手上げですか?ヒントだってこんなに早く求めに来るなんて思いませんでしたよ」
夏休みの宿題、言い得て妙だ。
「叔父上のアドバイスに従ってみた。それに帝国での学校における夏期休暇はすでに終了している」
「まだこんなに暑い最中ですけど終了しているのですか。俺は学校に通ったことがないので、夏休み自体いつからいつまでか正確には知らないんですけどね、リンク王国でも」
苛立っているようには見えないが、言葉には棘があるのを感じる。
こんなにも朝早くなのに、眠そうには見えない。眠気に思考を引っ張られるような人ではないということだ。
「お前のセリムはまだ起きていないんだな」
叔父上が料理人の姿でお茶を出してくれた。そのままクロウ殿の横に立っているが。
「、、、不穏な空気を感じたので、早めに起きて出てきました」
「それは良く感じたな。さすがだ、クロウ」
叔父上に褒められたのに、クロウ殿が眉間に皺を寄せて、ずずずっと茶を啜る。
「貴方がたと接していると、フロレンスの口の悪さも納得してしまいますね。口を開くと悪口が飛び出すから、公式な無口キャラも精鋭部隊に入るときに押しつけたんでしょ」
え?そうなのか?
私は叔父上を見る。
「私の側付として幼い頃から一緒にいたが、フロレンスは元々口が悪い」
「、、、帝国上層部はなぜ根本から原因を正そうとしないで、適当にやり過ごそうとするのですか?ポシュも魔法で言動や礼儀を誤魔化し続けていたし、皇帝陛下も唯我独尊の自業自得だし、不可解の極みなのですが」
不思議そうな表情を浮かべるクロウ殿に淡々と問題点を指摘される我々。
「ああ、いえ、あれらは帝国の呪い頼みの運営を国がしていただけですよね。今後は直さないとダメですよ、そういうところ。もう帝国の希望は消滅したのですから」
勝手に自ら解答を出して、ダメ出しまでされた。
「クロウは帝国の呪いをちょいちょい帝国の希望と言うが、」
「アレは帝国の希望として生まれた魔法ですからね。帝国を強国とするために、自らも、自分の子孫も犠牲にして作り上げた有効な魔法です。時代は移り変わり、呪いと言われるようになってしまいましたが」
「アレが希望だったと思うか?」
「本来なら呪いと受け取り方が変化した時点で解呪を試みていれば、あそこまで強固で頑固な鎖になっていなかったかもしれません。それを警告として受け取っていれば、帝国で審判の門が開こうとすることもなかったのかもしれませんね」
冷静になれば、クロウ殿が大魔導士だということが理解できてくる。
帝国の呪いについての皆の行動を、昨晩叔父上から適当に説明された。
帝国中のどこを探しても、帝国の呪いについて詳細に説明できる者はいない。
呪いの詳細も解呪方法も推測でさえ、憶測の域をまったく出なかったのだから。
「で、今後、私はどうすればいい?」
私の質問に、クロウ殿の動作がとまった。
超笑顔だけれども。
「、、、昨日、俺に対してあれだけキレたのに、こんなにもすぐに助けを求めるなんて、なんとまあ面の皮が分厚い」
「クロウ殿もフロレンスのこと言えないなあ」
お口が悪い。
「フロレンスと同じく、お前らが悪口の元凶だからだろうが」
お前らがいなければフロレンスの口は悪くなっていないかのようにと聞こえたのだが?はて?
「その通りだ、クソ皇太子殿下。今後、自分のことは正確に把握しろ。できるだけ客観視しろ。それが国の頂点である皇族として生まれた責務だ。俺が黒髪の平民だからこれくらいの悪口で済んでいるし、フロレンスだって微かばかりの愛着がお前らに残っているから、鎖から解き放たれたにもかかわらず命を懸ける覚悟であの場にいたんだ。お前はフィーア第四皇子殿下の狂気も利用しろ。制御しろ。彼みたいに利用されるな。アレは言い訳に使っていい感情ではない」
「私はかまってほしいから、フロレンスは口が悪いのかと思っていたけど」
「ふふふ、ナナキ皇弟殿下も面白いことを言えるんですねえ。分別のつかない幼いガキじゃあるまいし、皇族じゃなければ、放置一択に決まっているじゃないですか。見捨てられなくて良かったですよね?」
超黒い笑顔で笑っていた。
クロウ殿が立ち去った執務室。
二人きりになった。
叔父上は座ったまま、私に問う。
あれほど忠告を受けていたのに、大魔導士殿と呼んだことが気に入らなかったのだろう。
「私が、、、フィーアの死を喜んでいるかのように聞こえて、つい」
「皇太子たる者が、あのくらいの腹芸で感情的になってどうする。アレは完全にお前を試していただけだ」
「けれど、私は、どうしても、、、」
言い訳だ。
今なら、なぜあそこまで感情的になったのか不思議に思うくらいなのに。
はあーーーっ、と大きいため息を吐かれた。
そこまでため息を吐かれるくらい、クロウ殿は怒っているようには見えなかった。
「あのとき叔父上は反応したが、クロウ殿は全然気にもとめていなかったようだった」
「んなわけあるか。第四皇子の狂気について、詳細な情報を得られなかったのはお前のせいだ。無能じゃないなら、自分で対処してみろと言われたんだぞ」
「え?」
「え?って、、、お前、それすら気づいてなかったのか。そこまで血が頭に上っていたのか。重症だな」
叔父上は頬杖をついた。
もう一方の片手は頭を掻いている。ボサボサになった髪がより荒れたので、縛っていた紐を外してしまう。
「普段のお前は慎重そのものだからな。少しは感情的になって人間味あふれるようになって良しと見るべきだと思うが、フィーアを受け入れて時間が経ってないために、自分で自分を制御できてないようにも見える。主に感情的な部分だが、その辺は時間をかけて馴染ませていくしかないのだろう」
「、、、あまり、フィーアを受け入れるという感覚もないのですけど」
「兄上のように即断即決できるような悩まない性格なら特に問題はないのだろうが、クロウにどうしたらいいか聞いてみたらどうだー?」
後半はニヤニヤ顔での提案だ。
「え、それは、、、」
「関係修復しておかないと、お前の代になったら見捨てられるぞ、あの大魔導士殿に」
叔父上がわざと大魔導士殿に、と言った。
代替わり時に他国に逃げられたら、帝国が危険なことはわかる。
「叔父上がいたら、なんだかんだ言っても見捨てない気がする」
正直に言うと、頬杖をついたまま叔父上が俺を見上げる。
「、、、私は兄上を支えるだけで精一杯だ。お前はディクスとフェムとともに、帝国を盛り立てていけ。トリステラは戻って来れたら協力してくれるかもしれないが、野生化している可能性も捨てきれない。もう弟たちに遠慮することはないぞ」
「叔父上は父上が引退したら、一緒に退く気なのか?」
私と叔父上の年齢はさほど変わらない。
父上が私に譲位した後、私とともに帝国を支えていくものだと思っていた。
「両親のように兄上が郊外の離宮に赴いたら、私も一緒についていくよ。まあ、まだ当分先の話だ。あの兄上がそう易々と皇帝の座を明け渡す気がしない」
私は言葉を重ねて手を伸ばそうとしたが、なんとなく叔父上の説得は難しいと感じた。
私には甘えがあった。
叔父上は帝国の呪いから除外された人物で、次代の皇帝に選ばれなくともずっと私を支えてくれるだろうと。
弟たちはいなくなるが、叔父上はずっとそばにいてくれると。
叔父上の、皇帝になる気がない、というのは言い換えれば、ずっと父上を支える決意があったからだ。
私が皇帝を譲られた後も、私ではなく。
叔父上は過去も今も、そして未来もたった一人を支える。
「あの、叔父上、、、父上についていっても、相談には乗ってくれないかな」
「、、、別にお前を見捨てるとまでは言ってないぞ。お前からは私がそんなに薄情に見えるのか?」
どうやったらそこまで飛躍した解釈になるんだ、という表情の叔父上がそこにいた。
翌朝。
「おはよう、クロウ殿」
ものすごーく嫌そうな顔で見られた。
「おはようございます、ベモガー皇太子殿下」
次の瞬間には笑顔に戻って、深いお辞儀の挨拶をされたが。
正々堂々、上流階級にしても遜色ない礼である。
クロウ殿の視線が厨房を向いた。
「クロウ殿、」
視線を私に戻してもらうように、名前を呼ぶ。
食堂にはまだ二人しかいない。
席に座ってもらい、向かいの席に私も座る。
「、、、夏休みの宿題は、まだ一日も経っていないのにお手上げですか?ヒントだってこんなに早く求めに来るなんて思いませんでしたよ」
夏休みの宿題、言い得て妙だ。
「叔父上のアドバイスに従ってみた。それに帝国での学校における夏期休暇はすでに終了している」
「まだこんなに暑い最中ですけど終了しているのですか。俺は学校に通ったことがないので、夏休み自体いつからいつまでか正確には知らないんですけどね、リンク王国でも」
苛立っているようには見えないが、言葉には棘があるのを感じる。
こんなにも朝早くなのに、眠そうには見えない。眠気に思考を引っ張られるような人ではないということだ。
「お前のセリムはまだ起きていないんだな」
叔父上が料理人の姿でお茶を出してくれた。そのままクロウ殿の横に立っているが。
「、、、不穏な空気を感じたので、早めに起きて出てきました」
「それは良く感じたな。さすがだ、クロウ」
叔父上に褒められたのに、クロウ殿が眉間に皺を寄せて、ずずずっと茶を啜る。
「貴方がたと接していると、フロレンスの口の悪さも納得してしまいますね。口を開くと悪口が飛び出すから、公式な無口キャラも精鋭部隊に入るときに押しつけたんでしょ」
え?そうなのか?
私は叔父上を見る。
「私の側付として幼い頃から一緒にいたが、フロレンスは元々口が悪い」
「、、、帝国上層部はなぜ根本から原因を正そうとしないで、適当にやり過ごそうとするのですか?ポシュも魔法で言動や礼儀を誤魔化し続けていたし、皇帝陛下も唯我独尊の自業自得だし、不可解の極みなのですが」
不思議そうな表情を浮かべるクロウ殿に淡々と問題点を指摘される我々。
「ああ、いえ、あれらは帝国の呪い頼みの運営を国がしていただけですよね。今後は直さないとダメですよ、そういうところ。もう帝国の希望は消滅したのですから」
勝手に自ら解答を出して、ダメ出しまでされた。
「クロウは帝国の呪いをちょいちょい帝国の希望と言うが、」
「アレは帝国の希望として生まれた魔法ですからね。帝国を強国とするために、自らも、自分の子孫も犠牲にして作り上げた有効な魔法です。時代は移り変わり、呪いと言われるようになってしまいましたが」
「アレが希望だったと思うか?」
「本来なら呪いと受け取り方が変化した時点で解呪を試みていれば、あそこまで強固で頑固な鎖になっていなかったかもしれません。それを警告として受け取っていれば、帝国で審判の門が開こうとすることもなかったのかもしれませんね」
冷静になれば、クロウ殿が大魔導士だということが理解できてくる。
帝国の呪いについての皆の行動を、昨晩叔父上から適当に説明された。
帝国中のどこを探しても、帝国の呪いについて詳細に説明できる者はいない。
呪いの詳細も解呪方法も推測でさえ、憶測の域をまったく出なかったのだから。
「で、今後、私はどうすればいい?」
私の質問に、クロウ殿の動作がとまった。
超笑顔だけれども。
「、、、昨日、俺に対してあれだけキレたのに、こんなにもすぐに助けを求めるなんて、なんとまあ面の皮が分厚い」
「クロウ殿もフロレンスのこと言えないなあ」
お口が悪い。
「フロレンスと同じく、お前らが悪口の元凶だからだろうが」
お前らがいなければフロレンスの口は悪くなっていないかのようにと聞こえたのだが?はて?
「その通りだ、クソ皇太子殿下。今後、自分のことは正確に把握しろ。できるだけ客観視しろ。それが国の頂点である皇族として生まれた責務だ。俺が黒髪の平民だからこれくらいの悪口で済んでいるし、フロレンスだって微かばかりの愛着がお前らに残っているから、鎖から解き放たれたにもかかわらず命を懸ける覚悟であの場にいたんだ。お前はフィーア第四皇子殿下の狂気も利用しろ。制御しろ。彼みたいに利用されるな。アレは言い訳に使っていい感情ではない」
「私はかまってほしいから、フロレンスは口が悪いのかと思っていたけど」
「ふふふ、ナナキ皇弟殿下も面白いことを言えるんですねえ。分別のつかない幼いガキじゃあるまいし、皇族じゃなければ、放置一択に決まっているじゃないですか。見捨てられなくて良かったですよね?」
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