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2章 帝国の呪い
2-98 置き土産
後始末は続く。
自然災害なら仕方ない。
帝城の強力な防御魔法があったからこそ霊廟一帯が損害を受けただけで済んだ、という感じの皇帝陛下の発表を帝国民は受け入れたようだ。
おそらく、クロウはそれを聞いたときは笑ったのだろうけど。
帝国の呪いが消えたとはいえ、今までの教育で培ったものや忠誠心までは即座に消えなかった。
ただし、何もしなければ時間とともにその効果はなくなっていく。
いつかは反乱や革命等に頭を悩まされることになるのだろうが、それは次世代の者たちが考えていく。
今やらなければならないことと区別して進まなければ、過労で倒れる。
皇帝であれば誰もが敬うという状態が正常であろうはずもない。
皇帝たる努力があってこその皇帝。
そして、それを支えていく基盤がこの国にはあるのだから。
霊廟等の再建もしなければならず、頭を悩まされることは多い。
それに。
「クロウに魔法障壁の構築を依頼した方が良いのかもしれないなあ」
リンク王国と比較するとあまりにも広大な帝国全土とは言わずとも、帝都、いや帝城だけでも。
クロウは仕事は仕事としてしっかり仕事する。それは大教会を見ていれば明らかだ。
高い報酬を支払えば、高い報酬分の働きをする人間である。
その辺りは信頼できる。
そもそも、リンク王国に通じている気配もなければ、リンク王国に恨みを抱いていない方がおかしいと思える職場環境であった。第四王子部隊に配属されたことだって恨みに思っていないわけがない。
それに人質になる人物がリンク王国には残っていない。親族でも孫、ひ孫あたりが残っているようだが、彼らとは決別しているのがクロウである。
血がつながっているからと言って、助けるクロウでもない。
もしクロウが血のつながりを重んじる人間なら、リンク王国に一度戻ったときにリーウセンのように連れて帰ってきているだろう。
とすれば、クロウには帝国が他国にわざと隙を見せているようにしか見えていない帝城の防御魔法も改善されるに違いない。
「一応言っておきますが、アレは捕虜ですよ」
「、、、フロレンス、物語の執筆の進み具合はどんな感じだ?」
「ああいうものは、他人に何か言われると書く気が失せるものでして」
と言い訳するフロレンスは精鋭部隊で帝城の後片付けに精を出している。
本来の仕事だから正しいように第三者からは映るのだが、皇帝の命令とは違う行動をとっている。
現場では調査や後始末で多くの者が忙しく行き来しているのだが、ちょうど二人で立っているので聞いてみたところこの始末だ。
、、、クロウはいつキレるだろう。
おそらく、彼のガントレットが復元ではなくパワーアップしたのは、そういうことだ。
精鋭部隊の仕事はさっさと片付けて、書いてね、という。
「、、、詩は書いているんだろう?」
「当然じゃないですか」
あっさりと認めるフロレンス。
うん、当然かー。
詩を書いていることはバレているんだろうなあ。
殺意が芽生えてたりしません?
殺すことだけはないか。続きが読みたいのなら。書かないなら殺すか、という短絡的な思考に陥らないことを祈る。
「フロレンスは軟禁とか監禁とかされたい派なのか?」
「どちらかというと、したい派ですかね」
性癖を聞いているわけじゃない。
残念ながら、これは平和な会話でもなく、刻々と危機が迫っている気がするんだよなあ、お前に。
「私も一応言っておくが、皇帝直属の精鋭部隊の隊員と言えども、クロウには関係ないぞ。お前が続きを書かないのなら拉致監禁もあり得ると私は考えている」
「拉致監禁されても書かないという選択肢もあるのでは?」
ごくごく普通に答えるフロレンス。
甘い、甘過ぎるぞ、お前。クロウがそれで納得するわけがないし、今もなお有効な魔法を開発している気がしてならない。
たいてい合理的な考えを示すお前が、なぜクロウの対応がお前だけには甘々にしてくれると考えているのか、私には理解できない。たとえ、クロウがお前の作品のファンであったとしても、クロウはお前のファンではない。コレ、重要。
私たちはお前にその物語を書く時間を与えているんだぞ、しっかりと。
責任転嫁するなよ、絶対。
私はお前をクロウに売るぞ。
「クロウが穏便な方法で拉致監禁してくれると良いな」
「拉致監禁と言ってる時点で穏便ではないのですが。それに捕虜である彼がどこに監禁場所を用意するのですか」
「クロウの収納空間がどれだけあるのかわからないが、かなりの別空間を持っているだろう。あそこに人間一人放り込む方法くらい、クロウなら知っているんじゃないか」
フロレンスが僅かに考え込む。
一笑に付されて終わらなくて良かった。そんなことをするようなら救いようがない。
それに、大教会とかあるじゃないか。底が知れない大教会とか。。。
シエルドは拉致監禁には協力しないと思うけど、大教会にはクロウに協力する人外が。。。
「確かに。けれど、精鋭部隊の隊員が行方不明になれば、帝城では騒ぎになるのでは?」
「クロウだけが疑わしいのであれば、帝国は一切関与しない」
きっぱり。
「それは職務怠慢では?」
「お前も帝国もその対価をすでに受け取っている。お前のガントレットはそもそも帝国の技術の粋を集めた武器だったのに、それを遥かに超えた性能が贈られているのだから、それはお前の今後の成果の前払いだ」
「、、、返品しようかな」
返品すると言い切れないところが悲しいな。
「メーデの大剣ならば代替品があるが、今のお前にはガントレットの替えがない。うまいところを突かれたわけだ。返品したいと思っても返せないから、クロウはプレゼントを押しつけられる」
「、、、私がクロウに拉致監禁されても帝国は仕方ないと諦めると?」
「その物語が完結すれば、クロウもお前を手放す」
終了があることなのに、わざわざクロウを怒らせることもない。
フロレンスの頑張り次第だが。
「冒険はまだまだ続く、で即完結させろと?」
「それ、クロウは許さないだろうなあ。お前が生きている限り、お前が別の結末を持っている限り」
あのとき死んでいれば許していただろうけど。
クロウは未完にしたくないから、フロレンスを生かす選択をした。
冒険はまだまだ続くは、未完になるくらいなら許せるという程度の結末である。
未完とほぼ等しい結果となったら、どちらにしても拉致監禁コースにご招待される。
フロレンスの作品は売上が良いので、まず出版社が打ち切りにしない。クロウが気に入るくらいだし、作品のレベルは高いのだろう。
「まあ、お前が拉致監禁を望むなら、私もこれ以上は言うまい」
「クロウにとりなしてくれる運びとなるところじゃないんですか、上官として」
「今のお前の上官は皇帝陛下で、私ではない」
皇帝陛下直属の精鋭部隊だから。
意見は普通に言うけど。
「では、昔のよしみで」
「お前が素直に机に向かってくれていたら、クロウも許すと思うんだけどなあ」
私の肩にのっている黒ワンコのクロがちょいちょい合図をくれた。
「え?許さないって?そっかー、クロウは経過より結果主義かあ。そんな気はしていたけど。どんなに怠けていても成果を出せば許してくれるって」
怠けると言っても、フロレンスがやっているのは一応仕事だけどね。
今、その仕事をする時間も皇帝は物語を書くよう命令しているんだけどね。
「、、、クロウに聞いたんですか?」
「うちの黒ワンコはセリムの銀ワンコと仲良しだから、銀ワンコはセリムの護衛に支障が出ない限りは協力体制とってくれているんだと」
「逆に言えば、私を売る情報も送っているのでは?」
「そりゃ、私もクロウに恨まれたくないし、皇帝陛下もきちんとその時間をお前に与えているし、しかも私はこうしてお前に書くよう促している」
「くっそーっ、最初から売却済みかっ」
命を救われておいて悔しがられても。
クロウがあの場に来なければ、お前はこの場にいないぞ。
恩を返さないヤツは見限られるぞ。
「フロレンス、お前からクロウに歩み寄れば?」
書けないのならば。
「何か負けたようで嫌だ」
すでにすべてにおいて負けてないか?
勝っているものが何かあるのか?
ああ、筋肉。
それに関してはクロウも勝ちたいとは思っていないんじゃないか。
「ああ、それと、フィーア第四皇子殿下の側近だった者は目立った動きをしていません」
「側近だった者は。」
側近ではなかった者が動いたのか。
手駒はどこにでも潜伏しているからなあ。
「ええ、そんな単純なら誰も苦労しませんよね」
そーですねー。
フロレンス、成果を褒めろと素直に言ってくれれば可愛いのに。
嫌味にしか聞こえないぞ。
私も最初から指示していたじゃないか。
「対応できたのか」
「一応。数件が未対応です」
「へえ。遅れての対応は可能か」
「無理なのが一件ですね」
「珍しい。フロレンスが無理だと断言するのは」
加害者も被害者も殺害してしまえば対応終了と普通に報告してしまうフロレンスなのに。
「ルッツ・ネイテスに接触されていました。教唆した者はすでに捕えておりますが、捕虜に手を下すのはクロウを刺激するため控えました」
「ルッツねえ。狂気に侵されても彼が狙うなら、クロウかセリムだろう」
「おそらく」
フィーアがルッツに働きかけたのは、クロウに対する嫌がらせに他ならない。
死ぬ前にすでに用意していたとは。
牢獄にいる捕虜に接触するのは成長株の軍人なら容易だ。
抱きに行けばいいのだから。
けれど、私の管理する牢獄で動いたというのならば、フィーアは初めから私にも喧嘩を売るつもりだったということだ。
「彼を生かしたいのなら、クロウが何とかするだろ。保留」
「ま、そうなりますよね。こちらが恩を売るより、クロウが何とかした方がクロウにとって幸せな結果が待っているでしょう」
帝国が動くと殺害一択になってしまうので、それが一番効率的だ。
皇帝陛下がポシュの命を救うよう願ったときのように。
ルッツがクロウを狙うなら生き残る可能性は高いが、セリムを狙ったら最後、クロウは許さないだろう。
別に神の愛し子を生かす理由はクロウにはないのだから。
理由はどうあれ、クロウはフロレンスを助けた。
クロウはああ言っていたが、犠牲になるのが私だったら助けてくれたのだろうか、とふと思った。
自然災害なら仕方ない。
帝城の強力な防御魔法があったからこそ霊廟一帯が損害を受けただけで済んだ、という感じの皇帝陛下の発表を帝国民は受け入れたようだ。
おそらく、クロウはそれを聞いたときは笑ったのだろうけど。
帝国の呪いが消えたとはいえ、今までの教育で培ったものや忠誠心までは即座に消えなかった。
ただし、何もしなければ時間とともにその効果はなくなっていく。
いつかは反乱や革命等に頭を悩まされることになるのだろうが、それは次世代の者たちが考えていく。
今やらなければならないことと区別して進まなければ、過労で倒れる。
皇帝であれば誰もが敬うという状態が正常であろうはずもない。
皇帝たる努力があってこその皇帝。
そして、それを支えていく基盤がこの国にはあるのだから。
霊廟等の再建もしなければならず、頭を悩まされることは多い。
それに。
「クロウに魔法障壁の構築を依頼した方が良いのかもしれないなあ」
リンク王国と比較するとあまりにも広大な帝国全土とは言わずとも、帝都、いや帝城だけでも。
クロウは仕事は仕事としてしっかり仕事する。それは大教会を見ていれば明らかだ。
高い報酬を支払えば、高い報酬分の働きをする人間である。
その辺りは信頼できる。
そもそも、リンク王国に通じている気配もなければ、リンク王国に恨みを抱いていない方がおかしいと思える職場環境であった。第四王子部隊に配属されたことだって恨みに思っていないわけがない。
それに人質になる人物がリンク王国には残っていない。親族でも孫、ひ孫あたりが残っているようだが、彼らとは決別しているのがクロウである。
血がつながっているからと言って、助けるクロウでもない。
もしクロウが血のつながりを重んじる人間なら、リンク王国に一度戻ったときにリーウセンのように連れて帰ってきているだろう。
とすれば、クロウには帝国が他国にわざと隙を見せているようにしか見えていない帝城の防御魔法も改善されるに違いない。
「一応言っておきますが、アレは捕虜ですよ」
「、、、フロレンス、物語の執筆の進み具合はどんな感じだ?」
「ああいうものは、他人に何か言われると書く気が失せるものでして」
と言い訳するフロレンスは精鋭部隊で帝城の後片付けに精を出している。
本来の仕事だから正しいように第三者からは映るのだが、皇帝の命令とは違う行動をとっている。
現場では調査や後始末で多くの者が忙しく行き来しているのだが、ちょうど二人で立っているので聞いてみたところこの始末だ。
、、、クロウはいつキレるだろう。
おそらく、彼のガントレットが復元ではなくパワーアップしたのは、そういうことだ。
精鋭部隊の仕事はさっさと片付けて、書いてね、という。
「、、、詩は書いているんだろう?」
「当然じゃないですか」
あっさりと認めるフロレンス。
うん、当然かー。
詩を書いていることはバレているんだろうなあ。
殺意が芽生えてたりしません?
殺すことだけはないか。続きが読みたいのなら。書かないなら殺すか、という短絡的な思考に陥らないことを祈る。
「フロレンスは軟禁とか監禁とかされたい派なのか?」
「どちらかというと、したい派ですかね」
性癖を聞いているわけじゃない。
残念ながら、これは平和な会話でもなく、刻々と危機が迫っている気がするんだよなあ、お前に。
「私も一応言っておくが、皇帝直属の精鋭部隊の隊員と言えども、クロウには関係ないぞ。お前が続きを書かないのなら拉致監禁もあり得ると私は考えている」
「拉致監禁されても書かないという選択肢もあるのでは?」
ごくごく普通に答えるフロレンス。
甘い、甘過ぎるぞ、お前。クロウがそれで納得するわけがないし、今もなお有効な魔法を開発している気がしてならない。
たいてい合理的な考えを示すお前が、なぜクロウの対応がお前だけには甘々にしてくれると考えているのか、私には理解できない。たとえ、クロウがお前の作品のファンであったとしても、クロウはお前のファンではない。コレ、重要。
私たちはお前にその物語を書く時間を与えているんだぞ、しっかりと。
責任転嫁するなよ、絶対。
私はお前をクロウに売るぞ。
「クロウが穏便な方法で拉致監禁してくれると良いな」
「拉致監禁と言ってる時点で穏便ではないのですが。それに捕虜である彼がどこに監禁場所を用意するのですか」
「クロウの収納空間がどれだけあるのかわからないが、かなりの別空間を持っているだろう。あそこに人間一人放り込む方法くらい、クロウなら知っているんじゃないか」
フロレンスが僅かに考え込む。
一笑に付されて終わらなくて良かった。そんなことをするようなら救いようがない。
それに、大教会とかあるじゃないか。底が知れない大教会とか。。。
シエルドは拉致監禁には協力しないと思うけど、大教会にはクロウに協力する人外が。。。
「確かに。けれど、精鋭部隊の隊員が行方不明になれば、帝城では騒ぎになるのでは?」
「クロウだけが疑わしいのであれば、帝国は一切関与しない」
きっぱり。
「それは職務怠慢では?」
「お前も帝国もその対価をすでに受け取っている。お前のガントレットはそもそも帝国の技術の粋を集めた武器だったのに、それを遥かに超えた性能が贈られているのだから、それはお前の今後の成果の前払いだ」
「、、、返品しようかな」
返品すると言い切れないところが悲しいな。
「メーデの大剣ならば代替品があるが、今のお前にはガントレットの替えがない。うまいところを突かれたわけだ。返品したいと思っても返せないから、クロウはプレゼントを押しつけられる」
「、、、私がクロウに拉致監禁されても帝国は仕方ないと諦めると?」
「その物語が完結すれば、クロウもお前を手放す」
終了があることなのに、わざわざクロウを怒らせることもない。
フロレンスの頑張り次第だが。
「冒険はまだまだ続く、で即完結させろと?」
「それ、クロウは許さないだろうなあ。お前が生きている限り、お前が別の結末を持っている限り」
あのとき死んでいれば許していただろうけど。
クロウは未完にしたくないから、フロレンスを生かす選択をした。
冒険はまだまだ続くは、未完になるくらいなら許せるという程度の結末である。
未完とほぼ等しい結果となったら、どちらにしても拉致監禁コースにご招待される。
フロレンスの作品は売上が良いので、まず出版社が打ち切りにしない。クロウが気に入るくらいだし、作品のレベルは高いのだろう。
「まあ、お前が拉致監禁を望むなら、私もこれ以上は言うまい」
「クロウにとりなしてくれる運びとなるところじゃないんですか、上官として」
「今のお前の上官は皇帝陛下で、私ではない」
皇帝陛下直属の精鋭部隊だから。
意見は普通に言うけど。
「では、昔のよしみで」
「お前が素直に机に向かってくれていたら、クロウも許すと思うんだけどなあ」
私の肩にのっている黒ワンコのクロがちょいちょい合図をくれた。
「え?許さないって?そっかー、クロウは経過より結果主義かあ。そんな気はしていたけど。どんなに怠けていても成果を出せば許してくれるって」
怠けると言っても、フロレンスがやっているのは一応仕事だけどね。
今、その仕事をする時間も皇帝は物語を書くよう命令しているんだけどね。
「、、、クロウに聞いたんですか?」
「うちの黒ワンコはセリムの銀ワンコと仲良しだから、銀ワンコはセリムの護衛に支障が出ない限りは協力体制とってくれているんだと」
「逆に言えば、私を売る情報も送っているのでは?」
「そりゃ、私もクロウに恨まれたくないし、皇帝陛下もきちんとその時間をお前に与えているし、しかも私はこうしてお前に書くよう促している」
「くっそーっ、最初から売却済みかっ」
命を救われておいて悔しがられても。
クロウがあの場に来なければ、お前はこの場にいないぞ。
恩を返さないヤツは見限られるぞ。
「フロレンス、お前からクロウに歩み寄れば?」
書けないのならば。
「何か負けたようで嫌だ」
すでにすべてにおいて負けてないか?
勝っているものが何かあるのか?
ああ、筋肉。
それに関してはクロウも勝ちたいとは思っていないんじゃないか。
「ああ、それと、フィーア第四皇子殿下の側近だった者は目立った動きをしていません」
「側近だった者は。」
側近ではなかった者が動いたのか。
手駒はどこにでも潜伏しているからなあ。
「ええ、そんな単純なら誰も苦労しませんよね」
そーですねー。
フロレンス、成果を褒めろと素直に言ってくれれば可愛いのに。
嫌味にしか聞こえないぞ。
私も最初から指示していたじゃないか。
「対応できたのか」
「一応。数件が未対応です」
「へえ。遅れての対応は可能か」
「無理なのが一件ですね」
「珍しい。フロレンスが無理だと断言するのは」
加害者も被害者も殺害してしまえば対応終了と普通に報告してしまうフロレンスなのに。
「ルッツ・ネイテスに接触されていました。教唆した者はすでに捕えておりますが、捕虜に手を下すのはクロウを刺激するため控えました」
「ルッツねえ。狂気に侵されても彼が狙うなら、クロウかセリムだろう」
「おそらく」
フィーアがルッツに働きかけたのは、クロウに対する嫌がらせに他ならない。
死ぬ前にすでに用意していたとは。
牢獄にいる捕虜に接触するのは成長株の軍人なら容易だ。
抱きに行けばいいのだから。
けれど、私の管理する牢獄で動いたというのならば、フィーアは初めから私にも喧嘩を売るつもりだったということだ。
「彼を生かしたいのなら、クロウが何とかするだろ。保留」
「ま、そうなりますよね。こちらが恩を売るより、クロウが何とかした方がクロウにとって幸せな結果が待っているでしょう」
帝国が動くと殺害一択になってしまうので、それが一番効率的だ。
皇帝陛下がポシュの命を救うよう願ったときのように。
ルッツがクロウを狙うなら生き残る可能性は高いが、セリムを狙ったら最後、クロウは許さないだろう。
別に神の愛し子を生かす理由はクロウにはないのだから。
理由はどうあれ、クロウはフロレンスを助けた。
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