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3章 奇縁がつなぐ間柄
3-5 思考をとめるな
「何だと?話が違うじゃないか、クロユリ」
白髪の彼が藤色の髪の彼に詰め寄る。
しかし、藤色なのに、なぜクロユリ?
、、、黒髪の青年がクロユリという名ならしっくり来るのだが、親がつけるのだからそうもいかないか。
偽名でもなさそうだし。
黒髪の彼はなぜスグリと名付けられたのか、とふと思う。
ああ、そういえば黒スグリもあったか。
ブラックカラント、つまりカシスである。
貴方に嫌われたら私は死にます、という超重い花言葉があったはず。
フロレンスが描いているあの物語に書かれていた。
花言葉を知っていること自体、フロレンスから受ける印象とは程遠いものだが、そういう知識は物語に深い味付けをしているように感じる。
黒スグリの花言葉というのは他にもある。貴方を喜ばせる、というものもあったので、そういう意味合いで名付けられたのだろう。
彼の黒髪から名付けられたのなら、黒スグリの方で間違いないと思われる。
ということは、フラッテン王国は子供に花の名前を付けることが多いのかもしれない。男女にかかわらず。
「スノー、アイツらが言うことを鵜呑みにするんじゃない。素直なのはお前の長所だが、容易く騙されるな」
あ、三人目は違った。
白髪の彼はスノーという名前だったのか。
捻りもない名付けだとは思うが、生まれたときから綺麗な白い髪だったに違いない。
「んー、俺を信じたくない気持ちもわかるが、でも、キミたちは後ろを見た方が良いんじゃないか?」
俺は三人に提案する。一応。
ここは帝城前の広場。
帝城にいる軍人がすぐさま飛んで来られる位置にある。
通報からものの数分もかからない。
こちらから見て彼らの後方には武器をかまえた黒服の軍人がずらっと並んでいる。
いやー、壮観だ。
振り返ったら大軍勢、って俺は経験したくないなー。
「誰に剣を向けているのか、理解しているのか」
驚愕を顔に出さない丹力は素直に称賛しよう。
クロユリくん、若いのに凄いね。
それとも、状況を正しく把握できていないのだろうか。
「ええ、存じ上げておりますよ。フラッテン王国第四王子クロユリ殿」
先頭に歩み出た黒軍服姿のナナキ氏が美しい笑顔で応じた。
内心ではメンドクセーと思っている気がする。
たとえ相当なご近所でも、このような場で皇帝陛下が出てくることはあるまい。
ただ、相手が友好国の王子だからこそ皇弟殿下が出てきた場面であるとも言えよう。
普通ならば皇弟も出て来ない。
ちなみに、オルド帝国の友好国とは文字通りの友好国ではなく、虎視眈々と侵略を狙っている国のことであるが。油断させるためにも帝国は友好関係を築いているように見せかけているだけである。
「ならば、このような振る舞いは両国の関係に亀裂を入れる行為なのでは?」
「クロユリ殿、我が帝国を先に攻撃しておきながら、そのような戯言を我らが聞き入れるとでも?」
「帝国を攻撃したのではない。我々は帝国に巣食う悪魔を掃討しにやってきたのだ」
帝国に巣食う悪魔って、俺のことですかね?
状況的にそう推測できますけどね。
たかが、一介の捕虜に?
へー?
帝国が俺を見張っているのに?
それは帝国を軽視していることにもつながる。
「ならば、正々堂々本人のみに攻撃を仕掛ければ良いこと。我が帝国の建造物に対しての攻撃はどう申し開きなされるのか」
「大教会への攻撃は、使節団にご理解いただいている。聖職者や信者には怪我を負わせないよう充分に配慮している」
大教会の内部にいる信者を操って、俺たちを攻撃させようとしていたのはどこの誰でしょうかね?
不発に終わっていれば、何とでも言えるのか?
クロユリちゃん、後で追い詰められても仕方ないねえ。
「オルド帝国の大教会は教会の所有物ではない。オルド帝国に存在する人、物すべてが皇帝陛下のものである。例外はない」
他国の者にも堂々と言い切れるナナキ皇弟殿下、さすがだぜ。
「何を、」
「所有関係を確認しないで我が帝国を攻撃されたのか。フラッテン王国の王子たる者が」
いやーん、ナナキ氏の笑顔が怖ーい。
ゴートナー文官と良い勝負だ。
笑顔の使い方はあの人から学んでおけば一通り掌握できる。
たいていの国の教会は今もなお治外法権している。
フラッテン王国は宗教国家の色がかなり残っている国。
そこの王子がどこの国でも教会の所有者は宗教国家だと勘違いするのも無理はない。
教会側も不利益な情報を漏らさないから。
若いと自分の常識が世界の常識だと思い込んじゃうよねー。
教会の所有権事情は宗教国家との力関係であり、強国であればあるほど何でも口出しでき自由にできるのである。
オルド帝国の大教会の修繕工事は、教会長が宗教国家に報告という形をとってはいる。
「ナナキ皇弟殿下、所有権が教会にないというのは暴論ではないでしょうか?教会側から正式に抗議を」
「ならば、現在進めているこの大教会に関わる大修繕工事の費用全額の請求をそちらに回すがよろしいか」
「いえ、」
宗教国家の教会の使節団らしき白い法衣をまとった一人はあっさり退いた。
大教会と呼ばれるほどの建造物の修繕費用など、概算など知らずとも宗教国家の上層部に携わる人物なら恐ろしいほどの金額が飛ぶことなど知っている。小さい教会でさえ修繕費は相当なものだ。建て直す方が安いとされる教会なんて各国に山ほど存在しているのである。
教会の数が多いのは、宗教国家が強かった時代に乱立させたせいでもある。
町や村に一つは存在する国も珍しくない。
なので、宗教国家が手を引いている国々では、象徴とされる教会を除いて、閉鎖し解体して数を減らしている。
残している教会も宗教国家が管理維持ができないので、教会の所有権関係も落ち着いているのである。
帝都の大教会の修繕に金を出しているのは、正確にはアッシェン大商会だ。
アッシェン大商会の金も皇帝のものの扱いだから、基本的には偽りはないのだが。
「クロユリ殿を丁重に帝城までお連れしろ」
それだけ言い残すと、ナナキ氏はマントを翻してこの場を去っていく。
そう、クロユリだけを指定した。
他の二人は抵抗するならば、無理矢理でもかまわないということ。
生死もどちらでもいいのだ。
第四王子であるクロユリはフラッテン王国との交渉に使えるということ。
クロユリは一瞬だけ悔しそうに顔を歪めたが、すぐに戻す。
「スグリ、スノー、大人しくしておけ。事の重要性を帝国は理解していないようだが、話せばわかることだ」
「クロユリがそう言うなら」
スノーはしかめっ面をしながら、渋々帝国の軍人に従う。
スグリは無言のままクロユリのそばにいる。
クロユリは二人の上官らしいが、呼称が呼び捨てなのはどういうことなのだろう。
三人は軍人たちに促されて帝城の方へと向かう。
大勢の軍人が帝城に戻り始める。
「クロウ殿、お騒がせいたしました。後はこちらで対処いたしますので、お仕事にお戻りください」
精鋭部隊の隊長以下数人が大教会に近づいてきた。
残念ながら、フロレンスの姿はない。
不穏な雰囲気は大教会内からの方が高い。
「我々も大教会内部の安全を確認したいと思っておりますが、」
「大教会が一度目の攻撃を受けた後、魔法障壁を大教会に張りましたので特に問題はないと思いますが、調べるのならば安全には気をつけてどうぞ」
「魔法障壁、」
隊長の瞳が好奇心の塊の光に満ち満ちた気がする。
隊長以下数人だったはずなのに、俺が魔法障壁と発言した途端、十数人に増えた。
それでも、少ない数ではあるらしい。
こちらに来ようとした者たちの腕を引っ張って、帝城に戻っていく者の存在が少なくないのが見える。
「クロウ殿、もしお時間があれば襲撃の状況等をお聞きしたいのですがよろしいですか」
等、とな?
大教会の祈りの間入口付近に輝く魔法障壁の魔法陣で全員足が停止したところを見ると、襲撃の状況を俺に聞きたいわけじゃないだろ?
白髪の彼が藤色の髪の彼に詰め寄る。
しかし、藤色なのに、なぜクロユリ?
、、、黒髪の青年がクロユリという名ならしっくり来るのだが、親がつけるのだからそうもいかないか。
偽名でもなさそうだし。
黒髪の彼はなぜスグリと名付けられたのか、とふと思う。
ああ、そういえば黒スグリもあったか。
ブラックカラント、つまりカシスである。
貴方に嫌われたら私は死にます、という超重い花言葉があったはず。
フロレンスが描いているあの物語に書かれていた。
花言葉を知っていること自体、フロレンスから受ける印象とは程遠いものだが、そういう知識は物語に深い味付けをしているように感じる。
黒スグリの花言葉というのは他にもある。貴方を喜ばせる、というものもあったので、そういう意味合いで名付けられたのだろう。
彼の黒髪から名付けられたのなら、黒スグリの方で間違いないと思われる。
ということは、フラッテン王国は子供に花の名前を付けることが多いのかもしれない。男女にかかわらず。
「スノー、アイツらが言うことを鵜呑みにするんじゃない。素直なのはお前の長所だが、容易く騙されるな」
あ、三人目は違った。
白髪の彼はスノーという名前だったのか。
捻りもない名付けだとは思うが、生まれたときから綺麗な白い髪だったに違いない。
「んー、俺を信じたくない気持ちもわかるが、でも、キミたちは後ろを見た方が良いんじゃないか?」
俺は三人に提案する。一応。
ここは帝城前の広場。
帝城にいる軍人がすぐさま飛んで来られる位置にある。
通報からものの数分もかからない。
こちらから見て彼らの後方には武器をかまえた黒服の軍人がずらっと並んでいる。
いやー、壮観だ。
振り返ったら大軍勢、って俺は経験したくないなー。
「誰に剣を向けているのか、理解しているのか」
驚愕を顔に出さない丹力は素直に称賛しよう。
クロユリくん、若いのに凄いね。
それとも、状況を正しく把握できていないのだろうか。
「ええ、存じ上げておりますよ。フラッテン王国第四王子クロユリ殿」
先頭に歩み出た黒軍服姿のナナキ氏が美しい笑顔で応じた。
内心ではメンドクセーと思っている気がする。
たとえ相当なご近所でも、このような場で皇帝陛下が出てくることはあるまい。
ただ、相手が友好国の王子だからこそ皇弟殿下が出てきた場面であるとも言えよう。
普通ならば皇弟も出て来ない。
ちなみに、オルド帝国の友好国とは文字通りの友好国ではなく、虎視眈々と侵略を狙っている国のことであるが。油断させるためにも帝国は友好関係を築いているように見せかけているだけである。
「ならば、このような振る舞いは両国の関係に亀裂を入れる行為なのでは?」
「クロユリ殿、我が帝国を先に攻撃しておきながら、そのような戯言を我らが聞き入れるとでも?」
「帝国を攻撃したのではない。我々は帝国に巣食う悪魔を掃討しにやってきたのだ」
帝国に巣食う悪魔って、俺のことですかね?
状況的にそう推測できますけどね。
たかが、一介の捕虜に?
へー?
帝国が俺を見張っているのに?
それは帝国を軽視していることにもつながる。
「ならば、正々堂々本人のみに攻撃を仕掛ければ良いこと。我が帝国の建造物に対しての攻撃はどう申し開きなされるのか」
「大教会への攻撃は、使節団にご理解いただいている。聖職者や信者には怪我を負わせないよう充分に配慮している」
大教会の内部にいる信者を操って、俺たちを攻撃させようとしていたのはどこの誰でしょうかね?
不発に終わっていれば、何とでも言えるのか?
クロユリちゃん、後で追い詰められても仕方ないねえ。
「オルド帝国の大教会は教会の所有物ではない。オルド帝国に存在する人、物すべてが皇帝陛下のものである。例外はない」
他国の者にも堂々と言い切れるナナキ皇弟殿下、さすがだぜ。
「何を、」
「所有関係を確認しないで我が帝国を攻撃されたのか。フラッテン王国の王子たる者が」
いやーん、ナナキ氏の笑顔が怖ーい。
ゴートナー文官と良い勝負だ。
笑顔の使い方はあの人から学んでおけば一通り掌握できる。
たいていの国の教会は今もなお治外法権している。
フラッテン王国は宗教国家の色がかなり残っている国。
そこの王子がどこの国でも教会の所有者は宗教国家だと勘違いするのも無理はない。
教会側も不利益な情報を漏らさないから。
若いと自分の常識が世界の常識だと思い込んじゃうよねー。
教会の所有権事情は宗教国家との力関係であり、強国であればあるほど何でも口出しでき自由にできるのである。
オルド帝国の大教会の修繕工事は、教会長が宗教国家に報告という形をとってはいる。
「ナナキ皇弟殿下、所有権が教会にないというのは暴論ではないでしょうか?教会側から正式に抗議を」
「ならば、現在進めているこの大教会に関わる大修繕工事の費用全額の請求をそちらに回すがよろしいか」
「いえ、」
宗教国家の教会の使節団らしき白い法衣をまとった一人はあっさり退いた。
大教会と呼ばれるほどの建造物の修繕費用など、概算など知らずとも宗教国家の上層部に携わる人物なら恐ろしいほどの金額が飛ぶことなど知っている。小さい教会でさえ修繕費は相当なものだ。建て直す方が安いとされる教会なんて各国に山ほど存在しているのである。
教会の数が多いのは、宗教国家が強かった時代に乱立させたせいでもある。
町や村に一つは存在する国も珍しくない。
なので、宗教国家が手を引いている国々では、象徴とされる教会を除いて、閉鎖し解体して数を減らしている。
残している教会も宗教国家が管理維持ができないので、教会の所有権関係も落ち着いているのである。
帝都の大教会の修繕に金を出しているのは、正確にはアッシェン大商会だ。
アッシェン大商会の金も皇帝のものの扱いだから、基本的には偽りはないのだが。
「クロユリ殿を丁重に帝城までお連れしろ」
それだけ言い残すと、ナナキ氏はマントを翻してこの場を去っていく。
そう、クロユリだけを指定した。
他の二人は抵抗するならば、無理矢理でもかまわないということ。
生死もどちらでもいいのだ。
第四王子であるクロユリはフラッテン王国との交渉に使えるということ。
クロユリは一瞬だけ悔しそうに顔を歪めたが、すぐに戻す。
「スグリ、スノー、大人しくしておけ。事の重要性を帝国は理解していないようだが、話せばわかることだ」
「クロユリがそう言うなら」
スノーはしかめっ面をしながら、渋々帝国の軍人に従う。
スグリは無言のままクロユリのそばにいる。
クロユリは二人の上官らしいが、呼称が呼び捨てなのはどういうことなのだろう。
三人は軍人たちに促されて帝城の方へと向かう。
大勢の軍人が帝城に戻り始める。
「クロウ殿、お騒がせいたしました。後はこちらで対処いたしますので、お仕事にお戻りください」
精鋭部隊の隊長以下数人が大教会に近づいてきた。
残念ながら、フロレンスの姿はない。
不穏な雰囲気は大教会内からの方が高い。
「我々も大教会内部の安全を確認したいと思っておりますが、」
「大教会が一度目の攻撃を受けた後、魔法障壁を大教会に張りましたので特に問題はないと思いますが、調べるのならば安全には気をつけてどうぞ」
「魔法障壁、」
隊長の瞳が好奇心の塊の光に満ち満ちた気がする。
隊長以下数人だったはずなのに、俺が魔法障壁と発言した途端、十数人に増えた。
それでも、少ない数ではあるらしい。
こちらに来ようとした者たちの腕を引っ張って、帝城に戻っていく者の存在が少なくないのが見える。
「クロウ殿、もしお時間があれば襲撃の状況等をお聞きしたいのですがよろしいですか」
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