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1章 敵国の牢獄
1-41 大教会の秘密7
良かった、良かった。
シエルド氏が快諾してくれて良かった。
ラウトリス神官の方は問題ないだろう。
俺は足取り軽く、大教会に戻る。
一等地にあるアッシェン大商会からそこまで離れていないが、一等地にあるのにそれぞれの建物がそれなりに大きいから距離があることにはある。
夜の大教会の裏口から、魔法でこっそりと鍵を開けて侵入する。
扉を閉めたら、鍵をしっかり閉めておかないと。
俺のような珍入者に入られないようにね。
「おかえりなさいませー、旦那様」
びくりっ。
と肩が小さく反応してしまったが、そこにいたのはエセ案内人のエセル。
そう、潰したエセルなのだが。
十五センチほどの小さい二頭身エセルが迎えてくれていた。
光り輝いているのは同じだが、光り輝いているように見えるのは俺だけらしい。
魔力量に応じて見えるか見えないか、どう見えるかが決まるのだそうな。
彼があの姿になって以来、見えた人物はいなかったという話だが。
「ご主人様、主様、旦那様等々その類で呼ぶのはやめろと言っただろ」
「ですが、クロウ様とお名前でお呼びするのはお恥ずかしいー」
きゃっとちっこい両手を赤く染めた頬にあてている。
どうですかね?
あのキラキライケメンだったときの態度との違い。
これ、演技?
「だったら、魔導士でいいと言ったじゃないか」
「大魔導士様ならー」
なぜ、大をつけたがるのだろう?
魔導士様でいいんじゃないか?
このエセルと同じ会話を何十回もしている気がする。
小さくなると記憶力もなくなるのだろうか。
それとも、俺が折れるまで永遠と不毛な会話が続くのだろうか。
「クッロウさまー、おかえりなさーいっ」
歌うように大声で俺を呼んだのも、ちびエセル。
ちっこいエセルがさらにちまちま歩いてやって来る。
そう、潰したら五体に増えた。
潰した液体からさらに産み出そうとしていたので、残りの液体物はとっさに魔法で固めてしまった。どれだけ増える気だったのか。今もなお魔法陣の部屋で固まり中。
「コイツは普通に俺の名前を呼ぶじゃないか」
「ソレは恥じらいが足りないだけですー」
「恥じらいがあろうとなかろうと、俺がクロウと呼んでいいと言ったのだから、そう呼べ」
「クロウっ」
エセルの一体が呼び捨てで呼んだら、残り四体に殴られ蹴られた。
素直が一番なのに。
涙目になっているエセルの頭を人差し指で撫でておこう。
人が変わったかのように嬉しそうな表情をする。。。
長い髪やキラキラ加減は元のエセルと同じだが、人形のようにかわいくなった。
きっと生まれ変わったんだろうな。
どれが元のエセルに近いのか、付き合いが浅すぎてわからないが。
「はあーっ、お前たちは俺に有益な物をもたらす気はあるのか」
五匹が、、、五体が一斉に手をあげる。
「他の地下室には魔導書も保管されてますー」
「レアな魔導書がざっくざくー」
「その隠し部屋に禁書になっている魔導書もありますよー」
ふっ、なぜか俺の目的が魔導書だってわかっているんだよなあ、コイツら。
イケメンエセル時代の記憶があるのかないのか、、、あるんだろうけど、なんか微妙なんだよな。正確な気がしない。どこかズレている。重要な記憶は固まらせた方に残されているのか。
「なぜ宗教国家は魔導書を放置しているんだ?ここにあるのは危険なものなのか?」
この地下に貴重な魔導書はないということだろうか。
自国にあると危険だから、遠い帝国で保管させていたということもありうる。
「危険なのもありますしー、大変貴重な魔導書も埋まってますー。聖職者というのは証拠を残さないので、本国は存在をすっかり忘れてますー」
ああ、証拠を残さない、ね。
もしかしたら、というより本気でこの帝国を乗っ取る気だったのかもしれないな。当時の教会は。
ただ口頭で伝えるだけ、というのは伝えるのを忘れたり、伝えられたことを忘れた瞬間に綺麗に情報がなくなってしまう危険性もある。
今回はそれが実現してしまっただけだ。
教会にとっても帝国にとっても、良いのか悪いのかわからないが。
ま、魔導書がある地下室には後で案内してもらおう。
書物ならいくら読んでも盗みにはならない、きっと。
「で、お前たちは結局何なんだ?」
エセルは何の目的で作られたのか。
「番人」
「管理人」
「調教師」
「飼育係」
「裁定者」
ああ、大教会の地下に巣くう謎のブツに対する役目。
裁定者というのがよくわからんが、なぜ五体別々な回答をするのか。
コイツら、同じエセルじゃないのか?
「アレの餌って何だ?」
「主には人の負の感情、悪しき魔力ですー。あと、行方不明者がちらほらとー」
餌は人間か。
エセルの姿が見えなくとも、あの地下の螺旋階段に誘い込まれたら、普通の人間には対処できないだろう。
武装していたとしても、魔導士か力のある魔道具でも身に着けてない限り飲み込まれて終わる気がする。
長い年月でどれだけの人数が犠牲になったことやら。
それがどれだけの数であろうと、平然と考えている俺は、それが単に見知らぬ他人で数字でしかないから。
今は。
家族が犠牲になっていたら、また違う感情が芽生えていたはずだ。
「ところで、何でエセルは懺悔室にいたんだ?」
「それは最適な場所ですからー」
「密会するのにー」
「交わるのにー」
「魔法でぐるぐるされて、つかまってー、気づいたらあの姿にー」
五匹が訴えてくる。
直接的な表現を使わないものの。
「って、はあっ?」
俺は急いで、懺悔室が置いてある小空間に向かう。
事実を確認するために。
エセル五体もちまちまと短い足でついてくる。短いのに俺と同じ速度で来れるのだから、本当に足で動いているわけではないのだろう。
俺は懺悔室と呼ばれる装飾された木箱を注意深く見る。
扉の鍵はどちら側も開いている。
「遮音の魔法とか付与されているのは気づいていたが、」
巧妙に隠蔽の魔法まで付与されている。
ラウトリス神官やゴートナー文官がいたからそこまでしっかりと見ていなかった。
「ここで交われば交わるほどー、地獄の門が開きますー」
「へ?」
まさかあの地下のアレは、アレ自体が脅威ではないのか?
教会はアレも供物にしようとしていたのか?
「この地下、娼館にでも作っておけよ」
「それではダメなのですー」
「同意の行為では意味がないのですー」
「お金などの対価がある場合も同意とみなしますー」
最悪だな。
「ゲスだな。どこの聖職者も」
隠蔽された魔法は、どこまでもクズの。
帝国に守られ大人数が訪れていた、大教会がやりたい放題だった時代の負の産物。
俺は扉、窓、椅子の下や細々とした部分まで刻まれた魔法を消し去る。
懺悔室としては正常に使えるように遮音の魔法だけはそのまま残しておいたが。
コレは帝国を意のままに操ることができなければ、帝国は滅びをもって教会に代償を支払う、そんなところか。
宗教国家がその後、この地を最低限の聖職者の配置にしたのは。
それは犠牲になるはずの聖職者をできる限り最少にするための。
それなのに、今までの犠牲をすべて忘れさられ、結末がコレか。
「忘れるのは最悪だろ」
大事なことはきちんと後任者に伝えておけよ。
それがどんなに悪事なことだとしても。
犠牲になった者たちが浮かばれないじゃないか。
サザさんの目論見がほんの少しずつ成果を上げている。
敵国のことだったのに、この下町に住む人々の顔が浮かんでしまった。
家族のようとまではまだいかないが、彼らが、彼らの家族が、友人や知人が、大切な人が、この大教会の地下に迷い込んでないことを祈ってしまった。
そして、当時の教会や皇帝が、その犠牲を知らないことに俺は腹を立てていた。
シエルド氏が快諾してくれて良かった。
ラウトリス神官の方は問題ないだろう。
俺は足取り軽く、大教会に戻る。
一等地にあるアッシェン大商会からそこまで離れていないが、一等地にあるのにそれぞれの建物がそれなりに大きいから距離があることにはある。
夜の大教会の裏口から、魔法でこっそりと鍵を開けて侵入する。
扉を閉めたら、鍵をしっかり閉めておかないと。
俺のような珍入者に入られないようにね。
「おかえりなさいませー、旦那様」
びくりっ。
と肩が小さく反応してしまったが、そこにいたのはエセ案内人のエセル。
そう、潰したエセルなのだが。
十五センチほどの小さい二頭身エセルが迎えてくれていた。
光り輝いているのは同じだが、光り輝いているように見えるのは俺だけらしい。
魔力量に応じて見えるか見えないか、どう見えるかが決まるのだそうな。
彼があの姿になって以来、見えた人物はいなかったという話だが。
「ご主人様、主様、旦那様等々その類で呼ぶのはやめろと言っただろ」
「ですが、クロウ様とお名前でお呼びするのはお恥ずかしいー」
きゃっとちっこい両手を赤く染めた頬にあてている。
どうですかね?
あのキラキライケメンだったときの態度との違い。
これ、演技?
「だったら、魔導士でいいと言ったじゃないか」
「大魔導士様ならー」
なぜ、大をつけたがるのだろう?
魔導士様でいいんじゃないか?
このエセルと同じ会話を何十回もしている気がする。
小さくなると記憶力もなくなるのだろうか。
それとも、俺が折れるまで永遠と不毛な会話が続くのだろうか。
「クッロウさまー、おかえりなさーいっ」
歌うように大声で俺を呼んだのも、ちびエセル。
ちっこいエセルがさらにちまちま歩いてやって来る。
そう、潰したら五体に増えた。
潰した液体からさらに産み出そうとしていたので、残りの液体物はとっさに魔法で固めてしまった。どれだけ増える気だったのか。今もなお魔法陣の部屋で固まり中。
「コイツは普通に俺の名前を呼ぶじゃないか」
「ソレは恥じらいが足りないだけですー」
「恥じらいがあろうとなかろうと、俺がクロウと呼んでいいと言ったのだから、そう呼べ」
「クロウっ」
エセルの一体が呼び捨てで呼んだら、残り四体に殴られ蹴られた。
素直が一番なのに。
涙目になっているエセルの頭を人差し指で撫でておこう。
人が変わったかのように嬉しそうな表情をする。。。
長い髪やキラキラ加減は元のエセルと同じだが、人形のようにかわいくなった。
きっと生まれ変わったんだろうな。
どれが元のエセルに近いのか、付き合いが浅すぎてわからないが。
「はあーっ、お前たちは俺に有益な物をもたらす気はあるのか」
五匹が、、、五体が一斉に手をあげる。
「他の地下室には魔導書も保管されてますー」
「レアな魔導書がざっくざくー」
「その隠し部屋に禁書になっている魔導書もありますよー」
ふっ、なぜか俺の目的が魔導書だってわかっているんだよなあ、コイツら。
イケメンエセル時代の記憶があるのかないのか、、、あるんだろうけど、なんか微妙なんだよな。正確な気がしない。どこかズレている。重要な記憶は固まらせた方に残されているのか。
「なぜ宗教国家は魔導書を放置しているんだ?ここにあるのは危険なものなのか?」
この地下に貴重な魔導書はないということだろうか。
自国にあると危険だから、遠い帝国で保管させていたということもありうる。
「危険なのもありますしー、大変貴重な魔導書も埋まってますー。聖職者というのは証拠を残さないので、本国は存在をすっかり忘れてますー」
ああ、証拠を残さない、ね。
もしかしたら、というより本気でこの帝国を乗っ取る気だったのかもしれないな。当時の教会は。
ただ口頭で伝えるだけ、というのは伝えるのを忘れたり、伝えられたことを忘れた瞬間に綺麗に情報がなくなってしまう危険性もある。
今回はそれが実現してしまっただけだ。
教会にとっても帝国にとっても、良いのか悪いのかわからないが。
ま、魔導書がある地下室には後で案内してもらおう。
書物ならいくら読んでも盗みにはならない、きっと。
「で、お前たちは結局何なんだ?」
エセルは何の目的で作られたのか。
「番人」
「管理人」
「調教師」
「飼育係」
「裁定者」
ああ、大教会の地下に巣くう謎のブツに対する役目。
裁定者というのがよくわからんが、なぜ五体別々な回答をするのか。
コイツら、同じエセルじゃないのか?
「アレの餌って何だ?」
「主には人の負の感情、悪しき魔力ですー。あと、行方不明者がちらほらとー」
餌は人間か。
エセルの姿が見えなくとも、あの地下の螺旋階段に誘い込まれたら、普通の人間には対処できないだろう。
武装していたとしても、魔導士か力のある魔道具でも身に着けてない限り飲み込まれて終わる気がする。
長い年月でどれだけの人数が犠牲になったことやら。
それがどれだけの数であろうと、平然と考えている俺は、それが単に見知らぬ他人で数字でしかないから。
今は。
家族が犠牲になっていたら、また違う感情が芽生えていたはずだ。
「ところで、何でエセルは懺悔室にいたんだ?」
「それは最適な場所ですからー」
「密会するのにー」
「交わるのにー」
「魔法でぐるぐるされて、つかまってー、気づいたらあの姿にー」
五匹が訴えてくる。
直接的な表現を使わないものの。
「って、はあっ?」
俺は急いで、懺悔室が置いてある小空間に向かう。
事実を確認するために。
エセル五体もちまちまと短い足でついてくる。短いのに俺と同じ速度で来れるのだから、本当に足で動いているわけではないのだろう。
俺は懺悔室と呼ばれる装飾された木箱を注意深く見る。
扉の鍵はどちら側も開いている。
「遮音の魔法とか付与されているのは気づいていたが、」
巧妙に隠蔽の魔法まで付与されている。
ラウトリス神官やゴートナー文官がいたからそこまでしっかりと見ていなかった。
「ここで交われば交わるほどー、地獄の門が開きますー」
「へ?」
まさかあの地下のアレは、アレ自体が脅威ではないのか?
教会はアレも供物にしようとしていたのか?
「この地下、娼館にでも作っておけよ」
「それではダメなのですー」
「同意の行為では意味がないのですー」
「お金などの対価がある場合も同意とみなしますー」
最悪だな。
「ゲスだな。どこの聖職者も」
隠蔽された魔法は、どこまでもクズの。
帝国に守られ大人数が訪れていた、大教会がやりたい放題だった時代の負の産物。
俺は扉、窓、椅子の下や細々とした部分まで刻まれた魔法を消し去る。
懺悔室としては正常に使えるように遮音の魔法だけはそのまま残しておいたが。
コレは帝国を意のままに操ることができなければ、帝国は滅びをもって教会に代償を支払う、そんなところか。
宗教国家がその後、この地を最低限の聖職者の配置にしたのは。
それは犠牲になるはずの聖職者をできる限り最少にするための。
それなのに、今までの犠牲をすべて忘れさられ、結末がコレか。
「忘れるのは最悪だろ」
大事なことはきちんと後任者に伝えておけよ。
それがどんなに悪事なことだとしても。
犠牲になった者たちが浮かばれないじゃないか。
サザさんの目論見がほんの少しずつ成果を上げている。
敵国のことだったのに、この下町に住む人々の顔が浮かんでしまった。
家族のようとまではまだいかないが、彼らが、彼らの家族が、友人や知人が、大切な人が、この大教会の地下に迷い込んでないことを祈ってしまった。
そして、当時の教会や皇帝が、その犠牲を知らないことに俺は腹を立てていた。
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