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1章 敵国の牢獄
1-60 特別な銀色
ちょこんとテーブルに座るちっこい銀ワンコがいる。
目つきは悪いが、尻尾をフリフリしている。うん。。。
「、、、クロウ、これ」
「セリムの髪の色に合わせて、銀ワンコにしてみた。是非とももらってくれ」
クロウが俺に嬉しそうに笑顔で勧める。
早朝の食堂。
仲間たちはまだ誰もいないが、厨房には料理人たちがいる。
肩に黒ワンコをのせた料理長がチラチラと視線を送って来る。
彼はあの黒ワンコのこと、帝城の者たちにいつもどう説明しているのだろう?
さて。
テーブルにのった銀ワンコ。
睨まれているようにしか見えないが、近しいものを感じる。だから、あれだけいる黒ワンコのなかからクロウに選ばれたのだろうが。
「ええっと、血の契約をすればいいのか?」
「いや、血の契約は俺とすでに済ませている」
「えっ、噛まれた傷は大丈夫なのかっ」
慌ててクロウの手首を握る。両手には傷がないことを確認したが。
「血を与えただけで、噛まれてはいないよ」
「血を与えたということは、肌に傷をつけたということだろう?」
クロウの黒い瞳が俺を見た。
彼の目が瞬く。
「あー、いや、そうじゃない。心配してくれるのは嬉しいが、空間転移魔法の応用だ。傷をつけなくとも、少量の血なら」
小さな赤い点が俺の目の前に浮かぶ。
「え、」
銀ワンコが飛び跳ねてパクリと食べた。ペロリ。着地してドヤ顔しているのはなぜだ。クロウに仕込まれた芸なのか?
「実践して見せた方がいいと思って。あのくらいの量なら魔法陣がなくとも動かせる」
「あの赤いのは、クロウの血だったのか?」
「そう、俺の血」
「頼むから無理はしないでくれ」
クロウの両手を握って懇願する。
彼は血の一滴も流してはいけない、流させないように守りたいと思っていたのに。
「無理はしてないし、この銀ワンコはセリムを守れる」
「俺はクロウに守られてばかりだな。本当は俺が守りたいのに」
両手を握る手にぎゅっと力をこめた。
視線を上げると、クロウは優しく微笑んでいる。
「守りたいと思ってくれるだけでも嬉しい。だから、俺はお前を失いたくない」
クロウの黒い瞳が、深淵を覗かせた。
俺は息を飲む。
どこまでも深い闇。
どこまでも引き摺り込まれるような。
「セリム、俺にお前を守らせてくれるか」
「俺がクロウを守りたかったけど、力不足は認める。これからも精進してクロウの力になれるように頑張る」
「、、、ということは、クロウは私のことも守りたかったということか」
すぐそばに黒ワンコを肩にのせたニヤニヤ料理長が立っていた。
こちらの黒ワンコはつぶらな瞳で可愛らしい。
「いや?ナナキさんは何を言っているんだ?」
本気でキョトンとした表情で料理長を見るクロウ。
「だって、私にもこの黒ワンコをくれたじゃないかっ」
「その黒ワンコはナナキさんと契約しただろう。ナナキさんの魔力によって、その黒ワンコは力を貸してくれる」
「んーと、あれ?」
料理長は思案顔。
ああ、契約者の関係なのか。
「この銀ワンコは俺と契約して、俺の魔力でセリムを守る」
「ああ、そういうことか。黒ワンコがいるからといってクロウが守ってくれているわけじゃないのかー」
少々ガッカリしたような顔になる料理長。
慰めるようにペチペチ前足で料理長の顔に触れる黒ワンコ。
反対に俺は顔がニヤけそうになるのを全力で防ぐ。
「まあ、一応、黒ワンコたちは俺には絶対服従なんだけど、契約がなくとも」
「、、、んー、それってやっぱり間接的にクロウが守ってくれてるってことじゃないのか」
そもそも、黒ワンコたちはクロウがいなければ人に従うことはないだろう。
今はどんなに可愛い姿に成り果てたとしても。
この黒ワンコたちは凄まじい力を一体一体が持っている。
「うーん?おそらく、俺は俺と敵対することのない人物を黒ワンコの契約主に選んでいる」
「、、、敵対ね。できればしたくないと心の底から思っているけど」
料理長兼皇弟は本心から言ってるな、これ。
クロウの実力を知っていれば、敵対どころか囲い込みたい気持ちでいっぱいだろう。
けれど、いつか帝国の状況がそれを許さないときが来たときは。だから、できれば。
「俺が指示するのと反対の命令を出さないのが、最低条件だろうな」
「じゃあ、大が、いや、そのセリムくんがその銀ワンコの契約主ではないのはなぜだ?」
おおが、って何を言いかけたんだ?
「そりゃ、セリムを守るための銀ワンコだからだよ」
「うん?」
「セリムが銀ワンコにどんな命令をするか、わからないからね」
「それって私でもわからないだろ」
「別に、ナナキさんがどんな命令をしたところで、自己責任」
俺に責任を振らないでね、と言っているクロウ。
ならば。
「えー?じゃあ、つまりはセリムは自分の身を守るよりクロウを守る方に銀ワンコを使いそうだと?」
料理長の言葉に、コクリと頷くクロウ。
料理長の視線が俺を向く。
「あー、うん。お前になつく大型ワンコだもんなー。自分の身を守るより、愛するクロウを優先させようとしちゃうかもなー」
おおが、って大型ワンコか。もはや隠す気もなくなりやがった。
確かにクロウの身に危険が迫ったら。
「けど、銀ワンコ一匹でクロウを守れるくらいの敵対勢力なら、クロウの戦力だけでどうにかなりそうだけど」
それはそう。不意打ちだとしてもやられそうにない。
「俺を標的にしてくれるならね。物語でも良くあるじゃないか。なぜかどんなに警備を強化していても隙をつかれて攫われるヒロインってヤツが」
「ああ、あるねー。たまに囮でもなければ策略でもないとしたら、馬鹿じゃないかと思うくらいに。物語の定番展開だな」
「銀ワンコでそんな可能性を徹底的にスリ潰す所存です」
「おお、物語としては面白くないかもなー」
「他人の娯楽に応じる気はございませんので、敵対するのなら徹底的に叩き壊すのみ」
「はははー、一番厄介なのは味方ヅラ、善人ヅラで近づいて来るヤツだぞ」
それもそう。
味方だ、良いことをしていると思い込んでいる輩も多いし、本人が善意で近づいているとしてもそれを利用しようとする輩も多い。
「結果的に敵対関係になるのなら、味方側にいようが圧砕しますよ」
「敵が味方側にいるのも、味方が敵側にいるのも鉄板だな」
「この人がまさかっ、という展開ももはや定番」
「イケメンは敵側にいても、たいてい味方になるんだよなー。ていうか、お前らの部隊、全員イケメンじゃねえか。顔で生贄を選んだみたいに」
ヤレヤレ感を出しながら、料理長はクロウと俺を見る。
顔のことになると、どうもクロウは自分とは関係ない感を出して来るが、黒髪でリンク王国では一歩引かれることがあったとしても普通にイケメンである。筋肉好きの帝国人の好みではないのかもしれないが。
クロウが灰色の髪でも、リンク王国王都の街中で歩けば振り返る通行人が多かった。
いや、灰色の髪だからこそ正常な反応として人々が振り返ったと言えるのか。
最近のクロウは第四王子部隊が組まれたときに比べて、磨きがかかっている。より健康的で肌色も艶やかになっている。街中では俺の背に隠しておきたい気分だった。
黒髪は平民でも見るのを避けようとする。
まるで、縁起が悪いものでも見たかのように。
実際、彼らにとってはそうなのだろう。
王都のスラム街にいるのは黒髪が多い。
ならず者も犯罪者も黒髪が多いから、見ない、近づかない方が安全だとされている。
普通に暮らしている者も少なくないというのに。
「クロウ、なぜ黒ワンコを銀色にしたのか?黒も綺麗なのに」
クロウは綺麗だ。
そばに置くのなら。
「そりゃ、お前の銀髪が綺麗だからだよ」
照れもせずにクロウが俺に言った。
「お前だけの特別な銀色だ」
クロウの伝えてくれた言葉が嬉しくて仕方ない。
目つきは悪いが、尻尾をフリフリしている。うん。。。
「、、、クロウ、これ」
「セリムの髪の色に合わせて、銀ワンコにしてみた。是非とももらってくれ」
クロウが俺に嬉しそうに笑顔で勧める。
早朝の食堂。
仲間たちはまだ誰もいないが、厨房には料理人たちがいる。
肩に黒ワンコをのせた料理長がチラチラと視線を送って来る。
彼はあの黒ワンコのこと、帝城の者たちにいつもどう説明しているのだろう?
さて。
テーブルにのった銀ワンコ。
睨まれているようにしか見えないが、近しいものを感じる。だから、あれだけいる黒ワンコのなかからクロウに選ばれたのだろうが。
「ええっと、血の契約をすればいいのか?」
「いや、血の契約は俺とすでに済ませている」
「えっ、噛まれた傷は大丈夫なのかっ」
慌ててクロウの手首を握る。両手には傷がないことを確認したが。
「血を与えただけで、噛まれてはいないよ」
「血を与えたということは、肌に傷をつけたということだろう?」
クロウの黒い瞳が俺を見た。
彼の目が瞬く。
「あー、いや、そうじゃない。心配してくれるのは嬉しいが、空間転移魔法の応用だ。傷をつけなくとも、少量の血なら」
小さな赤い点が俺の目の前に浮かぶ。
「え、」
銀ワンコが飛び跳ねてパクリと食べた。ペロリ。着地してドヤ顔しているのはなぜだ。クロウに仕込まれた芸なのか?
「実践して見せた方がいいと思って。あのくらいの量なら魔法陣がなくとも動かせる」
「あの赤いのは、クロウの血だったのか?」
「そう、俺の血」
「頼むから無理はしないでくれ」
クロウの両手を握って懇願する。
彼は血の一滴も流してはいけない、流させないように守りたいと思っていたのに。
「無理はしてないし、この銀ワンコはセリムを守れる」
「俺はクロウに守られてばかりだな。本当は俺が守りたいのに」
両手を握る手にぎゅっと力をこめた。
視線を上げると、クロウは優しく微笑んでいる。
「守りたいと思ってくれるだけでも嬉しい。だから、俺はお前を失いたくない」
クロウの黒い瞳が、深淵を覗かせた。
俺は息を飲む。
どこまでも深い闇。
どこまでも引き摺り込まれるような。
「セリム、俺にお前を守らせてくれるか」
「俺がクロウを守りたかったけど、力不足は認める。これからも精進してクロウの力になれるように頑張る」
「、、、ということは、クロウは私のことも守りたかったということか」
すぐそばに黒ワンコを肩にのせたニヤニヤ料理長が立っていた。
こちらの黒ワンコはつぶらな瞳で可愛らしい。
「いや?ナナキさんは何を言っているんだ?」
本気でキョトンとした表情で料理長を見るクロウ。
「だって、私にもこの黒ワンコをくれたじゃないかっ」
「その黒ワンコはナナキさんと契約しただろう。ナナキさんの魔力によって、その黒ワンコは力を貸してくれる」
「んーと、あれ?」
料理長は思案顔。
ああ、契約者の関係なのか。
「この銀ワンコは俺と契約して、俺の魔力でセリムを守る」
「ああ、そういうことか。黒ワンコがいるからといってクロウが守ってくれているわけじゃないのかー」
少々ガッカリしたような顔になる料理長。
慰めるようにペチペチ前足で料理長の顔に触れる黒ワンコ。
反対に俺は顔がニヤけそうになるのを全力で防ぐ。
「まあ、一応、黒ワンコたちは俺には絶対服従なんだけど、契約がなくとも」
「、、、んー、それってやっぱり間接的にクロウが守ってくれてるってことじゃないのか」
そもそも、黒ワンコたちはクロウがいなければ人に従うことはないだろう。
今はどんなに可愛い姿に成り果てたとしても。
この黒ワンコたちは凄まじい力を一体一体が持っている。
「うーん?おそらく、俺は俺と敵対することのない人物を黒ワンコの契約主に選んでいる」
「、、、敵対ね。できればしたくないと心の底から思っているけど」
料理長兼皇弟は本心から言ってるな、これ。
クロウの実力を知っていれば、敵対どころか囲い込みたい気持ちでいっぱいだろう。
けれど、いつか帝国の状況がそれを許さないときが来たときは。だから、できれば。
「俺が指示するのと反対の命令を出さないのが、最低条件だろうな」
「じゃあ、大が、いや、そのセリムくんがその銀ワンコの契約主ではないのはなぜだ?」
おおが、って何を言いかけたんだ?
「そりゃ、セリムを守るための銀ワンコだからだよ」
「うん?」
「セリムが銀ワンコにどんな命令をするか、わからないからね」
「それって私でもわからないだろ」
「別に、ナナキさんがどんな命令をしたところで、自己責任」
俺に責任を振らないでね、と言っているクロウ。
ならば。
「えー?じゃあ、つまりはセリムは自分の身を守るよりクロウを守る方に銀ワンコを使いそうだと?」
料理長の言葉に、コクリと頷くクロウ。
料理長の視線が俺を向く。
「あー、うん。お前になつく大型ワンコだもんなー。自分の身を守るより、愛するクロウを優先させようとしちゃうかもなー」
おおが、って大型ワンコか。もはや隠す気もなくなりやがった。
確かにクロウの身に危険が迫ったら。
「けど、銀ワンコ一匹でクロウを守れるくらいの敵対勢力なら、クロウの戦力だけでどうにかなりそうだけど」
それはそう。不意打ちだとしてもやられそうにない。
「俺を標的にしてくれるならね。物語でも良くあるじゃないか。なぜかどんなに警備を強化していても隙をつかれて攫われるヒロインってヤツが」
「ああ、あるねー。たまに囮でもなければ策略でもないとしたら、馬鹿じゃないかと思うくらいに。物語の定番展開だな」
「銀ワンコでそんな可能性を徹底的にスリ潰す所存です」
「おお、物語としては面白くないかもなー」
「他人の娯楽に応じる気はございませんので、敵対するのなら徹底的に叩き壊すのみ」
「はははー、一番厄介なのは味方ヅラ、善人ヅラで近づいて来るヤツだぞ」
それもそう。
味方だ、良いことをしていると思い込んでいる輩も多いし、本人が善意で近づいているとしてもそれを利用しようとする輩も多い。
「結果的に敵対関係になるのなら、味方側にいようが圧砕しますよ」
「敵が味方側にいるのも、味方が敵側にいるのも鉄板だな」
「この人がまさかっ、という展開ももはや定番」
「イケメンは敵側にいても、たいてい味方になるんだよなー。ていうか、お前らの部隊、全員イケメンじゃねえか。顔で生贄を選んだみたいに」
ヤレヤレ感を出しながら、料理長はクロウと俺を見る。
顔のことになると、どうもクロウは自分とは関係ない感を出して来るが、黒髪でリンク王国では一歩引かれることがあったとしても普通にイケメンである。筋肉好きの帝国人の好みではないのかもしれないが。
クロウが灰色の髪でも、リンク王国王都の街中で歩けば振り返る通行人が多かった。
いや、灰色の髪だからこそ正常な反応として人々が振り返ったと言えるのか。
最近のクロウは第四王子部隊が組まれたときに比べて、磨きがかかっている。より健康的で肌色も艶やかになっている。街中では俺の背に隠しておきたい気分だった。
黒髪は平民でも見るのを避けようとする。
まるで、縁起が悪いものでも見たかのように。
実際、彼らにとってはそうなのだろう。
王都のスラム街にいるのは黒髪が多い。
ならず者も犯罪者も黒髪が多いから、見ない、近づかない方が安全だとされている。
普通に暮らしている者も少なくないというのに。
「クロウ、なぜ黒ワンコを銀色にしたのか?黒も綺麗なのに」
クロウは綺麗だ。
そばに置くのなら。
「そりゃ、お前の銀髪が綺麗だからだよ」
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