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1章 敵国の牢獄
1-70 魔導士リーウセン
「さ、さすがは第四王子直属部隊の隊長っ」
「、、、何を感動しているんですか」
不思議そうに見るなっ。
「セリム、なぜナーズ隊長はクロウのあの仕打ちに動じない?何で平然と化け物退治に移行できたんだ?」
「騎士団は普段から魔物や魔獣退治もしますから」
「そうじゃないっ、そうじゃないんだっ、セリムっ」
なぜ私の方が驚かなきゃいけないんだ?
初見のナーズ隊長の方がもっと驚いても良いんじゃないか?
「ああ、説明不足ではあったが普通の護衛じゃないと聞いていたし、普通の修繕工事ならたとえ有能な魔導士でも捕虜を使わないだろう」
ごくごく通常運行なナーズ隊長に答えられてしまった。
、、、コレが王子直属部隊の隊長になる男か。
度量も経験も違うんだな。
ところで、私に向けるクロウの生温かい視線は何なんだっ。
昼休憩の時間。
いつも化け物退治のキリの良いところで休憩になる。
化け物退治と一言で言っても、ただ戦闘するだけではない。
ときには、ただひたすら言葉での説得だったり、好物で釣ったり、交渉することもある。
長引くときは地下で食べながらということもあったが、たいていは大教会の奥の一室を借りて食事する。
「あれ?お弁当箱が三個しかない。入れ忘れたのかなあ。確かに今日から四個と伝えておいたはずなのに」
「手違いがあったのかもしれませんね。では、外で」
セリムが言い終わる前に、私が立ち上がった。
というか、捕虜としてこの国にいる三人が大教会の外に出るのはやめておいた方が良いと思う。
私は率先して提案する。
「私が外で買ってきますっ。ちょっと外の雰囲気を見てみたいので」
「そういや、リーウセンさんって帝国に来てからまだ休日ないですよね。この周辺の飲食店はお高いところが多いですけど、この広場の屋台なら多少お高いものもありますが、お手軽に食べられるものが豊富に揃ってますよ」
クロウが広場の方に手を向けて説明した。
なぜ、そんなに帝都事情に詳しいの?
外、出てるの?
いつも思っているけど、捕虜じゃないの、キミたち?
「ちょっと下ると庶民的なエリアが広がっていますが、初見では好みの店を見つけるのはなかなか難しいでしょう。そちらは今度の休日にでもブラついてみてはいかがですか?」
「そうですね。今日は広場あたりを散策してみます」
確かに目当ての飲食店が決まっていれば、少々遠くても急いで行くことも可能だろうが、不案内な土地でウロウロしていたら昼食もとれずに迷子になりかねない。
そういえば、一人で大教会の外に出るのも初めてだと思いながら、広場に面する大きな扉を開ける。
「うおっっと」
風が入り、喧騒が耳に届く。
朝や夕方に通る広場の雰囲気とは違い、賑やかだ。
「意外と人が来ているんだなあ」
観光客のような者も広場に多くいる。
修繕工事中の大教会内に入って来るのは信者だけだったので、静寂に包まれた空間の外にこれほどいるとは思ってもいなかった。
大教会前には資材が置かれて、振り返ると大教会の建物には足場が組まれており、まだまだ地下部分しか修繕工事は行っていないが、周囲にも大教会の修繕工事が始まっていることをアピールしている。
工事の邪魔にならないようにするためか、屋台は大教会から少し離れたところから並んでいる。
さすがに帝城の門前のスペースにもないが、屋台はこの大きな広場を囲うように並んでいる。
観光客目当ての屋台かと思えば、軍服を着ている者も屋台を訪れているようだ。
ここら辺で働いている地元の者も多く利用している感じである。
お持ち帰りが中心のようだが、広場にところどころに置かれているベンチで食べていく姿も見られる。
匂いも漂ってきて、空腹は刺激される。
近くにある屋台で出来上がる物を見ても、どれも美味しそうだ。
「、、、んーっと」
だが、あまりにも数が多過ぎて選べない。
ここまで自分が優柔不断だったとは。
食べ物一つ決められない自分がいる。
帝国の小銭は持っている。
帝城で両替をしてもらえた。
だから、問題はお金ではない。
使ったことのない屋台という未知の領域に飛び込む怖れ、とかではないことは自分が知っている。
リンク王国にいたときの食事はどうしていたか。
宮廷魔導士団では王宮の食堂を使えば、毎日食事が出てくる。
外に同僚と食べに行くときも、上官と食べに行くときも周囲と同じものを頼んでいた。
子供の頃から家族と外食に行くときは家長の父であるメニューに従っていた。
そもそも、実家で食べるときは料理人が出すものを何も言わずに食べるだけ。
学校に通っていたときは、学食。
友人とともに食事をするときは友人と同じものを。
愕然とする。
この青空の下、自分の視界だけが暗い。
この場に立って、ようやく自分は好きな食べ物が何一つなかったことに気づく。
嫌いなもの、食べられないものがない代わりに、食事というのはただ空腹を満たすだけの作業。
食べたいものなんて何もない。
どれでもいいから、選べない。
与えられたものをただ食べていただけ。
そう、ただ空腹を満たすだけの作業なら、誰も並んでいない屋台から選べばいいだけの話。
それが一番早く空腹を満たす手段だ。
強引に納得させて足を動かす。
とは言っても、これだけ店が多いのに店主だけの屋台というのはこの昼食の時間帯には珍しい。
少なくとも数人の客はどこの屋台にもいる。
そんななかで、街路樹に隠れた屋台に子供だけが一人いるのを見つける。
おそらく店主である親が何かの用で離れてしまったのだろう。
出来合いのものが置いてあるのなら、それでいいか。
私は足取り重くその屋台に向かう。
子供は膝を抱えて屋台の前に座っている。
留守番が大嫌いなのだろうか。泣きそうな顔を必死にこらえているように見えた。
値段が書かれた一枚の紙が台に貼られている。これならボったくられることもないだろうが、出しているメニューがわからない。普段なら作っている物を見て判断できるのかもしれないが。
「この屋台は何を売っているんだ?」
私は少年に声をかける。
少年は私の顔を見たが、自分に聞いていると判断するまでに時間がかかったらしい。
上げた顔がぱあっと輝く。
「オルドロールっだよ、兄ちゃん。焼いた小麦粉生地の薄いパンでここにある具材を包み込んだヤツだよ。うちのソースは三種類から選べるよ」
「へえ、すぐにできるのか?」
「うんっ、生地を温めるねっ」
少年は手際よく台の上の鉄板で円形の薄いパンを温め直している。
他の屋台を見ていると、薄いパンを生地からその場で焼いている。具材もその場で焼いているところが人気があるようで客が群がっている。
肉が人気なようだが、分厚さはお値段次第と言ったところか。
少年が周囲をさまよう私の視線に気づいたのか。
「オルドロールはお昼の定番なんだけど、焼きたてが好きな客が多いんだ」
「食べたことないけど、おいしそうだね」
「食べたことないのっ?超多忙な皇帝でも手で気軽に食べられるという超有名なお手軽フードだぜっ。あ、兄ちゃん、帝国の人じゃないのか?観光っ、ぽくないな、仕事かっ、仕事で帝国に来ているのか?じゃあ、しっかり食べて午後からの仕事がんばれ」
鉄板の上の薄いパンに、これでもかと具材を並べる少年。
この値段じゃ採算が合わなくならないか?
「兄ちゃん、ソースは何にする?」
「何があるんだ?」
「普通の、甘いの、辛いの」
少年は色が違うソースを指さす。
「、、、普通ので」
現地の人はその説明でわかるのか?
普通の味がそもそもわからないのだが。
「ヒセ少年、客がいるじゃないかー、っっと」
男性客がやってきた。
少年の知り合いか。
彼は私を見た。
「おうっ、サザさんっ、この人が今日の客一号だっ」
「ほほーう。頑張ってるヒセ少年よ、五つ持ち帰りで頼む。普通のソースで」
「はいよっ、まいどありっ」
サザさん?
どこかで見たような顔だが、この顔を見て思い出さないことなんてあるか?
遠い昔のことではないと思うのだが?
初老とは感じさせないパワー溢れるイケオジだ。
うーむ。
「クロウに言われてこの屋台に来た、ってわけじゃなさそうだな」
クロウ関連の人?
ニッと笑った顔に見覚えがあるような、、、ないような。
「コイツのと一緒に袋に入れてくれ」
「サザさん、知り合いなのか。よっしゃ、五つとも大盛にしてやるぞっ」
「ほどほどでいいぞー、ほどほどでー」
出来上がりを入れた紙袋をサザさんが受け取り、私に渡した。
「え?」
「クロウたちに差し入れてくれ。クロウは味に文句を言わんだろ。ヒセ少年、ほい」
彼は五個分どころか六個分にも多いお金をヒセ少年に渡している。
慌てて小銭を取り出す。
「私の分を」
「ああ、今日はおごってやるよ。この屋台を見つけたその目に」
手をヒラヒラさせながら去っていった。
何なんだ?
あ、呆気に取られていて自分の分のお礼も言ってなかった。
「ええっと、サザさんって何者?」
「うちの店の常連だよ。あ、城下町にある居酒屋やっているんだ、夜は。冬頃からクロウさんを連れて来るようになったよ」
クロウにサザさんと伝えればわかるかな?
「、、、何を感動しているんですか」
不思議そうに見るなっ。
「セリム、なぜナーズ隊長はクロウのあの仕打ちに動じない?何で平然と化け物退治に移行できたんだ?」
「騎士団は普段から魔物や魔獣退治もしますから」
「そうじゃないっ、そうじゃないんだっ、セリムっ」
なぜ私の方が驚かなきゃいけないんだ?
初見のナーズ隊長の方がもっと驚いても良いんじゃないか?
「ああ、説明不足ではあったが普通の護衛じゃないと聞いていたし、普通の修繕工事ならたとえ有能な魔導士でも捕虜を使わないだろう」
ごくごく通常運行なナーズ隊長に答えられてしまった。
、、、コレが王子直属部隊の隊長になる男か。
度量も経験も違うんだな。
ところで、私に向けるクロウの生温かい視線は何なんだっ。
昼休憩の時間。
いつも化け物退治のキリの良いところで休憩になる。
化け物退治と一言で言っても、ただ戦闘するだけではない。
ときには、ただひたすら言葉での説得だったり、好物で釣ったり、交渉することもある。
長引くときは地下で食べながらということもあったが、たいていは大教会の奥の一室を借りて食事する。
「あれ?お弁当箱が三個しかない。入れ忘れたのかなあ。確かに今日から四個と伝えておいたはずなのに」
「手違いがあったのかもしれませんね。では、外で」
セリムが言い終わる前に、私が立ち上がった。
というか、捕虜としてこの国にいる三人が大教会の外に出るのはやめておいた方が良いと思う。
私は率先して提案する。
「私が外で買ってきますっ。ちょっと外の雰囲気を見てみたいので」
「そういや、リーウセンさんって帝国に来てからまだ休日ないですよね。この周辺の飲食店はお高いところが多いですけど、この広場の屋台なら多少お高いものもありますが、お手軽に食べられるものが豊富に揃ってますよ」
クロウが広場の方に手を向けて説明した。
なぜ、そんなに帝都事情に詳しいの?
外、出てるの?
いつも思っているけど、捕虜じゃないの、キミたち?
「ちょっと下ると庶民的なエリアが広がっていますが、初見では好みの店を見つけるのはなかなか難しいでしょう。そちらは今度の休日にでもブラついてみてはいかがですか?」
「そうですね。今日は広場あたりを散策してみます」
確かに目当ての飲食店が決まっていれば、少々遠くても急いで行くことも可能だろうが、不案内な土地でウロウロしていたら昼食もとれずに迷子になりかねない。
そういえば、一人で大教会の外に出るのも初めてだと思いながら、広場に面する大きな扉を開ける。
「うおっっと」
風が入り、喧騒が耳に届く。
朝や夕方に通る広場の雰囲気とは違い、賑やかだ。
「意外と人が来ているんだなあ」
観光客のような者も広場に多くいる。
修繕工事中の大教会内に入って来るのは信者だけだったので、静寂に包まれた空間の外にこれほどいるとは思ってもいなかった。
大教会前には資材が置かれて、振り返ると大教会の建物には足場が組まれており、まだまだ地下部分しか修繕工事は行っていないが、周囲にも大教会の修繕工事が始まっていることをアピールしている。
工事の邪魔にならないようにするためか、屋台は大教会から少し離れたところから並んでいる。
さすがに帝城の門前のスペースにもないが、屋台はこの大きな広場を囲うように並んでいる。
観光客目当ての屋台かと思えば、軍服を着ている者も屋台を訪れているようだ。
ここら辺で働いている地元の者も多く利用している感じである。
お持ち帰りが中心のようだが、広場にところどころに置かれているベンチで食べていく姿も見られる。
匂いも漂ってきて、空腹は刺激される。
近くにある屋台で出来上がる物を見ても、どれも美味しそうだ。
「、、、んーっと」
だが、あまりにも数が多過ぎて選べない。
ここまで自分が優柔不断だったとは。
食べ物一つ決められない自分がいる。
帝国の小銭は持っている。
帝城で両替をしてもらえた。
だから、問題はお金ではない。
使ったことのない屋台という未知の領域に飛び込む怖れ、とかではないことは自分が知っている。
リンク王国にいたときの食事はどうしていたか。
宮廷魔導士団では王宮の食堂を使えば、毎日食事が出てくる。
外に同僚と食べに行くときも、上官と食べに行くときも周囲と同じものを頼んでいた。
子供の頃から家族と外食に行くときは家長の父であるメニューに従っていた。
そもそも、実家で食べるときは料理人が出すものを何も言わずに食べるだけ。
学校に通っていたときは、学食。
友人とともに食事をするときは友人と同じものを。
愕然とする。
この青空の下、自分の視界だけが暗い。
この場に立って、ようやく自分は好きな食べ物が何一つなかったことに気づく。
嫌いなもの、食べられないものがない代わりに、食事というのはただ空腹を満たすだけの作業。
食べたいものなんて何もない。
どれでもいいから、選べない。
与えられたものをただ食べていただけ。
そう、ただ空腹を満たすだけの作業なら、誰も並んでいない屋台から選べばいいだけの話。
それが一番早く空腹を満たす手段だ。
強引に納得させて足を動かす。
とは言っても、これだけ店が多いのに店主だけの屋台というのはこの昼食の時間帯には珍しい。
少なくとも数人の客はどこの屋台にもいる。
そんななかで、街路樹に隠れた屋台に子供だけが一人いるのを見つける。
おそらく店主である親が何かの用で離れてしまったのだろう。
出来合いのものが置いてあるのなら、それでいいか。
私は足取り重くその屋台に向かう。
子供は膝を抱えて屋台の前に座っている。
留守番が大嫌いなのだろうか。泣きそうな顔を必死にこらえているように見えた。
値段が書かれた一枚の紙が台に貼られている。これならボったくられることもないだろうが、出しているメニューがわからない。普段なら作っている物を見て判断できるのかもしれないが。
「この屋台は何を売っているんだ?」
私は少年に声をかける。
少年は私の顔を見たが、自分に聞いていると判断するまでに時間がかかったらしい。
上げた顔がぱあっと輝く。
「オルドロールっだよ、兄ちゃん。焼いた小麦粉生地の薄いパンでここにある具材を包み込んだヤツだよ。うちのソースは三種類から選べるよ」
「へえ、すぐにできるのか?」
「うんっ、生地を温めるねっ」
少年は手際よく台の上の鉄板で円形の薄いパンを温め直している。
他の屋台を見ていると、薄いパンを生地からその場で焼いている。具材もその場で焼いているところが人気があるようで客が群がっている。
肉が人気なようだが、分厚さはお値段次第と言ったところか。
少年が周囲をさまよう私の視線に気づいたのか。
「オルドロールはお昼の定番なんだけど、焼きたてが好きな客が多いんだ」
「食べたことないけど、おいしそうだね」
「食べたことないのっ?超多忙な皇帝でも手で気軽に食べられるという超有名なお手軽フードだぜっ。あ、兄ちゃん、帝国の人じゃないのか?観光っ、ぽくないな、仕事かっ、仕事で帝国に来ているのか?じゃあ、しっかり食べて午後からの仕事がんばれ」
鉄板の上の薄いパンに、これでもかと具材を並べる少年。
この値段じゃ採算が合わなくならないか?
「兄ちゃん、ソースは何にする?」
「何があるんだ?」
「普通の、甘いの、辛いの」
少年は色が違うソースを指さす。
「、、、普通ので」
現地の人はその説明でわかるのか?
普通の味がそもそもわからないのだが。
「ヒセ少年、客がいるじゃないかー、っっと」
男性客がやってきた。
少年の知り合いか。
彼は私を見た。
「おうっ、サザさんっ、この人が今日の客一号だっ」
「ほほーう。頑張ってるヒセ少年よ、五つ持ち帰りで頼む。普通のソースで」
「はいよっ、まいどありっ」
サザさん?
どこかで見たような顔だが、この顔を見て思い出さないことなんてあるか?
遠い昔のことではないと思うのだが?
初老とは感じさせないパワー溢れるイケオジだ。
うーむ。
「クロウに言われてこの屋台に来た、ってわけじゃなさそうだな」
クロウ関連の人?
ニッと笑った顔に見覚えがあるような、、、ないような。
「コイツのと一緒に袋に入れてくれ」
「サザさん、知り合いなのか。よっしゃ、五つとも大盛にしてやるぞっ」
「ほどほどでいいぞー、ほどほどでー」
出来上がりを入れた紙袋をサザさんが受け取り、私に渡した。
「え?」
「クロウたちに差し入れてくれ。クロウは味に文句を言わんだろ。ヒセ少年、ほい」
彼は五個分どころか六個分にも多いお金をヒセ少年に渡している。
慌てて小銭を取り出す。
「私の分を」
「ああ、今日はおごってやるよ。この屋台を見つけたその目に」
手をヒラヒラさせながら去っていった。
何なんだ?
あ、呆気に取られていて自分の分のお礼も言ってなかった。
「ええっと、サザさんって何者?」
「うちの店の常連だよ。あ、城下町にある居酒屋やっているんだ、夜は。冬頃からクロウさんを連れて来るようになったよ」
クロウにサザさんと伝えればわかるかな?
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