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1章 敵国の牢獄
1-74 愛する者との行為
「、、、己の意志を貫いて帰りたいときに帰りなよ、って俺、一応言わなかったっけ?」
「ううっ、、、」
私は青ざめた顔で口元を押さえる。
気持ち悪い。
吐きそう。
クロウがそっとバケツを私に渡した。
バケツをどこから出した。
ありがたく借りるけど。
「何時まで飲んでたんだ?」
吐いたら少し楽になった。
昨晩のクロウは宣言通り、サザさんに二時間ほど付き合ったら消え失せた。私は置いていかれたとも言う。
「早朝まで。帝城に戻って、シャワーを浴びて着替えたら、もう出勤時間だった」
「早朝?もう完全な朝じゃないか、それ」
「けど、私は空間転移魔法を使えないし、サザさんと一緒にいなきゃ帝城に戻れない」
クロウはいつのまにか帰っていたし。
「ん?普通に歩いて帰れば?」
「帝城は出入チェックが厳しい。入場記録があるのに出場記録がないにも関わらず、外から帰ってきたらどう思われると思う?」
「ごくごく普通に空間転移魔法を使ったんだなあとしか思わないと思うけど」
「そもそも、帝城の敷地内では並大抵の空間転移魔法は使えない」
「うん?」
クロウがまったく理解してない。不思議そうな表情を浮かべたままだ。
「防犯上、空間転移魔法が使えないようにされている」
クロウが教会の壁で見えないのに、帝城の方向に視線を移す。
「え?アレで?」
「ええ、アレで」
クロウが言いたいことはなんとなくわかる。クロウにとってはあれはアレくらいのレベルなんだろうけど。
ごくごく普通一般レベルの魔導士の私では絶対に空間転移魔法を発動できない。
「しょうがないなあ。はい」
クロウが布を渡してきたので、コレで汚れた口元でも拭けってことかなと思って素直に受け取った。
簡単に受け取ってしまった。
ハンカチにしては少し大きいので布を広げてしまったら。
「、、、この魔法陣は」
「俺が改良した空間転移魔法陣だよ。ここの教会にこっそり設置した空間転移魔法陣に飛べるから、帝城の自分の部屋に置いてこっそり使って」
ぬおおおおおおおーーーーーーーーっ。
「こここここんな大層なものをあっさりとっ」
「近距離だからそこまでの魔力量は必要ないから、リーウセンさんでも使えますよー、たぶん」
たぶんって何なんだよ。
サザさんに付き合うくらいなら、魔力回復薬を飲んでも帰ってやるぞ。
一回で懲りたぞ。
でも、あの皇帝には絶対また拉致られる。そんな予感がする。
だから、きっとクロウも渡してくれたのだ。
同情でも何でもいい。感謝しかない。
「俺もこっそりベッドの敷布に使って抜け出しているから。リーウセンさんも部屋から出るときは、きちんと隠しておくんだよ」
共犯者扱いかな?
それでもいい。
「クロウ、二日酔いの薬は持ってない?」
「飲酒は原則的に牢獄で許されてないから、、、」
あ、作る必要性がない物は持ってないと。
原則的に、とわざわざ言ったのが気になるけど。
「在庫もなあー。記憶ないんだよなあー」
クロウの視線がどこかを見ていたが、諦めたようで首を横に振る。
「リーウセン、水をもらってきました。どうぞ」
爽やか爽やかなキラキライケメンがグラスを差し出した。
寝不足二日酔いの朝には眩し過ぎる。
「ありがとう、ルッツ副隊長」
「どういたしまして」
何だ、この爽やかさ。
初対面ではないが、久々に会って醜態をさらす私はどう思われているのだろう。
事情をわかっていそうなセリムは私のことを完全放置しているというのに。
あー、冷たい水が生き返る。
「リーウセンさん、吐き気、気持ち悪さなら胃腸薬か、頭痛がひどいなら頭痛薬を飲むという選択肢もありますが」
「ううっ、クロウ様ー、胃腸薬をくださいー」
お恵みをー。ご慈悲をー。
「あ、」
セリムが、あ、と言った。
今まで何の反応もしなかった男が。
「え?何?」
「クロウは敬称に様をつけられたり、大魔導士様と呼ばれることをものすごく嫌がる」
うおおおおっ、ご親切にどうもっ。
クロウが本気で嫌がるから、セリムがわざわざご忠告してくれたのだ。
クロウのためのセリムの行動っ。今後は注意しろという意志を込めて。
クロウは笑顔のままなのに、背後の空気が一気に黒くなっているのがわかる。
「あ、あのクロウ、以後気をつけますので、、、」
「今回はすべてサザさんのせいだし、具合悪い者にそこまで本気で腹立てない。ほら、胃腸薬」
裏を返せば、私が具合悪くなかったら本気で怒っていたということですね。
残念ながら、まだ軽口をたたくほど親しい仲には発展してない。
渡された胃腸薬は粉状。三角に折られた紙に包まれていた。
残っていた水で一気に飲む。
「リーウセンさん、午前中は休んでいてください。寝不足で怪我されても困りますので」
「面目ない」
「いえ、元々セリムと二人でやっていたことなので大丈夫ですよ」
クロウが笑顔で言った。
ううっ、心が痛い。
気遣いのはずの言葉が胸に刺さる。
なぜか顔を曇らせたのは、ルッツ副隊長もだ。
「それに今日は副隊長に現場を説明しますから、午後からお願いしますね」
水分取って汚名返上するぞー。
今回はサザさんのせいにしてくれたが、同じ失敗を繰り返したらクロウに見切りをつけられてしまう。
そうならないよう。
修繕工事の道具やら備品やら置かれているスペースにあるイスを、信者たちからは見えないように並べて寝る。
懺悔室に入る者もそんなにいないだろうし、気づかれないだろう。
すやすやすやすやすや。
話し声が微かに聞こえる。
パタン、と小さく扉が閉じた音がした。
ん?
私は視線を動かし辺りを見渡す。
工事関係者が来たのかと思ったが、誰もいない。
気のせいか。
ゆっくりと身体を起こす。
身体を動かす。
二日酔いの気持ち悪さはすっかりなくなっている。
クロウの薬の効果は素晴らしい。
「今、何時だ?」
昼時になればクロウたちが戻ってくるだろう。
「今は十時頃ですよ、リーウセン様」
うおぅっ、返事が返って来るとは思わなかった。
スッキリとした気分になっているが、クロウが戻って来る時間にはまだ遠い。
「きょ、教会長っ、どうしてここに」
「具合が悪いとお聞きしておりまして、お水でもいかがです?」
「あ、ありがとうございます」
ぐびぐびぐび。
ん?水にしては甘い感じが舌に残る。
何かシロップ薬でも混ぜてくれたのだろうか?
クロウが、というよりルッツ副隊長が水をもらうときに伝えてくれていたんだろうと推測する。
「ところで、ここにいたということは見ました?」
「え?」
教会長が笑顔で問うてきた。
私は何か見てはならないものの現場に居合わせてしまったのか?
教会長の笑顔の圧に、顔が引きつっているのが自分でわかる。
「あ、クロウの薬を飲んで寝ていたので、つい先程、目覚めたばかりで」
「そうですか、そうですか、顔色は良くなりましたね。けれど、取り繕わなくても大丈夫ですよ。私も鍵を持っていますので」
鍵?
どこの?
教会長にぐいぐいと背中を押されて、懺悔室の一室に押し込まれる。
教会長も一緒に入って来て、、、鍵を閉められた。
密室なんですが。ぎゅうぎゅうなんですが。教会長は何がしたいんですか?
教会長が中にある小さなカーテンを開ける。
小窓から見えたのは。
「えっ」
バッと慌てて口を押えるが、教会長が笑顔で応える。
「大丈夫です。こちら側の声や音は操作しなければあちらに届きませんし、窓はこちらからしか見えません」
「なっ、なぜっ」
こんなことを教会長はするのか。
「だって、リーウセン様はラウトリスのことが好きなのでしょう。同じ感情を持つ者同士、共有しなくては」
同じ感情ということは、教会長も。
聞きたいことは山ほど生まれているのに、視線は窓から離れられない。
ラウトリスの乱れた姿から目が離せなかった。
「ううっ、、、」
私は青ざめた顔で口元を押さえる。
気持ち悪い。
吐きそう。
クロウがそっとバケツを私に渡した。
バケツをどこから出した。
ありがたく借りるけど。
「何時まで飲んでたんだ?」
吐いたら少し楽になった。
昨晩のクロウは宣言通り、サザさんに二時間ほど付き合ったら消え失せた。私は置いていかれたとも言う。
「早朝まで。帝城に戻って、シャワーを浴びて着替えたら、もう出勤時間だった」
「早朝?もう完全な朝じゃないか、それ」
「けど、私は空間転移魔法を使えないし、サザさんと一緒にいなきゃ帝城に戻れない」
クロウはいつのまにか帰っていたし。
「ん?普通に歩いて帰れば?」
「帝城は出入チェックが厳しい。入場記録があるのに出場記録がないにも関わらず、外から帰ってきたらどう思われると思う?」
「ごくごく普通に空間転移魔法を使ったんだなあとしか思わないと思うけど」
「そもそも、帝城の敷地内では並大抵の空間転移魔法は使えない」
「うん?」
クロウがまったく理解してない。不思議そうな表情を浮かべたままだ。
「防犯上、空間転移魔法が使えないようにされている」
クロウが教会の壁で見えないのに、帝城の方向に視線を移す。
「え?アレで?」
「ええ、アレで」
クロウが言いたいことはなんとなくわかる。クロウにとってはあれはアレくらいのレベルなんだろうけど。
ごくごく普通一般レベルの魔導士の私では絶対に空間転移魔法を発動できない。
「しょうがないなあ。はい」
クロウが布を渡してきたので、コレで汚れた口元でも拭けってことかなと思って素直に受け取った。
簡単に受け取ってしまった。
ハンカチにしては少し大きいので布を広げてしまったら。
「、、、この魔法陣は」
「俺が改良した空間転移魔法陣だよ。ここの教会にこっそり設置した空間転移魔法陣に飛べるから、帝城の自分の部屋に置いてこっそり使って」
ぬおおおおおおおーーーーーーーーっ。
「こここここんな大層なものをあっさりとっ」
「近距離だからそこまでの魔力量は必要ないから、リーウセンさんでも使えますよー、たぶん」
たぶんって何なんだよ。
サザさんに付き合うくらいなら、魔力回復薬を飲んでも帰ってやるぞ。
一回で懲りたぞ。
でも、あの皇帝には絶対また拉致られる。そんな予感がする。
だから、きっとクロウも渡してくれたのだ。
同情でも何でもいい。感謝しかない。
「俺もこっそりベッドの敷布に使って抜け出しているから。リーウセンさんも部屋から出るときは、きちんと隠しておくんだよ」
共犯者扱いかな?
それでもいい。
「クロウ、二日酔いの薬は持ってない?」
「飲酒は原則的に牢獄で許されてないから、、、」
あ、作る必要性がない物は持ってないと。
原則的に、とわざわざ言ったのが気になるけど。
「在庫もなあー。記憶ないんだよなあー」
クロウの視線がどこかを見ていたが、諦めたようで首を横に振る。
「リーウセン、水をもらってきました。どうぞ」
爽やか爽やかなキラキライケメンがグラスを差し出した。
寝不足二日酔いの朝には眩し過ぎる。
「ありがとう、ルッツ副隊長」
「どういたしまして」
何だ、この爽やかさ。
初対面ではないが、久々に会って醜態をさらす私はどう思われているのだろう。
事情をわかっていそうなセリムは私のことを完全放置しているというのに。
あー、冷たい水が生き返る。
「リーウセンさん、吐き気、気持ち悪さなら胃腸薬か、頭痛がひどいなら頭痛薬を飲むという選択肢もありますが」
「ううっ、クロウ様ー、胃腸薬をくださいー」
お恵みをー。ご慈悲をー。
「あ、」
セリムが、あ、と言った。
今まで何の反応もしなかった男が。
「え?何?」
「クロウは敬称に様をつけられたり、大魔導士様と呼ばれることをものすごく嫌がる」
うおおおおっ、ご親切にどうもっ。
クロウが本気で嫌がるから、セリムがわざわざご忠告してくれたのだ。
クロウのためのセリムの行動っ。今後は注意しろという意志を込めて。
クロウは笑顔のままなのに、背後の空気が一気に黒くなっているのがわかる。
「あ、あのクロウ、以後気をつけますので、、、」
「今回はすべてサザさんのせいだし、具合悪い者にそこまで本気で腹立てない。ほら、胃腸薬」
裏を返せば、私が具合悪くなかったら本気で怒っていたということですね。
残念ながら、まだ軽口をたたくほど親しい仲には発展してない。
渡された胃腸薬は粉状。三角に折られた紙に包まれていた。
残っていた水で一気に飲む。
「リーウセンさん、午前中は休んでいてください。寝不足で怪我されても困りますので」
「面目ない」
「いえ、元々セリムと二人でやっていたことなので大丈夫ですよ」
クロウが笑顔で言った。
ううっ、心が痛い。
気遣いのはずの言葉が胸に刺さる。
なぜか顔を曇らせたのは、ルッツ副隊長もだ。
「それに今日は副隊長に現場を説明しますから、午後からお願いしますね」
水分取って汚名返上するぞー。
今回はサザさんのせいにしてくれたが、同じ失敗を繰り返したらクロウに見切りをつけられてしまう。
そうならないよう。
修繕工事の道具やら備品やら置かれているスペースにあるイスを、信者たちからは見えないように並べて寝る。
懺悔室に入る者もそんなにいないだろうし、気づかれないだろう。
すやすやすやすやすや。
話し声が微かに聞こえる。
パタン、と小さく扉が閉じた音がした。
ん?
私は視線を動かし辺りを見渡す。
工事関係者が来たのかと思ったが、誰もいない。
気のせいか。
ゆっくりと身体を起こす。
身体を動かす。
二日酔いの気持ち悪さはすっかりなくなっている。
クロウの薬の効果は素晴らしい。
「今、何時だ?」
昼時になればクロウたちが戻ってくるだろう。
「今は十時頃ですよ、リーウセン様」
うおぅっ、返事が返って来るとは思わなかった。
スッキリとした気分になっているが、クロウが戻って来る時間にはまだ遠い。
「きょ、教会長っ、どうしてここに」
「具合が悪いとお聞きしておりまして、お水でもいかがです?」
「あ、ありがとうございます」
ぐびぐびぐび。
ん?水にしては甘い感じが舌に残る。
何かシロップ薬でも混ぜてくれたのだろうか?
クロウが、というよりルッツ副隊長が水をもらうときに伝えてくれていたんだろうと推測する。
「ところで、ここにいたということは見ました?」
「え?」
教会長が笑顔で問うてきた。
私は何か見てはならないものの現場に居合わせてしまったのか?
教会長の笑顔の圧に、顔が引きつっているのが自分でわかる。
「あ、クロウの薬を飲んで寝ていたので、つい先程、目覚めたばかりで」
「そうですか、そうですか、顔色は良くなりましたね。けれど、取り繕わなくても大丈夫ですよ。私も鍵を持っていますので」
鍵?
どこの?
教会長にぐいぐいと背中を押されて、懺悔室の一室に押し込まれる。
教会長も一緒に入って来て、、、鍵を閉められた。
密室なんですが。ぎゅうぎゅうなんですが。教会長は何がしたいんですか?
教会長が中にある小さなカーテンを開ける。
小窓から見えたのは。
「えっ」
バッと慌てて口を押えるが、教会長が笑顔で応える。
「大丈夫です。こちら側の声や音は操作しなければあちらに届きませんし、窓はこちらからしか見えません」
「なっ、なぜっ」
こんなことを教会長はするのか。
「だって、リーウセン様はラウトリスのことが好きなのでしょう。同じ感情を持つ者同士、共有しなくては」
同じ感情ということは、教会長も。
聞きたいことは山ほど生まれているのに、視線は窓から離れられない。
ラウトリスの乱れた姿から目が離せなかった。
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