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2章 帝国の呪い
2-13 鬼のいぬ間の見習たち
アッシェン大商会のシエルド様とその叔父たちが罵り始、、、話し始めたので、クロウ様がこの場をいったん休憩にした。
クロウ様が彼らを押し出して別の部屋に行った。
そちらについていく従者と護衛と英雄ポシュ様。
大きな声が小さく遠のいていく。
実際、ポシュ様がこの部屋に残されていたら普段のような会話はできなかったに違いない。
帝都だけでなく帝国を救った英雄。
ポシュ様もクロウ様の薬作りを手伝うために来ている。
新聞で騒がれていた、魔法が使えなくなったというのは本当のようだ。
おそらく別の技能を手に入れるための準備、魔法以外に適性があるものを探しているというところか。
彼はまだ若い。俺たちとさほど変わらない。
それでも、世界最高峰とまで言われた才能が消し飛んでしまったのに腐らず、すでに前を向いているかのようだ。
いろいろ話は聞いてみたいのだが、薬師見習として呼ばれた身。
今後慣れてきたら話す機会もあるかもしれない。それまでは辛抱だ。
俺の勤務している薬工房はこの大教会から少々遠く、毎日通うのは大変だと思ったが、このような話が今後舞い込んで来ることはないだろう。もしかすると試験勉強に遅れが生じることも考えないわけではなかったが、他国の技術を見ておくことは今後のためにもなる、と思った。
「魔導士が薬を作ると、ああなるんだな」
俺は正直な感想を口にした。
「凄まじい速度だった。同時並行でいろいろやっているから、目で追いかけるのがやっと。メモも中途半端にしかとれなかった」
「けど、ポシュ様のメモ、びっちり書かれていたぞ。あの動き、目で追いかけられたんだな」
「そりゃ、英雄とまで呼ばれた人なんだから、魔法が使えなくても身体能力自体高いんだろ」
別々の工房から今日は三人、薬師見習が来ている。
これで全員なのかわからないが、他の工房の薬師見習と話す機会なんてほとんどないので新鮮だ。
ポシュ様のメモまで目に入らなかった。
後で見せてもらえないかな。。。
「いや、キミらはまだ薬の作り方を知っているから、ある程度何をしていたのか想像はついたと思うけど、俺、あの草や葉や枝が何なのか、何もわからなかったからね。あんな風に、水や火や風の属性魔法を同時並行して使える魔導士なんて、帝国にだってそんなにいないよ。何で魔法薬でもなくて一般薬作っているのか不思議なくらいだったよ」
魔導士見習の子が冷たいお茶を飲んだ後、一気に喋った。
「魔法薬の方が、、、高く売れるんだよね」
「普通は。効果が低いなら安く買い叩かれることもあるが、アレくらい滑らかに魔法が使える魔導士だったら魔法薬の効果だって高いはずだ。魔法薬を作った方が遥かに儲けられるのに」
「、、、お金のためじゃないとか?」
「後進を育てるためとか?」
「だから、薬師見習を呼んだのか」
薬師は薬師でプライドが高いからかもしれない。
自分の作る薬が絶対だ、と言って融通が利かない薬師も多い。
他の薬師を手伝う、というのは工房主である薬師を手伝うときくらいのもので、他の工房に協力することはない。
帝国の薬師は試験のテキストに書かれている薬の作り方が基本にある。
そこから自分の付加価値を高めるのだが、たいして変わらない。多少、何かを加えたり減らしたりしているようだが、薬の基本は変わらないのだ。
効能が低い薬を作る薬師はどこかの工程において手を抜いている。基本を忠実にできない薬師は薬に影響が出るとまで言われている。
「腰痛薬って、あれらの薬草使ったっけ?」
「材料自体、そこらで手に入るものだったが、テキストには書かれてない」
「別の薬には普通に使用されているポピュラーな薬草だけどね」
三人の薬師見習で視線を交わす。
置き去りにされた腰痛の飲み薬の小瓶がそこに。
「魔導士のように鑑定魔法が使えれば良かったのに」
「ごめん、俺、そんな高等魔法使えない。まだ見習だから」
「腰痛持ちの人ー?」
この四人では誰もいない。
成人前後でまだまだ若いし、腰を痛めているような動きをしているわけでもなかった。
「あのシエルド様が見つけて、こんな設備作っちゃうくらいだから、効果は高いんだろうな」
大鍋いっぱいの腰痛薬。
大量に積まれた材料の箱。
売れると思わなければ、こんなことしない。
「あの人、金儲けじゃないと動かないって言われているけど、この大教会を大修繕するくらいだから実際のところは違うんじゃないか?」
「でも、うちの工房でプライドだけ高くて効能の低い薬しか作れない薬師を追い出したし」
「あの人、容赦ないよな。向上心ある薬師なら這い上がっていくけど」
シエルド様に一度叩き潰された人の方が成長するという噂は聞いたことがあるが、本当だろうか?
確かに、この話は自分が成長する良い機会なんだが。
「あのさあ、さっきもシエルド様に聞いたけど、俺たち、ここに必要だと思うか?」
シエルド様は返答を濁されたが。
「手伝うことが何もない気がする」
「魔法で後片付けも綺麗にしてくれているし」
使用した作業場がすでに綺麗に輝いている。
薬師見習がすることすべてが魔法で片付けられてしまっている。
あのとき驚いたのはシエルド様と見習だけ。
シエルド様はクロウ様の作った薬を見たことはあっても、作っているところを見たことはなかったのだろう。
頭を抱えていた。
そんな姿を見るのは初だ。
ポシュ様も護衛もごくごく平然と対応していたように見える。
まるで当たり前の光景のように。
「二人は守秘義務の契約したか?」
薬師見習の二人に聞いたのだが、魔導士見習の一人も頷く。
全員しているんだな。
「何しているかわからないんじゃ洩らしようがないけど」
「しかも、アレ、普通の薬師には真似できないだろ」
「魔導士を雇うとしたら薬師を雇うより高いから普通の工房には無理だろ」
「いや、生半可な魔導士じゃダメだろ。アレは相当な実力のある魔導士じゃなきゃ無理。必要なのは帝国が囲うレベルの魔導士だ」
それは普通の薬工房には絶対に無理という結論になる。
「んー、でも、俺は続けたいんだけど」
前向きな発言をする者がいた。
「だってさ、別に特別な材料を使っているわけじゃなかったんだ。そういうわかるところからやっていけばいいと思うんだよ。見習なんだから一人前の力量で仕事できるとはシエルド様も思ってるはずもない。できるだけ早く即戦力になってほしいなーとは期待しているだろうけど、それでもさ、こういうことに声を掛けられる機会なんて次はないと思うんだ。材料や製法がまったく異なっていても、同じ効能になるような薬があるのなら、知ることから始めないと損だと思うんだよ」
「そ、そうだよな。薬師のあのテキストだって、最初は何書いてあるのかさっぱりわからなかったし、知ることから始めないと」
「でも、俺たちが労働力を提供できないのなら、ここは単なる教室だ。居続けたいなら、その辺を何とかしないと」
うーむ、と考える。
俺たちはここに来ることで報酬をもらう。
それで工房主は新しい見習を雇える。
試験に受かって薬師になった瞬間に独立できるほどこの世界は甘くないが、見習をやっていた工房でそのまま薬師として働き続けられるのは、運良く欠員が出たか、工房主に相当気に入られたかどちらかだ。
今は薬師の試験を突破できたからといって安泰の仕事でもない。
それでも、見習にならなければ薬師に通じる道も開けない。
そんなことは見習である俺にもわかっている。
さすがにシエルド様も何も動けない薬師見習をそのまま雇い続けることはない。
今ならまだしも、工房で新しい見習を雇った後に午後もいることになったら。
もし、新しい見習の方が優秀なら。
決断を先延ばししても良いことはない。
「じゃあ、ポシュ様にテキストの基本知識を教えるとか」
「三人で?一人ずつ持ち回りで充分だろうな、それ」
「今の俺たちができることを、とりあえず箇条書きしてみよう」
「何か提案できることがあればいいけど」
「なら、薬師見習でしている仕事だけじゃなくて、家や学校、他にしていたことでも、とりあえず列記していこう。何かできること、してもらいたいことがきっとあるはずだ」
薬師見習の三人がメモに書いていると、魔導士見習も書き始めていた。
このとき、クロウ様が座っていたイスのところに俺たちを温かく見守る目があったことなんて知らないし、白ワンコや黒ワンコがにょこにょこ出入りしていたことなんて俺たちは知るはずもなかった。
クロウ様が彼らを押し出して別の部屋に行った。
そちらについていく従者と護衛と英雄ポシュ様。
大きな声が小さく遠のいていく。
実際、ポシュ様がこの部屋に残されていたら普段のような会話はできなかったに違いない。
帝都だけでなく帝国を救った英雄。
ポシュ様もクロウ様の薬作りを手伝うために来ている。
新聞で騒がれていた、魔法が使えなくなったというのは本当のようだ。
おそらく別の技能を手に入れるための準備、魔法以外に適性があるものを探しているというところか。
彼はまだ若い。俺たちとさほど変わらない。
それでも、世界最高峰とまで言われた才能が消し飛んでしまったのに腐らず、すでに前を向いているかのようだ。
いろいろ話は聞いてみたいのだが、薬師見習として呼ばれた身。
今後慣れてきたら話す機会もあるかもしれない。それまでは辛抱だ。
俺の勤務している薬工房はこの大教会から少々遠く、毎日通うのは大変だと思ったが、このような話が今後舞い込んで来ることはないだろう。もしかすると試験勉強に遅れが生じることも考えないわけではなかったが、他国の技術を見ておくことは今後のためにもなる、と思った。
「魔導士が薬を作ると、ああなるんだな」
俺は正直な感想を口にした。
「凄まじい速度だった。同時並行でいろいろやっているから、目で追いかけるのがやっと。メモも中途半端にしかとれなかった」
「けど、ポシュ様のメモ、びっちり書かれていたぞ。あの動き、目で追いかけられたんだな」
「そりゃ、英雄とまで呼ばれた人なんだから、魔法が使えなくても身体能力自体高いんだろ」
別々の工房から今日は三人、薬師見習が来ている。
これで全員なのかわからないが、他の工房の薬師見習と話す機会なんてほとんどないので新鮮だ。
ポシュ様のメモまで目に入らなかった。
後で見せてもらえないかな。。。
「いや、キミらはまだ薬の作り方を知っているから、ある程度何をしていたのか想像はついたと思うけど、俺、あの草や葉や枝が何なのか、何もわからなかったからね。あんな風に、水や火や風の属性魔法を同時並行して使える魔導士なんて、帝国にだってそんなにいないよ。何で魔法薬でもなくて一般薬作っているのか不思議なくらいだったよ」
魔導士見習の子が冷たいお茶を飲んだ後、一気に喋った。
「魔法薬の方が、、、高く売れるんだよね」
「普通は。効果が低いなら安く買い叩かれることもあるが、アレくらい滑らかに魔法が使える魔導士だったら魔法薬の効果だって高いはずだ。魔法薬を作った方が遥かに儲けられるのに」
「、、、お金のためじゃないとか?」
「後進を育てるためとか?」
「だから、薬師見習を呼んだのか」
薬師は薬師でプライドが高いからかもしれない。
自分の作る薬が絶対だ、と言って融通が利かない薬師も多い。
他の薬師を手伝う、というのは工房主である薬師を手伝うときくらいのもので、他の工房に協力することはない。
帝国の薬師は試験のテキストに書かれている薬の作り方が基本にある。
そこから自分の付加価値を高めるのだが、たいして変わらない。多少、何かを加えたり減らしたりしているようだが、薬の基本は変わらないのだ。
効能が低い薬を作る薬師はどこかの工程において手を抜いている。基本を忠実にできない薬師は薬に影響が出るとまで言われている。
「腰痛薬って、あれらの薬草使ったっけ?」
「材料自体、そこらで手に入るものだったが、テキストには書かれてない」
「別の薬には普通に使用されているポピュラーな薬草だけどね」
三人の薬師見習で視線を交わす。
置き去りにされた腰痛の飲み薬の小瓶がそこに。
「魔導士のように鑑定魔法が使えれば良かったのに」
「ごめん、俺、そんな高等魔法使えない。まだ見習だから」
「腰痛持ちの人ー?」
この四人では誰もいない。
成人前後でまだまだ若いし、腰を痛めているような動きをしているわけでもなかった。
「あのシエルド様が見つけて、こんな設備作っちゃうくらいだから、効果は高いんだろうな」
大鍋いっぱいの腰痛薬。
大量に積まれた材料の箱。
売れると思わなければ、こんなことしない。
「あの人、金儲けじゃないと動かないって言われているけど、この大教会を大修繕するくらいだから実際のところは違うんじゃないか?」
「でも、うちの工房でプライドだけ高くて効能の低い薬しか作れない薬師を追い出したし」
「あの人、容赦ないよな。向上心ある薬師なら這い上がっていくけど」
シエルド様に一度叩き潰された人の方が成長するという噂は聞いたことがあるが、本当だろうか?
確かに、この話は自分が成長する良い機会なんだが。
「あのさあ、さっきもシエルド様に聞いたけど、俺たち、ここに必要だと思うか?」
シエルド様は返答を濁されたが。
「手伝うことが何もない気がする」
「魔法で後片付けも綺麗にしてくれているし」
使用した作業場がすでに綺麗に輝いている。
薬師見習がすることすべてが魔法で片付けられてしまっている。
あのとき驚いたのはシエルド様と見習だけ。
シエルド様はクロウ様の作った薬を見たことはあっても、作っているところを見たことはなかったのだろう。
頭を抱えていた。
そんな姿を見るのは初だ。
ポシュ様も護衛もごくごく平然と対応していたように見える。
まるで当たり前の光景のように。
「二人は守秘義務の契約したか?」
薬師見習の二人に聞いたのだが、魔導士見習の一人も頷く。
全員しているんだな。
「何しているかわからないんじゃ洩らしようがないけど」
「しかも、アレ、普通の薬師には真似できないだろ」
「魔導士を雇うとしたら薬師を雇うより高いから普通の工房には無理だろ」
「いや、生半可な魔導士じゃダメだろ。アレは相当な実力のある魔導士じゃなきゃ無理。必要なのは帝国が囲うレベルの魔導士だ」
それは普通の薬工房には絶対に無理という結論になる。
「んー、でも、俺は続けたいんだけど」
前向きな発言をする者がいた。
「だってさ、別に特別な材料を使っているわけじゃなかったんだ。そういうわかるところからやっていけばいいと思うんだよ。見習なんだから一人前の力量で仕事できるとはシエルド様も思ってるはずもない。できるだけ早く即戦力になってほしいなーとは期待しているだろうけど、それでもさ、こういうことに声を掛けられる機会なんて次はないと思うんだ。材料や製法がまったく異なっていても、同じ効能になるような薬があるのなら、知ることから始めないと損だと思うんだよ」
「そ、そうだよな。薬師のあのテキストだって、最初は何書いてあるのかさっぱりわからなかったし、知ることから始めないと」
「でも、俺たちが労働力を提供できないのなら、ここは単なる教室だ。居続けたいなら、その辺を何とかしないと」
うーむ、と考える。
俺たちはここに来ることで報酬をもらう。
それで工房主は新しい見習を雇える。
試験に受かって薬師になった瞬間に独立できるほどこの世界は甘くないが、見習をやっていた工房でそのまま薬師として働き続けられるのは、運良く欠員が出たか、工房主に相当気に入られたかどちらかだ。
今は薬師の試験を突破できたからといって安泰の仕事でもない。
それでも、見習にならなければ薬師に通じる道も開けない。
そんなことは見習である俺にもわかっている。
さすがにシエルド様も何も動けない薬師見習をそのまま雇い続けることはない。
今ならまだしも、工房で新しい見習を雇った後に午後もいることになったら。
もし、新しい見習の方が優秀なら。
決断を先延ばししても良いことはない。
「じゃあ、ポシュ様にテキストの基本知識を教えるとか」
「三人で?一人ずつ持ち回りで充分だろうな、それ」
「今の俺たちができることを、とりあえず箇条書きしてみよう」
「何か提案できることがあればいいけど」
「なら、薬師見習でしている仕事だけじゃなくて、家や学校、他にしていたことでも、とりあえず列記していこう。何かできること、してもらいたいことがきっとあるはずだ」
薬師見習の三人がメモに書いていると、魔導士見習も書き始めていた。
このとき、クロウ様が座っていたイスのところに俺たちを温かく見守る目があったことなんて知らないし、白ワンコや黒ワンコがにょこにょこ出入りしていたことなんて俺たちは知るはずもなかった。
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